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奨励賞記念 ジン×デュラム
四話 火遊び注意 デュラム視点
ジンはシャンスとこれ以上話す必要がないと判断したのだろう。適当に怒らせて戦闘になってもらった方が早く帰れるもんね。しかし、息子のカイノスがシャンスを諫めた。
「まあまあ、親父。まだ船は動き出したばかりだ。もっと海の景色を楽しまなきゃ勿体無い。そうだろう?」
「……ああ、そうだな」
不慮の事故が起きるなら沖が良いと言いたいのだろう。だが、それはこちらも同じだ。俺の仕事がやりやすくなる。
「カイノスさんの方が随分と大人ですね。さすがシャンスさん。子供の世話について大きな口を叩くだけあって、子育ては得意なようだ。見習いたいものです」
ジンってば煽る煽る。だが、相手もこちらを甘く見るのはやめたらしい。シャンスは静かにこちらを睨むだけで押し黙った。代わりにカイノスが対応する。
「今の王と親父の考えが合わないのは世代的に当然と言える。だから今回この場に俺が来た」
「へえ。カイノスさんの考えを聞きましょうか」
「俺ァ親父と違ってなぁ、甘いことをするつもりはねぇ! ここでハッキリと力関係を示し、お前にはこちらの要求に従ってもらう」
馬鹿だ。一番やっちゃいけない方向だよ。カイノスのラトラへの宣戦布告と受け取られかねない発言に、ジンはピクリと眉を動かした。
「それは、戦争をしてラトラを従属させたい……という事でよろしいですか?」
「ハッハッハ! 戦争なんかするかよ。意外とラトラのボスは血の気が多いようだ。そうじゃねぇ。こうしてお前に一人だけ護衛を許した理由は、そっちの最大戦力をこちらに引き入れるためだ。その護衛をこの場でこちらに取り込めば、ジン……お前は一人になる。話し合いもしやすくなるだろう?」
そう言いながらカイノスが俺を見た。ただの臆病風ではなく、俺っていうか強い護衛が狙いだったの?
「何も無理矢理奪うつもりなんてねぇ。ただ真っ当にスカウトしたいだけだ。俺にとっちゃそれが今回の目的だった。裏の顔を単独で守れるくらいの存在なら、英雄にだって勝てるかもしれねぇ」
えー。やっぱりいつかはラトラと戦う気じゃん。しかも英雄に勝てるかもっての、間違いじゃないんだよなぁ。フランセーズと渡り合えるなんてラトラ内では俺とテリアくらいだよ。現実的にはなかなか悪くない案だ。
しかし、問題があるとしたら俺がジンの伴侶って所よ。戦力云々じゃなくて一番触れちゃダメな部分だね。自分で言うのもなんだけど、俺めちゃくちゃ愛されてるもん。でもそんな事わかんないカイノスは俺に話しかけた。
「おい、おめぇ。いくらで雇われてんだ?」
従者は勝手に発言できない。ジンの様子を窺うと、発言許可の合図に右手を上げる。
俺は嘘偽りなく答えた。
「5000憶」
「は?」
「5000憶、と申し上げました」
これは俺との結婚までにジンがひとまず用意できた金額らしい。
らしい、というのも、とりあえずフランセーズがジンのために即動かせる金額が5000憶で、本当はもっとあるみたい。俺は知りたくない世界なのでそこは深くは聞いていない。
ジンは無駄遣いもしないし、俺のために稼いでるだけで、基本的に金に頓着がない。そのため、財産はほとんどフランセーズが預かっている。どうやら本人も正確に金額を把握していないようだ。ジンの目を見るだけで『ヘーそんなにあったのかぁ』って考えているのがわかる。可愛い。
正直、俺には途方の無い金額過ぎて現実味がない。ユタカいわく『勇者が複数の戦闘機並みの戦闘力と金額って考えたら妥当』らしい。比較している物を俺は知らないが、ユタカの世界の凄く強い何かなのだろう。
てっきりカイノスは金額に怯むかと思いきや、真顔になった。
「半端な金額じゃねぇって事は……マジでおめぇ、ただの護衛じゃないな」
腕利きの護衛だからこの金額な訳ではなく、単純にジンの愛による値段なだけだ。でも実際は英雄と同程度の戦力なので確かにただの護衛ではない。うーん、困った。
ジンが右手を再び上げ、その合図と同時に俺は口を閉じた。
「お恥ずかしながら、彼は私がどうしても伴侶に欲しくて口説き落とすために支払った額です。今回連れて来たのも、伴侶の自慢をしたかったからです。ある意味ではただの護衛ではないというのは正解ですが、戦力という点で彼はラトラでは特別ではありませんよ」
「おやおや、わざわざ自らの弱点を晒してしまっては危ないのではありませんかな?」
伴侶と聞いて再び俺達を甘く見たのか、カイノスは突然気が大きくなった。配置されていたゴロツキ達が俺とジンの周りを囲む。数人の男が、拘束しようと俺の腕を掴んだ。ちょっとか弱いフリなんかして、俺はふらついて見せた。この中だと俺が一番小柄だからね。油断してベタベタ触ればいいよ。
ジンは余裕の表情で笑っている。これから起きる事を予見しているからだ。
「ふふ、人の伴侶に手を出すなんて……火傷しますよ?」
「伴侶が襲われているというのに余裕だなぁ。ブルって体が動かなくなっちまったか?」
「いえ、真っ当なスカウトとやらがこれなのか見定めているのです」
最後通告だよ。ここで手を引けばジンも大人の対応してくれるよ。俺の内心のアドバイスは何の意味もなく、最も最悪な反応が返ってきてしまった。
「おこちゃまの相手じゃあ嫁も満足できてねぇんじゃないのか? お前のオンナをマワして体でスカウトしてやってもいいんだぜぇ?」
ほんっと悪人ってそういうの好きだよね。カイノスは立ち上がってこちらに近付いてきた。動けないフリをしている俺の顎を掴んで舌なめずりなんてしたよ。俺がイケメンなばかりに、男共がその気になってしまった。
「火傷すると言いましたのに」
顔から表情が抜け落ちたジンの言葉と同時に、俺に触れていた人間が炎に包まれた。もちろん、カイノスも同じだ。
「ギャアアアアアア!!!!」
「うわあああぁぁぁ!?」
「熱い!! 痛い!! ひぃいいい!!」
パニックに陥った火だるま達は、ゴロゴロ床を転がったり走り出して壁にぶつかったりしている。周りも消火しようと試みるが、魔力を編んだ炎だから俺の意思でしか消えないし、燃え移りもしないから安心安全。火力の調節もしているから、軽度の火傷にしかならないようになっている。命の心配はないよ。痕は残っちゃうかもしれないけどね。
シャンスは燃える息子を見て椅子から崩れ落ち、目を剥いている。腰が抜けたようだ。
「ディー」
俺はジンの合図で炎を消した。無事な人間の数の方が圧倒的に多いのに、誰もこちらに近付かない。
ジンはテーブルの上で手を組んで、かろうじて奥に見えているシャンスの顔を見た。
「調理台の火が燃え移ったようですね。怖い怖い」
もう料理人はこの場におらず、完全に火は止まっているからそれはあり得ないと誰もがわかっているのに、異を唱える者は一人も現れなかった。
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