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第5章 奥様(千寿編)
第13話 千寿の得意
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垂水子爵邸の綾香夫人の部屋。
たくさん広げられた着物や洋服を前に、綾香夫人と女中頭である幸がうれしそうな声を上げている。
その場で、ある意味として“いけにえ”となっているのが千寿。
「やっぱり女の子は良いわねえ」
ため息をつく綾香夫人。
「千寿ちゃん、可愛いですしおしゃれが似合いますものね」
別の着物を広げる幸。
洋服を着たままの千寿に羽織らせると、「こっちも素敵ですよ」と綾香夫人の方に向けた。
「わあ、かわいい!」
2人に褒められた千寿が頬を赤らめる。
もう1時間以上も着物や洋服をとっかえひっかえされている。
着替えるたびに2人から賞賛の言葉を浴びていた。
「こっちとこれ、それにこの着物も千寿が着なさい。こっちは寸法を直してちょうだい」
「はい」
「今着ているワンピースも千寿にあげるわ」
千寿は素直に好意を受けるのをためらう。
「奥様、これは新品なのでは?」
「私には派手過ぎるけど、千寿には似合うから」
「でも…」
「良いから、ねっ」
「…はい、ありがとうございます」
千寿はワンピースを着たまま、深く頭を下げた。
「それに伸佑は、ぜーんぜん興味を持たないんだから」
夫である垂水伸太郎子爵が織物や衣料品を商う仕事柄、綾香夫人はかなりの衣装持ちだ。
先祖から伝わった和装はもちろん、開花以来となる流行りの洋装も山ほどそろえていた。
しかし唯一の息子である伸佑は、男であるからか、おしゃれには目もくれなかった
幼い頃、せっかく綾香夫人が苦心して着せた洋装も、あっという間に泥だらけにしてしまう。
中学くらいには落ち着きをみせたものの、綾香夫人が勧めるおしゃれな着物や洋服には目もくれなかった。
綾香夫人が自分自身を着飾るのもそれなりに楽しかったが、やはり限度がある。
そこに奉公人として舞い込んできたのが千寿だった。
「本当にかたじけないです」
盛んに頭を下げる千寿の髪を優しく撫でる。
「良いのよ。たんすの肥やしになっているより、着てもらった方が着物も喜ぶんだから」
「ありがとうございます」
千寿は今日何度目ともなる礼を口にした。
「ふぅ」
ソファに腰かけた綾香夫人は肩を揉んだ。
それを見た千寿が声をかける。
「もしよろしければ、あんまをしましょうか?」
「あら、良いの?」
「田舎では両親や祖父母から褒められていましたので、ちょっと自信があります」
「じゃあ、お願いしようかしら」
千寿は綾香夫人の背中に回ると、両肩に手を置く。
強くはないが、きめ細かく動く10本の指が綾香夫人の両肩をほぐしていく。
「ああ、……いい気持ち」
綾香夫人はうっとりと目を閉じた。
「このところ奥様は、いろいろとお忙しかったですものねえ」
洋服や着物を畳みながら幸が口にする。
千寿は綾香夫人の肩かは始まって、広く首筋や二の腕を揉んでいく。
綾香夫人は目を閉じて千寿のするように任せていた。
「いかがですか?」
「うーん、良かったあ」
綾香夫人は大きく背伸びをする。
「久しぶりに肩が軽くなったみたい」
ソファから立ち上がった綾香夫人は軽く体をひねる。
「どうせなら背中や腰も揉んでもらおうかしら」
「奥様、それが良いですわ、まだ食事の支度まで時間がありますし」
その頃には幸が着物や洋服をきれいに整え終わっていた。
「じゃあ、先に着物を片付けて…」
そう言いかけた千寿に、幸が「私に任せて」と言って首を振る。
「ありがとうございます」
またも頭を下げた千寿。
「じゃあ、千寿、こっちへ来て」
着物を抱えた幸が部屋を出て行くと、綾香夫人は千寿の手を取ってベットへ引っ張って行った。
たくさん広げられた着物や洋服を前に、綾香夫人と女中頭である幸がうれしそうな声を上げている。
その場で、ある意味として“いけにえ”となっているのが千寿。
「やっぱり女の子は良いわねえ」
ため息をつく綾香夫人。
「千寿ちゃん、可愛いですしおしゃれが似合いますものね」
別の着物を広げる幸。
洋服を着たままの千寿に羽織らせると、「こっちも素敵ですよ」と綾香夫人の方に向けた。
「わあ、かわいい!」
2人に褒められた千寿が頬を赤らめる。
もう1時間以上も着物や洋服をとっかえひっかえされている。
着替えるたびに2人から賞賛の言葉を浴びていた。
「こっちとこれ、それにこの着物も千寿が着なさい。こっちは寸法を直してちょうだい」
「はい」
「今着ているワンピースも千寿にあげるわ」
千寿は素直に好意を受けるのをためらう。
「奥様、これは新品なのでは?」
「私には派手過ぎるけど、千寿には似合うから」
「でも…」
「良いから、ねっ」
「…はい、ありがとうございます」
千寿はワンピースを着たまま、深く頭を下げた。
「それに伸佑は、ぜーんぜん興味を持たないんだから」
夫である垂水伸太郎子爵が織物や衣料品を商う仕事柄、綾香夫人はかなりの衣装持ちだ。
先祖から伝わった和装はもちろん、開花以来となる流行りの洋装も山ほどそろえていた。
しかし唯一の息子である伸佑は、男であるからか、おしゃれには目もくれなかった
幼い頃、せっかく綾香夫人が苦心して着せた洋装も、あっという間に泥だらけにしてしまう。
中学くらいには落ち着きをみせたものの、綾香夫人が勧めるおしゃれな着物や洋服には目もくれなかった。
綾香夫人が自分自身を着飾るのもそれなりに楽しかったが、やはり限度がある。
そこに奉公人として舞い込んできたのが千寿だった。
「本当にかたじけないです」
盛んに頭を下げる千寿の髪を優しく撫でる。
「良いのよ。たんすの肥やしになっているより、着てもらった方が着物も喜ぶんだから」
「ありがとうございます」
千寿は今日何度目ともなる礼を口にした。
「ふぅ」
ソファに腰かけた綾香夫人は肩を揉んだ。
それを見た千寿が声をかける。
「もしよろしければ、あんまをしましょうか?」
「あら、良いの?」
「田舎では両親や祖父母から褒められていましたので、ちょっと自信があります」
「じゃあ、お願いしようかしら」
千寿は綾香夫人の背中に回ると、両肩に手を置く。
強くはないが、きめ細かく動く10本の指が綾香夫人の両肩をほぐしていく。
「ああ、……いい気持ち」
綾香夫人はうっとりと目を閉じた。
「このところ奥様は、いろいろとお忙しかったですものねえ」
洋服や着物を畳みながら幸が口にする。
千寿は綾香夫人の肩かは始まって、広く首筋や二の腕を揉んでいく。
綾香夫人は目を閉じて千寿のするように任せていた。
「いかがですか?」
「うーん、良かったあ」
綾香夫人は大きく背伸びをする。
「久しぶりに肩が軽くなったみたい」
ソファから立ち上がった綾香夫人は軽く体をひねる。
「どうせなら背中や腰も揉んでもらおうかしら」
「奥様、それが良いですわ、まだ食事の支度まで時間がありますし」
その頃には幸が着物や洋服をきれいに整え終わっていた。
「じゃあ、先に着物を片付けて…」
そう言いかけた千寿に、幸が「私に任せて」と言って首を振る。
「ありがとうございます」
またも頭を下げた千寿。
「じゃあ、千寿、こっちへ来て」
着物を抱えた幸が部屋を出て行くと、綾香夫人は千寿の手を取ってベットへ引っ張って行った。
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