【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【最終章】魔王を護る黒騎士

一話 悪魔クラウンは行方不明になる

 

 魔王城を去る前に我はこう言った。


「十日後、報告に行く」


 きっと、双子もそのくらいに魔王に謝りに来るはずだ。
 我も一緒に謝って、魔王の影武者の仕事を受けると言いたい。

 ブルガーも喜んでくれる。
 やっとブルガーに恩返しが出来るのだ。
 こんなに楽しい気分はいつ振りだろう。
 もっと我に自信がついたら、ブルガーに想いを伝えられるかもしれない。

 我は、希望の光を確かに見たのだ。


 しかし、我が十日後に魔王の待つ魔界に向かう事はなかった。


 ◇◇◇


 久し振りの自宅。
 召喚は瞬時であったが、帰りは自力だったため四日程かかってしまった。
 我の魔力量があってもこれなのだから、ポンポン移動できる神が少し羨ましい。

 我の自宅は神界と地上の間にある天界と呼ばれる所だ。
 悪魔と天使が住む領域なのだが、どちらも定住するタイプではなく、基本的にはほとんど誰もいない領域になっている。

 天界と地上の境目に、数少ない天界に定住をしている悪魔が集まる村がある。
 そこに我の家があるのだ。


「あれ……?」


 扉の鍵が壊れている。魔石を嵌め込む部分が外されていた。
 古い作りだから、こういう事があっても不思議ではない。
 どうせ盗られるような物はないのだ。
 あまり気にせず中に入った。


「なんと」


 見事な荒れっぷりである。
 何か探し物があったのだろう。乱雑にあらゆる家具が動かされている。
 小さな棚を開けたりはしていないから、大きな物を探していたようだ。
 ベッドまでひっくり返されている。


「ブルガーが来る前に片付け……いや、我がブルガーを探しに行くか」


 普段なら待つことしかしなかったが、今の我は前向きなのだ。
 グチャグチャになっているクローゼットから黒のパーカーとスキニーを出した。
 着ていたよそ行きの服を脱いで、ラフな格好に着替える。
 魔法で着替えるより、一つ一つ選んで袖を通す方が我は好きだ。

 着替えが終わり、外に出ようと玄関へ向かおうとした時、扉が勢いよく開いた。


「ヒィッ」


 バンッと大きな音に驚いて固まった我だったが、そこにいた相手が誰かわかって全てが吹き飛んだ。


「ブルガー!」
「……クラウン」


 駆け寄るとブルガーが我の両肩を掴んだ。
 力が強くて指が食い込んで痛い。


「何処に行っていたんだ、探したよ」
「ブルガー……痛い……」


 ブルガーはいつもみたいに笑顔だけど、怒っているのがわかる。
 痛みを訴えると少し力を緩めてくれたけど、離してはくれなかった。


「留守にしてたのは、仕事をしていたから」
「仕事? どうして? そんなことしなくても生きていけるのに」
「……ブルガー?」


 ニコニコと口は笑っているし、声も柔らかくて優しいのに、目が笑っていない。
 でも、我が仕事を成功させたと知ったら喜んでくれるはずだ。
 我は構わずに話を続ける。


「落ちこぼれでも出来る仕事が来たんだ。質も量も文句なしの魔力を貰えたから、今期の我の成績、恐らくだが凄く良くなる、だから──」
「だから俺の事はもういらないって?」
「え……」


 ブルガーの教育係としての成績が上がるって言いたかったのだ。
 ブルガーの言葉があまりに繋がらなくて我は混乱した。


「ブルガー、どうしたのだ……我は、次の仕事も貰えそうで、ブルガーに相談したかったから会いに行くところだったんだ」


 努めて明るく言ってみたが、ブルガーは笑っていない目で我を見ている。
 我が落ちこぼれだから、急に仕事が出来ると思われていないのかもしれない。
 内容を知れば喜んでくれるかもと期待して続けた。


「我は、今回の仕事で魔王を操れたのだ。その功績を魔王自身が買ってくれて、我を魔王の影武者にしたいと依頼してくれたのだ」


 そこまで言って、我は頭が急速に冷えた。
 この力でブルガーを傷付けたのに、その力を喜々として使ったなんて、ブルガーは良い気分になる訳がない。
 怒られるだろうか、呆れるだろうか。
 不安になり、目線をそらしてしまう。


「クラウンは俺から逃げたいの?」


 しかし、我が全く想定していない言葉が聞こえ、耳を疑った。
 逃げる?
 何でそうなるのだ。
 ブルガーは、今まで聞いた事のない鋭い低い声で続ける。


「俺がずっとずっとずっと閉じ込めて、俺だけのものにしてきたのに。俺以外と会わないように、孤立させたのに。それだけじゃ駄目なんだね」
「ブルガー……何を言って……」


 顔を上げると、ブルガーは歪んだ笑みを浮かべていた。


「あーあ。軟禁程度じゃあやっぱり足りないか。俺が甘かったな」
「軟禁? 我は自分の意思で引きこもっていただけだ。ブルガーに強要された事なんて一度もない」
「そう仕向けていた事にも気付かない可愛いクラウン。優しくて、本当に悪魔の落ちこぼれだよ」


 そう言ったブルガーは我の顎を掴み、上を向かせた。


「仕事なんてしなくていい、俺以外見なくていい。今まで通り俺に守られていればいいんだよ」
「ブルガー……我は」
「ほら、俺に力を使えば? そうしたら逃げられるよ、しないの?」


 その言葉に我はボロボロと大粒の涙が目から溢れ出した。
 やはりブルガーは我の事をずっと恨んでいたのだ。


「ごめん、なさい……我は……ただ、ブルガーに喜んで欲しかった、だけで……ブルガーに嫌われたくない……ごめんなさい……」


 呼吸が辛いくらい嗚咽が漏れてしまう。
 許さなくてもいいから、嫌わないで。それだけが我の願いなのに。


「クラウン、俺から逃げないで」
「逃げたことなんてない……ずっと一緒にいる……一緒にいてもいいのなら」
「じゃあ、一緒にいよう? 俺の……俺だけのものになってくれる?」


 顎を掴まれているから頷こうと思っても頷けない事を思い出した。
 直ぐに言葉を紡がなければまた怒らせてしまう。
 我は必死に声をあげた。


「なる……ブルガーだけのものに」
「いい子だね、クラウン」


 普段通りの優しい声。
 少しだけ安心していたら、ブルガーの顔が近付いてきた。
 え、と思う間もなく、ブルガーの唇が我の唇と重なった。
 そのまま舌が割り込んできて、口の中に甘い液体が注がれる。


「んぅ!?」
「飲んで」


 ブルガーに言われたら毒薬でも飲み干す。
 我は直ぐに液体を嚥下して、口を開いて残って無いことを示して見せた。
 ブルガーは少し驚いた顔をしたけど、頭を撫でてくれて嬉しかった。
 そのせいなのだろうか、全身が熱くなってくるのを感じる。


「俺と一緒に住もう、永遠に」


 その言葉に何か返事をしたかったのに、猛烈な眠気が襲ってきた。
 ブルガーが我を抱き支えた事で、全身の力が抜けている事に気が付く。


 魔王。ごめんなさい。
 我は悪魔なのに約束を守れそうにない。


 そこで我の意識は途切れてしまった。

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