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1章 監察官と殺人鬼予備軍
4話
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ぱちり、と目を開けて凛花は目を覚ました。手を伸ばしてみれば傷はなくなっていた、人質の女性を助けるために自身は地面に削れるように転がったせいで身体中から血を流していたのに。今は痛みもない。
(これが青城の固有魔法…)
本棚で埋め尽くされ、窓際に鎮座しているピンク色のソファに寝かされてるみたいで凛花は上半身を起こした。
「お目覚めみたいですねぇ~」
「ご、ごめんなさいっ!気付かなくて…」
ふと視線を感じて横を見てみれば、ソファに両手を置いて、しゃがんだ体勢でそっとこちらを覗き込んでいる女性がいた。待っていてくれたのかと思えぱ、悪い気がしてすぐに凛花は頭を下げていた。彼女は間延びしたようなゆっくり、のほほんとマイペースな女性のようだ。
「私は桜木結衣っていいますぅ。結衣ちゃんって呼んでもらえると嬉しいかな」
「うん、結衣ちゃんね。私は紫龍凛花です」
自己紹介をしただけなのに何故か結衣はクスクスと笑っていた、べつに面白いことなんてなかったのに。
「私たち自己紹介するの…これで2回目なんですよ!うふふ、ほんと、おかしい」
両手をあわせて結衣は首を傾げながら、笑っていた。
笑うたびに大きく揺れる胸に目がいってしまい恥ずかしくて目を逸らせば、そのうえの首輪に目がいった。——そいえば屋上で応戦していた女性だ。
首輪は魔素中毒障害者の証だ。
「ふふ、女性で魔素中毒障害者は珍しいんですよぉ、それもあってとっても仲良しさんなんですよ!あ、あと…」
話している途中で結衣は周りをキョロキョロ見渡してから、ぐいっと身を乗り出して凛花の耳元に唇を寄せた。
「恋の相談相手でもあるんですよぉっ!」
「こ、恋っ!?」
「やぁん!それも忘れちゃったんですか?もちろんお互いに監察官様に恋してるんですっ!」
「やーん、恥ずかしい」結衣は赤面しながら1人で揺れている。1人で騒いでいる結衣に対して「あ」と凛花は固まっていた。
監察官に恋をしている。それなら凛花が恋をしていたのは——青城咲真だ。
「あ、記憶を忘れちゃったなら…今はもう好きじゃないんですか?」
きゃあ!と騒いでいのに急に真顔に戻って、またしてもぎゅっと近づいてきて、結衣が聞いてきた。
「……分からない」
その一言だった。
記憶を失ってから分からないことだらけで、まだ混乱している。
『どうして、君はそうやって自分を犠牲にするんだ』
脳裏に浮かんできた青城の声。人質の女性を助けて傷を負って、運ばれているときに目を開けられなくても声だけが届いてきた。
青城の悲痛な声、表情は分からなくても傷ついていることは分かった。——怪我をしているのは凛花なのに。
「ふふ、なんか赤くなってるわよ」
「え、えっ!?うそっ」
結衣に指摘されて、凛花は自身の両頬に手を添えれば、少しだけ温度が上がっている気がした。
「目を覚ましているなら伝えてくれって言ったのに」
呆れながら部屋にやってきたのは青城だった。今の話のせいで直視するのが恥ずかしくなり青城のほうを見たが、すぐに凛花は結衣の方へと目を逸らした。
「あらぁ~」結衣は微笑ましくて、思わず顔をゆるませた。
「何かあったのか?」
凛花の顔が赤いのをみて、すぐに青城はそばへと駆け寄って、ソファの前で膝をつき自身の手のひらを凛花の額に触れようとしたが。
「だ、大丈夫です!結衣ちゃんと楽しく話していて暑くなっちゃったんです」
やんわりと青城の手を受け流して、凛花はソファから降りた。青城は不服そうな顔をしているが無視した。
(意識するとダメかも…)
「大丈夫そうなら…所長はいないが、桜木の監察官が隣の部屋にいるから挨拶に行こう」
「は、はい」
結衣も魔素中毒障害者なら監察官がいるんだ。「ここは資料室なんですよぉ~」結衣が後ろで答えた。
「魔素中毒障害者1人に対して監察官もは1人なんですね」
1人で束ねるわけにはいかないのか。疑問に思い、青城に聞いてみた。
「暴走したら対処が難しいから、ここでは1人体制にしている。けど、私が2人とも見ることも可能だ。」
「そうなんですね」
言い方がすこし気になった、青城には出来るけど、ほかの監察官には出来ないのだろうか。
「え、なに?僕の奴隷も青城が見ようっていうの?やるわけないからね」
扉を開けようとした青城だが、その前に扉が開かれ青髪の青年が現れた。
そして青城のことを睨みつけて言って、結衣の腕を掴んで引き寄せた。
彼も結衣と同じでマンションの屋上で応戦していた人だ。青城はため息をついてから「凛花に自己紹介してくれ」と無視して伝えた。
「あ゛ぁ~」と考えてから。
「星宮奏斗。コイツの監察官ってこと」
ぶっきらぼうに告げた。すると結衣のことをこちらに突き飛ばしてきたため慌てて凛花は結衣のことを支えた。
「え、大丈夫?」
「うん、彼ねツンデレなのぉ」
なんでもないように結衣は言った、どうやら日常茶飯事のようだ。
顔をあげれば、もう奏斗は隣の部屋へと戻って行っていた。
「まぁこれで所長以外の自己紹介は終わったかな。監察官2人と魔素中毒障害者2人。そして責任者の所長で計5人。この5人で×××事務所は成り立っている」
「『名無し事務所』?」
「面白いでしょ、外の看板にも×で書いているんだよ。まぁ…由来は所長に会った時にでも聞いてみて」
所長、どんな人なのだろうか。
名無し事務所、記憶を失う前から凛花はここに所属していたんだ。魔素中毒者となって犯罪者予備軍となり一般人から恐れられる存在となっても、結衣も青城もまるで普通かのように接してくれている。
(元々の私はどんな人だったんだろう)
思い出せない。今のところ思い出したいという気持ちはあまりない、けどこの人たちの力にはなりたい。
「じゃあ再び…また、よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
青城に手を差し出され、凛花はその手を両手で握りしめた。
(これから頑張ります)気合いをこめて。
(い、いまのは…)
一瞬だけ何かが見えた…。青城に何かが重なって見えた、服装も今とは違って緩い格好、なにより大きく違ったのは青城に……。
魔素中毒者の首輪がはめられていた。
(これが青城の固有魔法…)
本棚で埋め尽くされ、窓際に鎮座しているピンク色のソファに寝かされてるみたいで凛花は上半身を起こした。
「お目覚めみたいですねぇ~」
「ご、ごめんなさいっ!気付かなくて…」
ふと視線を感じて横を見てみれば、ソファに両手を置いて、しゃがんだ体勢でそっとこちらを覗き込んでいる女性がいた。待っていてくれたのかと思えぱ、悪い気がしてすぐに凛花は頭を下げていた。彼女は間延びしたようなゆっくり、のほほんとマイペースな女性のようだ。
「私は桜木結衣っていいますぅ。結衣ちゃんって呼んでもらえると嬉しいかな」
「うん、結衣ちゃんね。私は紫龍凛花です」
自己紹介をしただけなのに何故か結衣はクスクスと笑っていた、べつに面白いことなんてなかったのに。
「私たち自己紹介するの…これで2回目なんですよ!うふふ、ほんと、おかしい」
両手をあわせて結衣は首を傾げながら、笑っていた。
笑うたびに大きく揺れる胸に目がいってしまい恥ずかしくて目を逸らせば、そのうえの首輪に目がいった。——そいえば屋上で応戦していた女性だ。
首輪は魔素中毒障害者の証だ。
「ふふ、女性で魔素中毒障害者は珍しいんですよぉ、それもあってとっても仲良しさんなんですよ!あ、あと…」
話している途中で結衣は周りをキョロキョロ見渡してから、ぐいっと身を乗り出して凛花の耳元に唇を寄せた。
「恋の相談相手でもあるんですよぉっ!」
「こ、恋っ!?」
「やぁん!それも忘れちゃったんですか?もちろんお互いに監察官様に恋してるんですっ!」
「やーん、恥ずかしい」結衣は赤面しながら1人で揺れている。1人で騒いでいる結衣に対して「あ」と凛花は固まっていた。
監察官に恋をしている。それなら凛花が恋をしていたのは——青城咲真だ。
「あ、記憶を忘れちゃったなら…今はもう好きじゃないんですか?」
きゃあ!と騒いでいのに急に真顔に戻って、またしてもぎゅっと近づいてきて、結衣が聞いてきた。
「……分からない」
その一言だった。
記憶を失ってから分からないことだらけで、まだ混乱している。
『どうして、君はそうやって自分を犠牲にするんだ』
脳裏に浮かんできた青城の声。人質の女性を助けて傷を負って、運ばれているときに目を開けられなくても声だけが届いてきた。
青城の悲痛な声、表情は分からなくても傷ついていることは分かった。——怪我をしているのは凛花なのに。
「ふふ、なんか赤くなってるわよ」
「え、えっ!?うそっ」
結衣に指摘されて、凛花は自身の両頬に手を添えれば、少しだけ温度が上がっている気がした。
「目を覚ましているなら伝えてくれって言ったのに」
呆れながら部屋にやってきたのは青城だった。今の話のせいで直視するのが恥ずかしくなり青城のほうを見たが、すぐに凛花は結衣の方へと目を逸らした。
「あらぁ~」結衣は微笑ましくて、思わず顔をゆるませた。
「何かあったのか?」
凛花の顔が赤いのをみて、すぐに青城はそばへと駆け寄って、ソファの前で膝をつき自身の手のひらを凛花の額に触れようとしたが。
「だ、大丈夫です!結衣ちゃんと楽しく話していて暑くなっちゃったんです」
やんわりと青城の手を受け流して、凛花はソファから降りた。青城は不服そうな顔をしているが無視した。
(意識するとダメかも…)
「大丈夫そうなら…所長はいないが、桜木の監察官が隣の部屋にいるから挨拶に行こう」
「は、はい」
結衣も魔素中毒障害者なら監察官がいるんだ。「ここは資料室なんですよぉ~」結衣が後ろで答えた。
「魔素中毒障害者1人に対して監察官もは1人なんですね」
1人で束ねるわけにはいかないのか。疑問に思い、青城に聞いてみた。
「暴走したら対処が難しいから、ここでは1人体制にしている。けど、私が2人とも見ることも可能だ。」
「そうなんですね」
言い方がすこし気になった、青城には出来るけど、ほかの監察官には出来ないのだろうか。
「え、なに?僕の奴隷も青城が見ようっていうの?やるわけないからね」
扉を開けようとした青城だが、その前に扉が開かれ青髪の青年が現れた。
そして青城のことを睨みつけて言って、結衣の腕を掴んで引き寄せた。
彼も結衣と同じでマンションの屋上で応戦していた人だ。青城はため息をついてから「凛花に自己紹介してくれ」と無視して伝えた。
「あ゛ぁ~」と考えてから。
「星宮奏斗。コイツの監察官ってこと」
ぶっきらぼうに告げた。すると結衣のことをこちらに突き飛ばしてきたため慌てて凛花は結衣のことを支えた。
「え、大丈夫?」
「うん、彼ねツンデレなのぉ」
なんでもないように結衣は言った、どうやら日常茶飯事のようだ。
顔をあげれば、もう奏斗は隣の部屋へと戻って行っていた。
「まぁこれで所長以外の自己紹介は終わったかな。監察官2人と魔素中毒障害者2人。そして責任者の所長で計5人。この5人で×××事務所は成り立っている」
「『名無し事務所』?」
「面白いでしょ、外の看板にも×で書いているんだよ。まぁ…由来は所長に会った時にでも聞いてみて」
所長、どんな人なのだろうか。
名無し事務所、記憶を失う前から凛花はここに所属していたんだ。魔素中毒者となって犯罪者予備軍となり一般人から恐れられる存在となっても、結衣も青城もまるで普通かのように接してくれている。
(元々の私はどんな人だったんだろう)
思い出せない。今のところ思い出したいという気持ちはあまりない、けどこの人たちの力にはなりたい。
「じゃあ再び…また、よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
青城に手を差し出され、凛花はその手を両手で握りしめた。
(これから頑張ります)気合いをこめて。
(い、いまのは…)
一瞬だけ何かが見えた…。青城に何かが重なって見えた、服装も今とは違って緩い格好、なにより大きく違ったのは青城に……。
魔素中毒者の首輪がはめられていた。
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