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【番外編】ジン×デュラム
十七話 ブレドとデュラムは相棒
俺は叫んでいた。
「えっ、あの英雄伝説を作ったのジンさんなんですか!?」
ジンさんのデュラムへの突然のプロポーズ後、二人を追い出したフランセーズ王は俺に魔王降臨の理由から討伐の状況まで全て説明してくれた。
外で戦った男は異世界の勇者で魔王の伴侶で神でもあるという理解を越えた存在だった。
なんと孤児院のガキもこんな歴史的にヤバいネタを全員知っているらしく、その秘密の共有が孤児院内の結束にも繋がっているようだ。
「そうだよ。さっきみたいに僕達がヒーローショーを見せて、イイ感じに内容をまとめて世界に広めたのが十歳のジン」
フランセーズ王がニコニコと茶を飲みながら話す。
世界で知らぬ者がいない英雄伝説の作者がまさか幼い頃のジンさんだとは。
その主人公が目の前に座っているのも恐ろしい事だが。
魔王が俺に向かって問いかけた。
「仮に、ブレドがデュラムのように勇者になれるとしたらなるか?」
「ならねぇ」
俺は即答していた。
「人知を超えた力なんぞ知りたくもねぇ、触れたくもねぇ。人間、際限なく次を求めるからな……俺に扱えるわけがねぇし、良くて調子に乗ってセモリナあたりをぶっ壊して魔王扱いされる未来だな。悪けりゃ自滅の暴走ってところか」
「ふふ……よく理解しているな」
「伊達に悪事で食ってねぇよ」
金でも武力でも、身の丈に合ってない力を手にして暴走する存在はいくらでも見てきた。
まるで一般人ですって顔でいる三人の勇者の方が俺はおかしいと思う。
「強大な力を上手く使うには『信念がある』か『興味がない』かだ。ユタカは力に興味がない。フランセーズは信念があるから間違わないのだ」
「デュラムは?」
「力に興味がなく、信念がある」
「はっはっは、確かになぁ」
美味い飯が食いたいという願いは強い。だが、力があると便利だが必須ではない。
だから使い方を間違わないし、無ければ無いで手段はいくらでもある。
その柔軟性が神に認められたのだろう。
ああ見えてあいつは自己評価が低いが、どんな事にも柔軟に対応できる姿勢は誰にでもできるようなことじゃない。
「ブレドが勇者に興味がないのは良い事だが、せめて元の力に戻るくらいはしてもいいだろう」
「は?」
魔王が突然俺の真横に現れ、顔を近付ける。
唐突な美貌のドアップに俺は固まってしまう。
「セモリナは住民の魔力が低いと言っていたが、貧民だけの話ではないか?」
「え、ああ…そうだ」
「……炊き出しのようなものはあるか? 貴族からの施しだ。貧民全員が口にするようなものがあったのか知りたい」
「全員……そんなのあったか……?」
記憶を掘り起こすと、思い当たる事があった。
「そうだ。赤ん坊のミルク、離乳食は無料で配られる」
「ふむ……セモリナは闇が深そうだな。恐らくそれを口にしているであろう貧民全員呪われているぞ」
「……はぁ?」
魔王が説明した内容は衝撃だった。
「魔力を出すための穴が存在しているのだが、その穴がブレドは極端に狭い。よく見ると呪いの膜で穴が塞がれているのだ。申し訳程度の穴を残してな」
「なるほどね、貴族が貧民の赤ん坊に食べさせている食事で強制的に弱者を作っているわけか。だから貧民間では魔法に頼らない面白い薬の開発が進んでたり、ブレドみたいな珍しい術が生み出されるんだねぇ」
フランセーズ王もすぐに理解したようだ。
俺も言われた事はわかるが、受け入れられるかは別だ。
「じゃあ……弱い俺達を守っているというお貴族様の立場ってのは……下のもんはなんの能力もないんだから、せめて金銭の負担がキツくても頑張らなきゃいけねえって教えは……」
「自分達が上にいるために無理矢理作り出した幻想だ」
「はぁ!? じゃあ、弱いから仕方ねぇって諦めて、虐げられていた俺らはなんだったんだ!?」
机を叩き、椅子が倒れるのも構わずに立ち上がった俺を誰も責めなかった。
逆に怯えもせずに俺の周りにガキ共が集まってきた。
「泣かないで~ブレド先生~!」
「泣いてねぇ……って、なんだ、先生ってのは」
まだ涙なんか出ていないが、泣き出したい気持ちは本当だった。
しかし、急に付いた『先生』の方に俺は驚いてしまう。
「王様が、ブレド先生がいたいって思うだけ、孤児院にいてもいいって」
「だから、先生なの」
「ねーねーブレドせんせー! ずっといてくれる?」
「ブレド先生もオレたちの家族になる?」
俺はフランセーズ王を見た。王は笑みを深める。
「この孤児院には、僕の可愛いテリアと子供達も遊びに来るんだ。君を信頼して預けるよ」
王に信頼していると言われ、無下にできるほど俺は腐ってない。
今度こそ涙が目に浮かんだが、子供達が気付いて布で拭いてくる。
どっちが子供かわかりゃしねぇ。
俺はその場で跪いて頭を下げる。
「信頼に報いるよう努力します」
「期待している。では僕からセモリナの民へプレゼントだ」
フランセーズ王が胸の前で手を組むと全身が金色の眩い光に包まれる。
その光は無数の小さな球となり、勢いよく飛散した。
「うお!?」
光球の一つが俺にぶつかってビビってしまう。
しかし、すぐにそんな事を忘れてしまうほど、体が軽く感じられた。
背負っていた大きな荷物を下ろした時のような解放感だ。
「この程度の呪いの浄化なんてあっという間だね。ラトラ内にいるセモリナの民の魔力は元に戻ったと思うよ。あ、恩義とか感じなくてもいいから。別に今後ラトラを出て行ったからってまた呪いが戻るなんて事もないからね」
そんな事を言われても恩義を感じないわけがないと思うのだが。
八百長芝居の偽物の英雄だなんて自分では言っているが、この人は確かに英雄だった。
後日、セモリナの多くの人間が王に尽くしたいと兵に志願したらしい。
魔力に頼り切らない戦闘技術が重宝され、有名な部隊が出来上がるのだがそれはまた別の話。
◇◇◇
「いや~わりぃわりぃ、ゆっくりさせて貰ったわ」
「デュラム……ジンさんはどうした」
「仕事が立て込んでるって早朝から出てった」
二日後、デュラムは一人で帰ってきた。
わらわらと子供と伝説組もデュラムを出迎える。
久し振りにデュラムの飯が食べたいと全員でねだった。
「おっしゃ、任せろ!」
デュラムは挨拶もそこそこに調理場へ向かい、他の奴らは外で遊ぶ事になった。
俺はデュラムの補助を申し出て、食材の皮むきなどを手伝う。
手際よく大鍋を混ぜたり、鉄板を駆使して動き回るデュラムは、どっから見ても勇者じゃなくて料理人だ。
手を動かしながら、俺は気になっていた事をデュラムに聞いた。
「デュラムはよぉ……いつからジンさんが好きだったんだ」
「え~? 好きっていっぱい種類があるだろ。だからずっと好きだけど、その種類がじわじわ増えていったから……いつからってのは難しいな」
確かに好きという感情は人によって違うし、感じ方は様々だ。
ジンさんのようにデュラムのためだけに自分を高められる程の好意は誰も敵わないし、なかなか無いものだと思う。
そんな強い想いを見せつけられたら、俺のデュラムへの感情はなんだったのかよくわからなくなっていた。
「俺も結構デュラムのこと好きだったんだけどな」
ポロリと口からそんな言葉が零れ落ちていた。
自分に驚きすぎて持っていた芋とナイフを落としそうになる。
動揺したのは俺だけで、デュラムは軽快に笑った。
「うははは! 俺も好きよ~。正直、また会えて嬉しかった」
デュラムから自然と出た“好き”に、俺の心がスッと軽くなった。
俺は別にデュラムの特別になりたい訳じゃなかったらしい。
幸せな姿が見られるなら、誰が隣でも構わない、そんな“好き”だったのかもしれない。
自分でも納得のいく答えが見つけられ、俺も高らかに笑った。
「はっはっは! じゃあ朗報だ。ここが俺の正式な家になったぜ」
「え!? マジかよ! ブレド先生じゃん!」
デュラムは本当に嬉しいと全身で表現するように飛び跳ねた。
「また相棒としてよろしく頼むぜ、デュラム先生」
「おう! 家族としてもな」
お互い肩を叩き合って和やかな空気だったのに、デュラムは慌てたように俺を調理場から追い出した。
声が徐々に震えていたから、多分、俺には泣き顔を見られたくなかったのだろう。
泣くのが恥ずかしいデュラムは、この孤児院では誰も知らない俺だけの特別なデュラムなのかもしれない。
それに気付くと少しだけジンさんへ優越感を感じ、足取りも軽く外へ向かった。
追い出された理由はもう一つあって、食後にこっそり俺だけに小さなケーキを焼いてくれていた。
またデュラムへの“好き”が増えたのを感じながら、俺好みの甘すぎない味をゆっくり噛み締めた。
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