【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
33 / 152
【第二章】囚われの魔王様

十六話 勇者ユタカは訪問者に驚く

しおりを挟む
 

 二度目の口付け。
 今回は目を閉じる事ができた。触れた唇の感触に集中できる。
 かさついてもいないけど、特別潤っている訳でもない。
 ほんの数秒触れ合うだけだから、それ以上の情報を拾うのは難しかった。

 でも、ほんの少しでも口を開けば、粘膜に触れる事ができる。
 その無防備さを理解すると、自分がどれだけリズ様に許されている存在なのかが、よくわかるのだ。

 キスの間にリズ様は、シャツを俺の肩から背中に滑らせ上半身を露にする。袖から俺の手を抜き、完全に布が取り払われた。
 実際にやってみると、キスしながら服を脱がせるという行為は、本当に夜の営みの一部なのだと理解した。


「ユタカの肌をここまでじっくり見たのは初めてだな。やはり若い。触り心地が良い」


 リズ様に、首、肩、腕をゆっくり撫でられてゾクゾクする。
 これはヤバい。俺の理性がヤバい!


「さあ、次はユタカの番だ」
「あ、あ、あ、あの! やっぱ俺は今はいいです、また今度!」


 こんな状態でリズ様の裸体を見たら何をしでかすか自分でもわからない。
 まさか俺が断るとは思っていなかったであろうリズ様は、面食らった顔をしている。
 ヘタレでもいい、今は駄目だ。


「リズ様はどうでした!? 何か得られましたか!?」


 今回のお試しは、リズ様が知りたいことを知れたのかが重要なのだ。
 必死に話題を振ると、リズ様は楽しそうに笑った。


「ふふ、そうだな……確かに、この触れ合いというのは無駄ではないと感じた。脱がそうとしている間のユタカが挙動不審で面白かったしな。今も面白いが」
「うっ……」


 本当に全く余裕がなかったんだから仕方ない。
 人を脱がすなんてした事ないが、よくよく考えたら脱がされるなんて本当に幼い頃だけの話だ。記憶にもない。
 結局どっちも意識としては未経験と変わらず、リズ様に脱がされただけでキャパオーバーとなった。


「コミュニケーションだというのは理解したし、ユタカの希望通りにする事にしよう」


 それだけで大勝利だ。
 着実に夫婦の話し合いが進んでいるのではないだろうか。
 こういう話し合いとか、明日何をするとか、他愛もない情報のすり合わせがこのベッドで行われるのか。
 幸せだなと、しみじみ感じた。

 その時、リズ様が突然視線を上げ、何かを見た。


「ユタカの判断は正解だったな、デュラムから連絡だ」


 リズ様の言葉で俺も視線を巡らせると、天蓋の外に金色に光るカードのようなものが浮いているのを見付ける。


「なんですか、これ」
「魔法での文字のやり取りだ」


 魔法でメールみたいな事まで出来るんだな。
 リズ様がカードに触れると文字が浮かび上がる。


『飯ができたぞ』


 その言葉に、忘れていた空腹感が襲ってくる。
 よく考えたら長距離の移動から戻ったばかりなのだ。
 まあ、俺は運ばれてただけだから、デュラムとリズ様より疲れてないけど。


「デュラムの料理、すんげー美味いんで、楽しみにしてて下さい!」
「ほう、それは期待しておこう」


 上半身が裸のままという訳にはいかないので、手早くシャツと学ランを着直す。
 食事に鎧は邪魔だしこのままでいい。


「魔方陣で部屋に戻れるかも確認してくれ」
「はい!」


 来れたけど戻れないというミスがあったら困るもんな。
 俺と魔王様は別々の魔方陣を使って寝室を後にした。



 ◇◇◇



 視界にはすぐ自分の部屋が映った。問題なく戻れたようだ。

 俺の部屋は特に変わった物はなく、前に住んでいた魔物の置いていった家具を使っている。
 シンプルなベッドとソファとテーブルくらいしかない。
 自室でできるような趣味がないから寝るくらいにしか使っていないのだ。

 広間に向かおうと、視線を動かした先。扉の前に何かがいた。


「えっ」
「やあ、ただいま。ユタカ」


 それはフランセーズだった。
 白い布地に金色の刺繍が施されたシンプルなのにゴージャスな王子様服だ。


「おかえり、フランセーズ。なんだよ急に俺の部屋にいるなんて、ビックリした」
「ユタカは気付いてなかったかもしれないけど、この部屋に防護壁を張っていたから、ユタカと術者の僕しかここには入れないんだよ」


 へー、そうだったんだ。


「内緒話か? 婚約者は良い人だった?」
「ふふ、そうだね、とても良い人だった」
「やったじゃん!」


 俺は自分の事のように嬉しかったけど、なんだかフランセーズに元気がない。


「なあ、何かあったのか?」
「そうだね、色々あった。僕もまだよく理解し切れていないんだ」


 歯切れの悪い言葉に、俺は何か嫌な予感がした。


「フランセーズ」
「ごめん、時間がないんだ。魔王に気付かれるから、話はまた後で」


 そう言って困ったように笑ったフランセーズ。
 相変わらずイケメンだな、なんて思っていたら、息が出来なくなった。


「え……?」


 次に感じたのは熱さだ。
 腹が突然重くなって、恐る恐る熱源を見ると、細身の剣が俺の体から生えていた。
 フランセーズの聖剣だ。
 妙に冷静になって、その剣に触れようとしたけど、その前に視界が大きくグラついた。
 床には、俺から流れたであろう赤い液体が見える。

 なんで?

 とフランセーズに問い掛けたかった。

 フランセーズの白い綺麗な服が、俺の血で汚れてないといいな、なんて考えていたら俺はもうどこも動かなくなっていた。


「ユタカ、君の世界が危ないんだ」


 その、悲しさとも怒りともつかないフランセーズの低く重い声が、俺がこの世界で聞いた最後の音だった。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...