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第2章 田舎者(善吉編)
第6話 黒峰子爵家の3人
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「岡岳善吉と申します。どうぞよしなにお願いいたします」
居間でくつろぐ3人の前で、正座した善吉が頭を下げた。
黒峰健太郎子爵は、口ひげを撫でながら「うんうん」と2度うなずいた。
「故郷と帝都では勝手がちがうだろうが、しっかり頑張りなさい」
内務省の高級官僚と大地主としての2つの顔を持つ健太郎。
さらに碁や将棋の腕前もなかなかであり、棋士達の支援者としての一面もあった。
普段の仕事は洋装でこなしているが、家にいる時は和服で過ごすことが多い。
「その着物は少し大きいかな」
「はい、でも、ありがとうございます」
「岡岳の家は、100年ほどさかのぼると黒峰につながっていてな。江戸の頃には黒峰藩の家老でもあった家柄よ」
「はい、存じております」
健太郎に並んで座っているのが黒峰春代子爵夫人。
「いろいろと大変だろうけど、しっかり励みなさいね」
健太郎と同じく和服に身を包みながらも、髪は洋式に結い上げている。
春代夫人の身のこなしも含めた美しさと落ち着きぶりは、善吉の目にも30代半ばには到底見えない。
時折、小説や随筆、和歌などを発表している女流作家としても活躍しており、春爛漫の雅号は広く知られている。
「男手があるのは頼もしいわ。権蔵さんのお手伝いもしてあげて」
「はい!」
「この春奈の送り迎えもしてもらうから、行き帰りに気を付けてね」
「はい!」
名前の出た黒峰春奈《くろみね はるな》は黒峰子爵家の一人娘。
「ひとつ年上だけど、あんまり私と変わらないのね」
背の高さはわずかに善吉の方が高いくらい。
高等女学校に通っており、その送り迎えも善吉の大事な仕事のひとつとなる。
「ちゃーんと迎えに来なさいね。じゃないと置いて行っちゃうから」
「はい、分かりました!」
善吉の坊主頭を春奈が撫でまわす。
にんまり笑って「何だか弟みたい」と言った。
春代夫人が眉をひそめる。
「春奈、からかうのはおよしなさいな」
「はーい」
健太郎が口ひげを撫でて善吉に尋ねる。
「そう言えば、漢籍や算術が得意と聞いてるな。春奈、教えて貰ったらどうだ?」
「ふぅん、そうなの?」
「はい!」
「そのお返しに春奈が英語を教えてやったら良いだろう」
「ええーっ!面倒よ」
「人に教えるのは、ちゃーんと理解できていないと駄目だからな。春奈は自信がないのか?」
健太郎が春奈をからかった。
「まあ、良いわ。分からないことがあったら聞くから」
「はい!」
そこで健太郎が話題を変える。
「それに善吉は柔術をやると聞いたな」
「はい!」
立ち上がった善吉は「ええいっ!」と叫ぶと、両手両足を広げて力強く構える。
健太郎は「おお!」と声を上げ、3人の女達は「まあ」と声をもらした。
御一新を経て以後、剣術や柔術の人気は落ちる一方だった。
しかし黒峰家も岡岳家も、元は武門の家柄だ。
屋敷の床の間には安土桃山の頃から伝わっているとされる鎧と兜が鎮座している。
健太郎も若い頃は柔術で汗を流したことがあった。ただし最近は腰を痛めたとして遠ざかっているが。
「用心棒としても頼もしいな。しっかり春奈を守ってくれ」
「はい、お任せください!」
善吉が構え直すと、居間が笑い声に包まれた。
------------------------------------------------------------------------------------
こうした形で、千寿編と善吉編を数話ずつ交互に書き進めて行きます。.....φ(- - )
今後は基本的に1日1話のペースです。どうぞよろしくお願い致します。
m(_ _)m
居間でくつろぐ3人の前で、正座した善吉が頭を下げた。
黒峰健太郎子爵は、口ひげを撫でながら「うんうん」と2度うなずいた。
「故郷と帝都では勝手がちがうだろうが、しっかり頑張りなさい」
内務省の高級官僚と大地主としての2つの顔を持つ健太郎。
さらに碁や将棋の腕前もなかなかであり、棋士達の支援者としての一面もあった。
普段の仕事は洋装でこなしているが、家にいる時は和服で過ごすことが多い。
「その着物は少し大きいかな」
「はい、でも、ありがとうございます」
「岡岳の家は、100年ほどさかのぼると黒峰につながっていてな。江戸の頃には黒峰藩の家老でもあった家柄よ」
「はい、存じております」
健太郎に並んで座っているのが黒峰春代子爵夫人。
「いろいろと大変だろうけど、しっかり励みなさいね」
健太郎と同じく和服に身を包みながらも、髪は洋式に結い上げている。
春代夫人の身のこなしも含めた美しさと落ち着きぶりは、善吉の目にも30代半ばには到底見えない。
時折、小説や随筆、和歌などを発表している女流作家としても活躍しており、春爛漫の雅号は広く知られている。
「男手があるのは頼もしいわ。権蔵さんのお手伝いもしてあげて」
「はい!」
「この春奈の送り迎えもしてもらうから、行き帰りに気を付けてね」
「はい!」
名前の出た黒峰春奈《くろみね はるな》は黒峰子爵家の一人娘。
「ひとつ年上だけど、あんまり私と変わらないのね」
背の高さはわずかに善吉の方が高いくらい。
高等女学校に通っており、その送り迎えも善吉の大事な仕事のひとつとなる。
「ちゃーんと迎えに来なさいね。じゃないと置いて行っちゃうから」
「はい、分かりました!」
善吉の坊主頭を春奈が撫でまわす。
にんまり笑って「何だか弟みたい」と言った。
春代夫人が眉をひそめる。
「春奈、からかうのはおよしなさいな」
「はーい」
健太郎が口ひげを撫でて善吉に尋ねる。
「そう言えば、漢籍や算術が得意と聞いてるな。春奈、教えて貰ったらどうだ?」
「ふぅん、そうなの?」
「はい!」
「そのお返しに春奈が英語を教えてやったら良いだろう」
「ええーっ!面倒よ」
「人に教えるのは、ちゃーんと理解できていないと駄目だからな。春奈は自信がないのか?」
健太郎が春奈をからかった。
「まあ、良いわ。分からないことがあったら聞くから」
「はい!」
そこで健太郎が話題を変える。
「それに善吉は柔術をやると聞いたな」
「はい!」
立ち上がった善吉は「ええいっ!」と叫ぶと、両手両足を広げて力強く構える。
健太郎は「おお!」と声を上げ、3人の女達は「まあ」と声をもらした。
御一新を経て以後、剣術や柔術の人気は落ちる一方だった。
しかし黒峰家も岡岳家も、元は武門の家柄だ。
屋敷の床の間には安土桃山の頃から伝わっているとされる鎧と兜が鎮座している。
健太郎も若い頃は柔術で汗を流したことがあった。ただし最近は腰を痛めたとして遠ざかっているが。
「用心棒としても頼もしいな。しっかり春奈を守ってくれ」
「はい、お任せください!」
善吉が構え直すと、居間が笑い声に包まれた。
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こうした形で、千寿編と善吉編を数話ずつ交互に書き進めて行きます。.....φ(- - )
今後は基本的に1日1話のペースです。どうぞよろしくお願い致します。
m(_ _)m
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