悠遠の誓い

angel

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14章

ゆったりと

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目覚ましもかけずに目が覚めたら起き、眠くなったら眠る。時間にとらわれない生活は前までが嘘のようにオレの寝起きもよくなった。
お腹がすいたら一緒に何かを作る。めんどくさい時はインスタント麺に卵だけって時もある。
ばぁちゃんに習ったパン作りは、いい指のリハビリになった。発酵したパン生地は手触りが気持ちよくって、動きの悪い右手も使って丸めていくんだ。ちょっとくらい不格好でも構わない。

お掃除も手伝う。大きな家具は海瑠がどけてくれてオレはフワフワモップで家具の上のホコリを落とす係だ。床を掃くのはお掃除ロボット、床を拭くのは拭き掃除ロボットだ。それぞれの上にアルパカのぬいぐるみを固定してあるので、掃除風景なのにまるで遊んでるみたいなんだ。

時計は壁にかかってるけどほとんど見ない。太陽の傾きや明るさやお腹のすき具合で行動する生活はオレの事件後遺症にもよかったみたいで、最近は怖い夢もめったに見なくなってた。
あんなに欲しかった携帯電話も充電が切れてどこかの引き出しにしまったままだ。

夕方になったらお風呂に入り、たまに…海瑠にアレのお手伝いをしてもらう。あの日見たチンアナゴには触れないでいてくれた海瑠。オレはもうチンアナゴは使わない。海瑠の手だけで十分イケちゃうから。
してもらうばっかりじゃ悪いし、何より恥ずかしいからオレもするって言うのに、こいつは絶対に服を脱ごうとはしない。『麻痺が治ってからにしよう』なんて…治るかどうかもわからないのに。

―――――シルヴァリオンよりもオレを選んでくれたんだよな?

不自由な手で迷惑ばかりかけてるのに…もっと先をしてほしいなんてオレは言えなかった。




「そろそろ帰ろうか」

オレの前にしゃがみ背中を向けてくる海瑠。帰りはオンブみたいだ。足を土に着かないようにしながら背中に乗る。
広い背中、太い首。もう立派な大人の体格だ。

「お前そんなに鍛えてどうすんだ?もう十分だろうに」

「まだまだだよ」

プロレスラーにでもなるつもりだろうか?

「せっかくのイケメンが筋肉に埋もれちゃうぞ」

首に回してた手で海瑠の頬を突っつく。オレの好みとしては細マッチョくらいで留めておいてほしいんだが。



森の中の湿った土を踏みしめ立ち止まった海瑠が、首元のオレの顔に頬を寄せ小さな声で囁く。

「…今度こそ、何があっても絶対にしょーちゃんを守るからね」と



夕陽を浴びオレンジ色に煌めく金髪を靡かせながら美しく笑った。

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