【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【番外編】イサミ×フリアン

一話 イサミの魔界旅

 

 女神が言った。
 魔界に存在する“朱殷しゅあん宝玉ほうぎょく”を手に入れろと。


 戦争で人が減り、都合良く職人やエンジニアが生き残る訳もなく、新たな物を生み出すのが困難になった荒廃した地球を再生できるアイテムなのだそうだ。
 俺が子供の頃にはまだ少数あったゲームで見た、勇者という存在に突然なった。
 目に見える変化はないが、単純に身体能力が向上したのは有り難い。


 勇ましい者。俺の名前と同じなのも皮肉だ。
 いさみ
 別に勇ましく世界を変えたいと思う程の強い意志がある訳でもなかった。
 簡単に見付かる物ならやってやるか、くらいのやる気で、違う世界が存在するならばそれを見てみたいという興味の方が勝っていた。
 砂と瓦礫ばかりの世界には飽きていた。
 此処から出られれば何でも良かったんだ。


 ◇◇◇


 俺は魔界に降り立ったらしい。
 女神からは魔界については『魔物がいる』くらいの情報しか得られなかった。
 なんとなく魔界とは地獄のように暗く、荒れ果てた世界をイメージしていたが全く違った。
 とにかく視界には森しかない。木漏れ日が美しく輝き、その下には花が咲き誇っている。
 暗く荒れ果てているのは地球の方だ。どちらが地獄かは一目瞭然で笑いがこみ上げた。


「ここは天国じゃないか」


 こんなにも豊かな自然を見たのは初めてだ。
 空気が綺麗なのだろう。呼吸が楽で、咳も出ない。変な色の鼻水や痰が出る事もない。
 余りに居心地が良く、早々に使命を忘れそうだった。


「とりあえず今日は野営だな……」


 急いでなどいないのだから、まずはゆっくり体を休めると決め、バックパックからテントとマットを取り出し設置する。
 一応外敵への警戒を怠ってはいないが、全くと言っていい程スムーズに準備は終わった。
 たまに生物の気配は感じるものの、近付いて来る事はなかったので魔物という存在は臆病なのかもしれない。


 耳を澄ませばそう遠くない場所で水の流れる音がしていた。
 向かってみると大きな川があり、透き通った大量の水を見たのは初めてで、俺はしばらく遠目から立ち尽くしてその美しい流れを眺めていた。
 どれくらいそうしていただろう。少し景色が暗くなるのを感じ、ようやくその水が飲めるのか確認しようと思った。
 普段から濁った水を気持ちばかり濾して口にしているのだから、澄んでいる時点でそれより悪いことはなさそうだが。
 人間に毒だったとしても、勇者なのだからそう簡単に死ぬことはないだろう。
 数歩、川に向かって踏み出した時だ。


「お兄さん、水辺は気を付けてね」


 突然頭上から男の声がした。
 気配を感じなかった事に俺は一気に警戒を強め、集中し声を掛ける。


「魔物か」
「そーだよん、そっちは人間だねぇ」
「俺は朱殷しゅあん宝玉ほうぎょくというアイテムを探しに来た。情報が欲しい。話し合いができるのなら戦闘は避けたい。今は何も持ってないが対価が必要なら用意する」


 そう出来る限りこちらの要望を伝えたが、声の方向からは恐ろしい程の殺気が向けられた。


「へぇ……それが欲しいなら、俺を倒せるくらいじゃないと難しいんじゃないかな~?」


 瞬間、弾丸のような物が俺に向かい降り注ぐ。
 接触する前に地を蹴り避けたが、俺の居た位置は散弾銃でも撃ち込まれたように激しく窪んでいた。
 よく見るとシンプルな太い針のような矢が突き刺さっている。


「よく避けんなぁ! まあ、魔界にいる人間が普通なワケないか」
「くっ」


 世間話のような軽い声が聞こえ、次の攻撃が襲い掛かってきた。
 細長い頑丈そうな棒で俺の頭を的確に割りにきている。
 後ろに上体を反らし、棒の攻撃をすんでのところで躱す。
 先端を見ると棒が空洞であるのがわかり、もしかしたらさっきの攻撃は吹き矢かもしれないと気付いた。
 打撃と遠距離攻撃を一つの棒で出来るのは効率的だ。


「すばしっこいなぁ」


 姿を見せた相手は、豹のような耳と尻尾のある褐色の肌をもつ青年だった。
 長身で鍛え上げられた肉体は野生動物そのものの美しさを持っている。
 一般的には大柄な部類なのに、動きはしなやかで速い。
 魔物の特徴なのかと警戒したくなるほど、容姿、動きの全てが魅力的に映った。
 俺は再度話し合いを持ちかける。


「待て、俺に争う気はない」
「別に俺も争ってるつもりはないけどね~」
「じゃあ何故攻撃する」
「言ったじゃん、宝玉だっけ? それを手に入れるためには強くないと無理だから、俺がテストしてあげてんの」


 つまり、この男は宝玉を知っているのだ。
 穏便に済ませたかったが、条件があるのならば仕方ない。


「お前を無力化できれば、情報をくれるか」
「できるもんなら?」


 俺は女神から授かった武器を手に出現させた。
 四本の手斧だ。


「へぇ、武器持ってたんだ。手斧?」
「今はな」


 そう言って小振りな手斧を青年に向かって投げつける。
 素早く青年は左に移動し、手斧は森の中へ入り、木に突き刺さり止まった。
 青年を追いかけるように二本、三本と投げ、四本目も全て空振りに終わる。


「武器手放して良かったの?」
「攻撃が目的じゃないからな」
「えっ」


 俺は最後に青年が移動するであろう先に既に立っていた。単純な誘導だ。
 想定よりも動きが早いため思ったよりも野営地から離れてしまったが仕方ない。
 即座に両肩を掴み、怪我をしない程度の力で近くの木に青年の背中を押し当てる。
 大きな抵抗は見せず、静止してくれた。


「ウッ……まじで?」
「無力化と言っていいかわからないが、これじゃ駄目か? 怪我はさせたくない」
「最後の動きが見えなかった……こんなのリスドォル以来だ……すげぇ」


 誰かわからないが、恐らく褒められたのだろう。
 一応認めては貰えたようなのでホッとした。


「自分で言うのもなんだが、弱いつもりはない。心配してくれたのだろうが出来れば宝玉の事を教えて欲しい。無理強いもしないが」


 俺がそう言うと、青年は瞳を輝かせ、こちらを見つめた。


「教える! 教えるけど、交換条件!」
「なんだ。なんでも言ってくれ」


 平和的解決ができるのなら何でもしよう。
 この時俺は、思ったよりも簡単に地球に帰れるかもしれないと甘く考えていた。
 青年の言葉を聞くまでは。


「俺と子作りしてくれ!!」
「……ん?」


 子作りと聞こえたのは気のせいだろうか。
 俺は男だし、青年もどっからどう見ても男だ。
 自分の眉間に皺が寄るのを感じながら冷静に問いただす。


「俺は男だが」
「見りゃあわかるって」
「子作りと聞こえたんだが?」
「そうだよ、俺と交尾しようぜ! 種付けしてくれよ!」


 俺は自分のこめかみを押さえた。
 全く話が見えない。


「それでどうやって子供ができるんだ」
「魔物は男でも女でも孕めるんだぜ~? な? いいだろ? ちゃちゃっとココですぐ突っ込んでくれりゃイイから!」
「脱ごうとするな」


 俺は下を突然脱ごうとした青年の手を慌てて止める。
 なんなんだこの奔放さは。
 人間ではないのだから価値観が違うのは当然かもしれないが、その勢いに面食らってしまう。


「そういうのは、好いた相手とするものだ」
「魔物は自分より強い相手に種くれって頼むんだよ。ある意味惚れたって事じゃん!?」
「全然違う」
「じゃあ性欲処理と思ってさ、なぁ!!」


 青年は俺の服を掴んで離さない。どうしたものか。
 数秒考えて、急ぐ旅でもないのだから青年からの情報を諦める事にした。


「はぁ……他をあたってくれ。交渉決裂だ。ゆっくり自分で探す事にする」
「ちょ、ちょちょちょっと! こんな好条件ないだろー!? 俺魔物の中じゃ滅茶苦茶モテるんだぜ!?」
「じゃあ魔物とよろしくやってればいいだろ」
「できたらとっくにしてるってのー!」


 ギャンギャン叫ぶ青年を通り過ぎ、俺は足早にその場を去った。


「なーなー、俺フリアンって言うんだけど、お兄さんは? 名前教えてよ」


 足早にと言ったが、かなり本気で逃げたつもりだ。
 それでも一定距離で必ずこのフリアンという魔物がついて来る。
 どれだけ時間をかけてもまくことが出来ずにいた。


「……いさみ
「イサミ! いい加減、喉も乾いただろ? 水辺は強い魔物が襲ってくるから気を付けろって言いたかったけど、イサミの強さなら問題ないな。これやるから使って」


 フリアンが投げてよこしたのはスポンジのようなふわふわした球体だった。


「それ、めちゃくちゃ水を吸収する植物でさ。水の携帯に便利なんだ~! 一回吸わせるだけでも二日分の飲み水には困らないしオススメ! 意識的に強い力を加えない限り漏れたりもしないし」
「……ありがとう」


 礼にまた子作りとか言われるのかと身構えたが、俺と目が合うと小首を傾げただけだった。


「どしたの?」
「いや……いつまでついて来る気かと思って」
「交尾してくれないと宝玉の場所は教えないけど、それ以外の魔界の情報なら教えてあげようと思って。ちょうど俺、魔界をくまなく旅してる最中だし、イサミも俺といたら安全に魔界全土を見てまわれるぜ?」


 フリアンは悪い奴とは思えない。あてもなく移動するよりは確かに良い。


「案内役か」
「そ。ヤりたくなったら宝玉の場所もわかっちゃう、と~っても便利なフリアン様だぜ♡」
「……もう少し考えさせてくれ」
「え~~~~!?」


 このノリに付き合えるのかたっぷり三日考えて、ようやく俺はフリアンと共に旅をする事に決めたのだった。

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