灯は幽かに鬼を照らす‐嫌われていたはずの相棒に結婚を迫られています‐

くろなが

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一章 相棒との出会い-side灯屋-

七話 二つの能力

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 次の日、出社すると俺のデスクに会長からの直筆の指令が置かれていた。

 完成間近のショッピングモールで、作業員が次々と意識不明になっているそうだ。
 ガス発生や有毒化学物質などを疑ったが全く問題は無かったらしく、幽特に早急の対策が求められた。

 俺と幽雅さんの想像以上に早い現場任務だ。
 武器の手入れと弾の補充をしていると、あっという間に朝礼の時間になった。
 幽雅さんは朝礼ギリギリにフロアに入って来て俺と共に社員の前に立つ。
 頬が腫れることもなく綺麗になっていて俺は小さく安堵した。


「諸君、おはよう! 早速だが私と灯屋君は今から現場へ向かう。朝礼は以上! これからは報告業務はどんどん簡略化していくぞ。秘匿情報でない限り、ほぼ全ての情報は自由に各自の端末から参照できるようにした。これまでボスのみが管理していた情報も条件を満たせば閲覧できるように本社からの許可も得た。それも後で確認しておいてくれ」
「えっ、いつの間に!?」
「昨日の間にだ。まあ、私にはコネがあるからな」


 驚きの声をあげた俺に幽雅さんはサラリと答えた。
 昨日救護室を出たあとの幽雅さんは、すぐに外出申請をして本社に向かっていた。
 たった半日でこんな大きな変化を一気にやり切ったのか。
 いくらコネがあっても早すぎる。
 今でも俺はこの人が現場向きではないと思っているが、ドンとしての仕事ぶりはとんでもなく優秀らしい。
 朝礼があっさり終わり皆が持ち場につく中、幽雅さんは俺にだけ聞こえる声で言った。


「死を覚悟しているのであれば、次の者へ滞りなく引き継ぐ用意が必要だ。残された者への配慮無くして覚悟とは言わん」
「……そうですね」


 俺はそんな当然の事すら今まで考えもつかなかった。
 幽雅さんの言葉に耳は痛いが、嫌な気はしない。


「俺じゃそういう所に気がまわらないんで助かります」
「なんだなんだ。灯屋君が素直だと怖いな」


 ニヤニヤとからかうように幽雅さんはこちらを見た。
 別に俺だってなんでもかんでも噛み付いている訳ではない。
 能力は正当に評価したいと思っている。


「あなたが優秀なのは理解したので、現場よりも司令塔としてデスクで仕事しませんか? 適材適所ってあるでしょう?」
「却下だ。私のおりは会長命令だぞ!」
「業務上のパートナーじゃありませんでしたっけ!?」
 

 どれだけ俺が言い募っても時間は待ってくれないのだ。
 言い合いながらも俺達は駐車場に向かっていた。
 現場となるショッピングモールは隣県で、ここから車で一時間半といった所だろうか。
 普段は自分で運転する事が多いのだが、幽雅さんには専属の運転手がいるらしく迎えが用意されていた。
 渋々ながら二人で後部座席に乗り込むと、車は静かに走り出す。


「幽雅さん」
「なんだ」
「貴方の武器はなんですか?」


 現場は戦闘になる事がほとんどなので、戦闘能力は必須といえる。
 幽雅さんが出発前になんの準備もしていない事に俺は不安を覚えていた。
 そして、その不安は的中したらしい。


「ふふん。私の武器は灯屋君に決まっているではないか」
「は?」


 幽雅さんは堂々と告げた。


「そのためのバディだ。私自身になんの戦闘力も無い!」
「……嘘でしょ……?」
「冗談を言っているように見えるか?」


 余裕の表情でこちらを見る幽雅さん。
 嘘があるように全く感じない。
 なんて澄んだ目をしているんだ。
 むしろ少しくらい申し訳なさを出して欲しい。

 資料を見る限りは御曹司という立場上、護身術は得意らしい。
 しかし、悪鬼に対する記述は無かった。
 悪鬼が視えないくらいだから、霊力も期待できないだろう。


「えっ……どうするんですか……」


 表情が抜け落ちた俺に対し、幽雅さんはケラケラと楽しそうに笑う。


「ぬははは! 問題ない問題ない」
「問題しかないですよ! マジで幽雅さんって単なる肉盾なんですか!?」
「まあ待て。武器を所持していないだけで、私には呪い以外にもう一つ能力があるんだ」
「はぁ!?」


 いきなりとんでもない情報が出てきた。
 そういう重要な事はもっと早く教えて欲しいのだが。
 しかし過ぎたことをここで説教しても意味は無い。
 俺は黙って続きを待った。


「私はオバケ全般を視る事ができない。しかし、何故か悪鬼はことができる」
「……感じる、とは具体的に?」
「気配……オーラ的なものを感じると言えば良いのか。あそこにいる、ここにいる、という位置がわかる」


 そういえば会長は昔、全ての悪鬼が視えたらしい。
 今は能力が衰えてしまい、何も視えないと言っていたが……まさか。


「……もしかして幽雅さん」
「ああ。悪鬼四種、全てが判別できるぞ。視えてはいないからお爺様ほど優秀では無いが、現状、悪鬼全てがわかるのは私だけだろう」


 悪鬼退治は、ほとんど独占企業みたいなものだからとても儲かる。
 だからこそ隠していても誰かが金の匂いを嗅ぎつけ、幽特に似た組織が他でも生まれているらしい。

 その流れは純粋に戦力増強として喜ばしいことだ。
 会長はそういった新規参入を推奨し、援助も行っていると聞いた。
 ここ数年である程度視える者は増えつつあるが、それでも悪鬼四種類がわかる存在は見つかっていない。


「めちゃくちゃ凄いじゃないですか!」


 俺は純粋に感動して幽雅さんを讃える。
 しかし幽雅さんは俺に対して疑心暗鬼なのか、渋い顔をして言った。


「何度も言うが戦力ゼロだぞ?」
「情報も立派な武器じゃないですか。十分に戦力ですよ」
「そう、それなのだよ!!」


 幽雅さんは気分を良くしてくれたのか、声を弾ませた。


「私の能力は灯屋君の不足を補える。今まで半分しか見えなかったものが、全てわかるのだ! 無傷の君は動きが良くなり、単純に戦力もアップするだろう!」
「そうですね、わかるなら先制で倒せる自信がありますし、確実に効率は上がります」
「だろう! 私達は二人で一つなのだよ!!」


 それは認めよう。
 幽雅さんに戦闘力が無くてもお釣りがくる便利さだ。
 戦闘力に余裕がある俺ならばいくらでもカバーできる。

 事前に幽雅さんに悪鬼の存在を教えてもらえるのであれば、もう怪我の心配が無いのだ。


「危険が減るんですから、呪いはもう必要ありませんね」


 さっさと解呪したい気持ちを隠さずに俺が言うと、幽雅さんは冷ややかに笑った。


「はは。君は信用ならん。全ての悪鬼がわかるからといって無茶をしないとは限らないだろう。余裕が生まれて余計に突っ走る可能性もあるから駄目だ」
「……いや、それは……」


 そんな事ありませんと即答するべきだったのに、モゴモゴと言葉が上手く出ない。
 そうかもしれないと自分でも思ってしまったからだ。
 二の句が継げずにいる俺を見た幽雅さんは更に笑みを深める。


「私を守るつもりで自分の体を守るだけだ。何を難しい事がある。それとも自信が無いのかな。今までは怪我をしても『悪鬼の半分は見えていないから』と言い訳ができたものなぁ」


 この人は明らかに俺を挑発している。
 愉快そうに笑うその綺麗な唇を無理矢理奪って黙らせてやろうか。
 そう思ったものの、これまでボスとしてやってきたプライドが俺にもある。
 これまでの成績が実力以上に無茶をして出した結果と思われるのは心外だ。


「いいでしょう。あなたから、呪いなんて必要なかったって言わせてやりますよ」


 俺は幽雅さんから視線を外して外の景色を見た。
 自然が多くなり、民家もまばらだ。
 都会とはまた違う良さがある。
 しばらくは車内が沈黙で包まれたが、幽雅さんの小さな笑いが聞こえた。


「ふふ、期待しているぞ。相棒」


 その幽雅さんの言葉は独り言かと思えるくらい微かな音だったが、俺の耳にはしっかり届いていた。

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