【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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奨励賞記念 ジン×デュラム

五話 選択と決着 デュラム視点

 

 さっきまで全身燃えて転がっていた者の救助をしようとしたヤツらが『えっ』と小さく声をあげた。阿鼻叫喚となっていた割に、全員が手に水膨れができている程度の火傷だったからだ。もちろん服だって燃えてないし、髪が焦げたりもしていない。
 俺の炎は見た目は派手だが、今回は俺に直接触れた部分にしかダメージがないようにしていた。火傷しない程度の熱風に包まれて一部でも本当に痛みがあれば全身が焼けたと勘違いしてくれる。実際に大きな被害がなくても、火だるまでパニックになった者を見ているだけでも衝撃映像だし、かなり全体の戦意は削げる。今は大丈夫でも次は本当に燃えるかもしれないし、警戒してそう簡単に次の行動を起こせないだろう。
 カイノスも涙目になりながら全身に触れて自らの無事を確かめている。腰が抜けて立てないのか床にへたりこんだまま、手以外になんの変化もないことに驚いている。
 息子が無事だった事に安堵したのか、シャンスが俺を指差して叫んだ。


「こ、こ、こ、こいつ……ッ魔術師か!?」
「いえいえ、ディーは魔術を修めた事もありません。なんの実績もない一般人ですよ」


 ジンの言葉に誰も納得していないと思う。裏ボスの伴侶な時点で絶対一般人じゃない、というツッコミは怖くて誰も言えないようで、場は静まり返った。でも俺がなんの実績もない一般人なのは本当だからね。
 フランセーズとテリア以外にもヤバそうな戦力をラトラが保持している。この事実はここにいる奴らに十分伝わったはずだ。最後の仕上げといこうかね。ジンはにこやかに席から立ち上がった。


「さて、クードの対応はよーくわかりました。まともな話し合いはできないと判断し、こちらとしては今回の行いに対して全面的に制裁を加えても良いくらいですが……最後のチャンスを与えましょう。甲板で綺麗な空気でも吸いませんか」


 そう言ったジンは甲板へ出るための扉へ向かった。誰もジンの発言の意図がわからず、俺以外の誰も動かない。おやおやと大袈裟に肩をすくめたジンは、呆れたようにため息を吐く。


「さっさと全員甲板へ集まれ、と優しく言っているのがわからないか? ではハッキリと言おう、今からこの船は私の物だ。さっさと全員甲板に出ろ。命令だ」


 ジンは今までの柔和な笑みを消し、低い声で全員に告げた。あ~カッコイイ。この場にいる全員に動揺が広がる中、カイノスだけは叫んだ。


「はぁ!? てめぇ、いきなり何言って──」
「船は“乗るものだから”とパートナーに例える事が多い。この船もキャサリンという女性の名だったと記憶している。私の伴侶を奪おうとしたのだから、お前達もを奪われる覚悟をするべきだったな」


 あのジンが下ネタ言ってる。めっちゃ新鮮。やっぱりシャンス達が俺に触った事を怒ってるね。ふふふ、俺ってば愛されてる。


「別に従わなくてもいいさ。その場合は骨も残さず灰になって貰うだけだ」


 冷酷な瞳と言葉に、雇われていた者達は我先にと外へ出て行った。ジンも扉を潜り、俺が背後に気を配るとシャンスとカイノスもよろよろと甲板に向かって歩き始めた。


 ■■■


 あの場にいなかった他の船の乗組員も含めた全員が甲板に揃うと、ジンは静かに三つの提案をした。


「一つ。救命ボートで陸地に戻る者には特に制裁も与えない。今まで通りクードでの生活を送るがいい。だが、負け犬である事を心に刻み、二度とラトラと対等になれると思うな。二つ。この船で私と共に陸地に帰るのならばラトラに忠誠を誓ってもらう。他の移住者と同じように丁重にもてなそう。三つ。このまま海に飛び込み、生存することができれば今後も対等に交渉してやってもいい」


 まだそこまで船は陸から離れていない。ある程度魔力が使える者であれば沈まないように簡易的に防護しつつ待機すればいい。季節的にも気温は暖かいし、他の仲間が急いで助けを呼べば生存は難しくないだろう。そんな緩んだ空気が生まれた後に、ジンは俺を一瞥した。お任せあれ、ボス。俺がその場で指を鳴らすと、甲板が蒸し風呂のような熱気に包まれた。


「うわぁっ!?」


 誰かが海を覗き、船の周りがボコボコと沸き立っている事に気付き叫んだ。船の周りにはいくつか茹で上がった魚が浮かんでいる。後で回収して食べてあげないとな。海鮮スープにしよう。
 一般的な魔力の持ち主では、煮え滾った湯に飛び込み、熱されていない部分まで無傷で泳ぐのは困難だろう。魔力の防護は瞬発的で、持続するのが難しい。無事熱湯を脱した所で、そこから火傷の痛みに耐えて海上を漂うのか、更に泳ぎ続けるのかを迫られる。三つ目の選択肢はほぼ自殺行為と言えるだろう。


「さあ、どれを選ぶ?」


 ジンの言葉に、次々と人が散らばっていく。クードに家庭がありそうな船の使用人は救命ボート付近に集合する。大体半分って所か。こいつらは裏とあまり関係のない船員なのだろう。残り半分の使用人と、腕っぷしに自信のありそうなゴロツキ達はジンの前に跪いた。
 残るはシャンスとカイノスのみだ。さて、どうすんのかねぇ。正直俺は、さっさと救命ボートにでも乗ってまた作戦を立て直すのかと思っていた。高笑いが聞こえるまでは。


「くっははは……フハハハハハ!! 面白い……面白れぇな……だが、俺はガキに舐められんのが一番嫌いなんだよ!!」
「わかるぜ親父ィ!! それこそだよなぁ!!」


 ただの強がりとは思えないハッキリとした意思を持った声。まさかと思った瞬間だ。二人は駆け出し、フェンスを飛び越え海へダイブした。マジか。ザブンと着水した音が聞こえ、周囲は騒然とした。ジンもこれは予想外だったらしく目を見開いている。しかしすぐに楽し気な微笑みを浮かべて俺にだけ聞こえるくらい小さな声で呟いた。


「ふふ……いいですね。生きていたらまた会いましょう」


 ジンは胸元からラトラの国章が刻まれたネックレスを取り出した。フランセーズの魔力が籠められたとっておきの回復アイテムだ。本来は、命に係わる不測の事態に備えてジンのために用意された物だが、ジンはそれを海に投げ入れた。

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