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【第一章】魔王様と三人の勇者
七話 高校生ユタカのデートプラン
しおりを挟むまさかの魔王様とのデート!
しかも魔王様からのお誘い!
って盛り上がった気持ちも冷静さが戻ると結構なピンチだった。
だってこの世界にはカラオケも映画も遊園地もファミレスもない。
コンビニで買い食いもできないし、公園のブランコでお喋りもできない。
異世界のデートってなんだ?
いや、俺は魔王様と散歩できるだけで幸せなんだけど。
魔王様が喜ぶことをできれば一番だけど、俺は何も魔王様のこと知らないんだよな。
◇◇◇
「魔王様、行きましょうか」
なんて、城門前でカッコつけて言ってみたけど、私服!
魔王様の私服!
普段城だと上から下までツヤツヤした黒一色の生地で、まあゲームとかで想像通りの魔王テンプレート衣装って感じ。
マントを外せば案外シンプルだけど、中二病心をくすぐるベルトが腕とかブーツに沢山付いてる。
魔法がある世界はそういう着るのが面倒な服は魔法で管理できていいよな。
俺も魔王様の付与魔法って技術のおかげで鎧がすぐ着れて感謝しかない。
とにかく普段から魔王様はほとんど露出がない。顔と手だけ。首も立てた襟で肌が見えない。
見えないからこそ想像をかきたてるみたいな所もあったけど、見えるなら普通に見たい。
そんなささやかなスケベ心がこのデートで実現してしまった。
黒の薄手のVネックニット。
鎖骨が見える。
あとは濃いグレイのデニムパンツと革ブーツ。
本当にシンプル。
何より、太ももくらいまである長い黒髪が高い位置で括られている。
ポニーテールですよ。
首筋の美しさを惜しみなく披露してくれて直視できない。視線が彷徨う。
急にファンタジー要素が薄れて身近な存在に思えてしまう。
プライベートって感じがして攻撃力が高い。
親戚のお兄さんにこんな人がいたら初恋奪われてる。
実際俺は魔王様に奪われたんだった。
「ユタカは珍しい衣装なのだな」
「えっ、そ、そうですか、まあ、この世界に来る時に着ていた物なので」
着崩した学ラン姿の俺を、魔王様は上から下まで興味深そうに眺めている。
異世界の服は村人感が強くてあまり着たくはなかった。
学生デートなんだから制服でいいだろうと思ったが、相手が大人だから親子っぽさが出てしまった気がする。
「魔王様も、俺の故郷の服に近くて意外でした」
「そうなのか。魔界では派遣帰りの魔物達から、色々な世界の服が自然に入って来るからだろうな」
魔王様は自宅の畑をいじる時など、今みたいな身軽な服装にローブを羽織っているそうだ。
魔界のファッション事情も興味はあるが、まずやることがある。
「魔王様、ただ遊ぶのと、デートがどのように違うかなんですけど」
「ああ、それは気になるな」
「御手を失礼します」
そう言って手を繋がせてもらう。
さすがに恋人繋ぎは自重している。
魔王様の手は少しひんやりしていて気持ちいい。
「ほう」
「できる限りデート中はこうするんです、主に移動中など」
「わかった」
実は結構ハードルの高い要求だったのに受け入れられてしまった。
好意のない相手からだったらセクハラだ。
俺は魔界の常識を知らない。
だから魔王様にとってこれくらい当たり前のスキンシップなのか、特別に受け入れられているのかはわからないが、わざわざ聞いて薮蛇を突くつもりはない。
「では行きましょうか」
「どこへ向かうつもりだ」
「それを決めるデートです」
「どういうことだ?」
歩き出しながら、俺はゆっくり話し始める。
お互いのことを知らないだけならまだしも、俺も魔王様もこの世界の初心者だ。
俺は旅をしているから、地理を全く知らないということはないが、デートスポットを直ぐに思い浮かべられる程のものではない。
この世界の住民であるフランセーズに街や観光の情報を聞くという手もあったが、あえてそうしなかった。
一人一台は車がないと生きられないような田舎の学生だった俺には、雑誌で見るようなキラキラした都会のデートにはピンと来なかったからだ。
経験値の足りない俺では、フランセーズの情報を上手く活用できる自信がない。
じゃあ、何ならできるのか。
城の周りには自然以外何もない。
俺としてはむしろ故郷に近いと言える。
あまり友達は多くなかったけど、そんな中でも、自転車を押して冗談を言い合って笑いながら歩いた帰り道は、今では特別だったと思える。
特別な時間の演出よりも、一緒に地面を踏み締めながら、お気に入りの場所を見付けたい。それ自体がデートなのではないかと考えた。
近所を歩く。
それだけでも好きな人となら特別に感じて、最高の思い出になる。
散歩なんて魔王様にはつまらないかもしれないけど。
城では魔王様は魔王だし、俺は騎士だ。
自分で騎士だと言い出したのだから、護衛以外の行動はしないようにしていた。
だからあまり魔王様と雑談をすることがなかった。
このデートは、お互いを知るためのデートだ。
今までしてこなかった他愛もない会話をしたい。
意味のないように思える雑談から、情報を得て、次のデートに活かす。
自然と二回目のデートに繋がるという下心もあると正直に言った。
ずっと、俺だけが話していたけど、魔王様は静かに聞いてくれた。
川の近くに来ていたようで、水の流れる音が聞きたくて、一旦話を切った。
しばらくは小魚や虫を観察していた魔王様が口を開いた。
「なるほどな、確かに少しずつだがユタカのことを知れた」
手を離していいかと律儀に聞いて、魔王様は川の水を手で掬って飲む。
俺も沢山話して喉が渇いていたと気付いて、同じように水を飲んだ。
「すみません、俺ばっか喋って……」
「いや、必要な時間だった。私も楽しいぞ」
そう言って、柔らかい笑みを向けてくれた魔王様が、とても綺麗で、カッコよくて。胸がギュッとなった。
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