65 / 152
【第四章】魔王様との魔界生活
十一話 ユタカとリスドォルは魔神を助ける
しおりを挟む「意識が戻っても神界に戻りもせずにこんな所で留まっているという事は、棲み家まで把握され恐ろしくて帰れないといった所か」
リズ様がそう言うと、イーグルがうなだれてしまう。
力尽くで手に入れる気満々だな、ファムエール。
ここでも弱肉強食の怖さを知ってしまった。
リズ様は一通り身を清め、服を着たので俺も続いて準備する。
「イーグル、何をしている、早くあがれ」
「は?」
「一応、必要があれば簡易的に作るつもりだった客間がある。すぐに用意してやるから来い」
イーグルはキョトンとした顔をして固まっている。
そんなイーグルにリズ様が苦笑しつつ少し声を柔らかくした。
「お前には手厚く寝食を世話になったからな。礼くらいしてやるさ」
そういや軟禁時のリズ様の生活環境めちゃくちゃ良かったもんなぁ。
イーグルはどう反応していいのか戸惑っているようなので、俺が温泉から引っ張り出して服とタオルを渡し、一から順に数を数えながら手を叩く。
「いーち、にーい、さーん、しーい」
なんとなくそれに急かされたイーグルは手早く支度を終える。
リズ様が歩き出すが、それでもまだイーグルは迷子の子供みたいに様子を窺っているので、俺が手を引いて強引に案内した。
◇◇◇
「こんなものか」
リズ様は自宅の少し離れた太い木に触れ、変形させていき、幹の中を空洞にした。
そこから更に改装されていき、ほんの十五分ほどで人が住める家にしてしまう。
「魔界の木に魔法が使えるのか」
イーグルが驚いたように呟いた。
「厳密には魔法ではない。私は“お願い”をしているだけだ。その対価に魔力を注いでいる」
対象に主導権があるということか。
魔力にも色々な使い方があるんだな。
三人で一緒に中を見てまわると、ビジネスホテルくらいには生活に必要なものが揃っている。
「最低限の物しかないが、しばらくの寝泊まりには困らないはずだ」
「ああ、十分だ」
そろそろ眠気も戻ってきたし、一旦寝てまた明日話そうということになった。
「私の家にも好きに入ってくれて構わない。台所や食糧は一階にあるから自由に使え」
「おう、わかった」
「ではな」
俺とリズ様は家へ戻り、寝室のベッドに入る。
少しリズ様とお話でもできたらと思ったけど、なんだかんだ疲れていたようで即眠りに落ちていた。
◇◇◇
めちゃくちゃ良い匂いがする。
これは、ご飯の準備がされている新婚さんの生活みたいなやつでは!?
ニヤニヤしながら目を開けると、リズ様の麗しい寝顔がある。
あれ?
そうなるとこれは……。
「ユタカ、リスドォル! もう昼だぞ、起きれるなら起きてこい!」
ゴンゴン寝室の扉を叩きながら、イーグルの俺達を呼ぶ声。
「起きてる! すぐ行く!」
「む……イーグルの食事か」
リズ様も起きてすぐ反応した。
心なしか声が弾んでいるように感じる。
「もしかしてイーグルの用意する食事って美味しいんですか?」
「美味い」
とても簡潔な返事だ。
あの時にイーグルの所に長居していたらリズ様は胃袋を掴まれていたかもしれない。
そうなる前に連れ出せて良かったと今更ながら胸を撫で下ろした。
一階へ行くと、サラダと肉がバランスよく並んだ皿と、蒸かしたての芋が目に入る。カットされた果物と紅茶も彩りがあって目でも楽しめる食事だ。
イーグルは大柄で食事も豪快さがありそうなのに、カラフルで小分けにされたカフェ飯が出てきて裏切られた気分だ。
いや、筋肉に気を使っている人ほど野菜中心のヘルシーな食事だったっけ。
「どうせ暇だから作ってやった。暇だっただけだからな」
これがツンデレか。
リズ様は気にせず席について、頂きますの礼をして食べ始める。これは俺の家に行ってから続けているらしい。
俺も頂きますを言ってから食べていく。
甘味のあるタレと香辛料が絶妙に絡み合った肉が美味い。
サラダと一緒に食べても合う。
芋はフライドオニオンのようなカリカリしたものがかけられていて食感も楽しめる。
味は爽やかなハーブの香りとバターのような塩気とこってり感が良いバランスで、どんどん食べてしまう。
カットフルーツには蜜のようなものがかけられている。食べてみると、フルーツに酸味があるため、中和させているのだとわかる。
紅茶には花びらが浮いており、気になって口に含むと甘かった。お洒落な味だ。
全て食べ切るまで集中し過ぎて無言だった。それくらい美味しかった。
イーグルはデュラムと友達になった方がいいんじゃないか。
最後の紅茶まで飲み終えてから、ようやく俺は言葉を発した。
「ご馳走様でした。イーグル、めちゃくちゃ美味しかった。絶対金取れる。俺の世界でもなかなかないクオリティだと思う」
それから食べながら感じた事を全て丁寧に伝えた。
「お、おぉ……」
イーグルはこれまでにあまり感想を貰った事がないのか返答に困っている。
そもそも魔神ってあんまり好かれてないんだっけ。
誰かのために料理を出す事自体が少ないのかもしれない。
「私もユタカの言葉に同意だ。いつ食べてもイーグルの出す食事は美味だ。毎日食べても飽きないだろう」
「ま、ま、まあ。暇だからな、暇潰しにまた作るだろうから、作り過ぎた分はお前らが食べても俺サマは怒ったりしねーからなぁ!」
リズ様の誘導もあり、それから毎食イーグルが用意してくれるようになったのは言うまでもない。
10
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる