【R18】おのぼりさんが帝都の貴族屋敷で奉公することになりました【完結】

県田 星

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第14章 突然の宣言(千寿編)

第39話 家族4人で

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「ねえ、伸佑さん」

集まった親戚のひとりが切り出した。

「子爵家と女中では、さすがに身分が…」

最後まで言いきらなかったものの、明らかに難色を示していた。
その意見に同意のようで、言葉こそ発しないものの、うなずく親族もいる。

「身分?」
「ええ、まあ…」
「父さん、どう思います?」

伸佑は父である伸太郎に尋ねる。

「いや、身分と言ってもなあ。千寿も…」

伸太郎の後に伸佑が続ける。

「千寿の鳴海家も元々は垂水家から分かれたもので、江戸の頃には家老も務めたことのある家柄ですよね」
「まあ、そうだな」
「維新をくぐり抜けて華族と士族に分かれましたが、それほどまでに家格に違いがあるとは思えません!」

伸佑が言い切ると、先に「身分が」と言い出した親戚が目を伏せた。

「改めてお聞きします」

伸佑が伸太郎を見る。

「私の妻として千寿はいかがですか?」

伸太郎が真っ先に思い浮かべたのは、千寿が施してくれる“あんま”だ。
その後の夫人との交わりも合わせて、もう“あんま”なしの生活は考えられないほどになっていた。
それと合わせて、日ごろの愛嬌の良さや、他の家から「養女に…」と言われていたことも思いだす。

「うむ、千寿ならお前の嫁さんにふさわしいな」

満足そうにうなずいた伸佑は、母である綾香夫人にも同じように尋ねる。

「母さんは、どう思います?千寿は嫁に不釣り合いですか?」

綾香夫人は「いいえ」と即答した。

そんな綾香夫人の脳裏に浮かんだのは、やはり“あんま”のこと。
夫である伸太郎との交わりが復活したこともうれしかったが、それ以上に千寿との“あんま”が新たな楽しみとなっている。

「千寿が私の娘になってくれたらうれしいわ。ずっと一緒にいられるし」

千寿に向かって綾香夫人が微笑むと、千寿が小さな声で「ありがとうございます」と言って会釈した。

両親の意向を確認した伸佑は、千寿を自分の方に向かせると、ゆっくりと告白した。

「千寿、いきなりですまない。改めて千寿の気持ちを聞きたいんだ。結婚して欲しい」
「私で…よろしいのですか?」

千寿が聞き返すと、伸佑は大きくうなずく。

「千寿が奉公に来て以来、いろいろと助けてもらって来た」
「…はあ」

“助けて”とは、言うまでもなく“ご褒美”のこと。

「ちょくちょく勉強のご褒美で、まらをこすってもらっていたんだ。あと1回だけになるけど、千寿のオメコを見せてもらったこともあったよね。いやあ、あの時は絶景だったなあ」

さすがにそこまでは口に出せない。

「千寿からすると頼りなく見える面があるかもしれないけど、この先の人生を一緒に歩いていきたいんだ」

そこまで聞いた千寿は一度視線を伏せた後、伸佑を見上げる。

「私でよろしければ、お受けいたします」
「そうか!」

伸佑は思い切り千寿を抱きしめた後、両脇に手を入れて高々と持ち上げた。

「うーん」

集まった親戚や知人の中には、まだ渋い顔をする者もいたが…

「とってもお似合いですわ。ねえ、皆さん!」

そう言って場を盛り上げたのは千寿と一緒にお茶を運んできた幸だった。

「できるだけ応援するからさ」

以前に幸が湯船で言った言葉を証明した格好。

幸が拍手すると、伸太郎と綾香夫人もそれに続く。
親戚の何人かが手を叩き始め、最後には全員が祝福の拍手を送った。

千寿を床に降ろした伸佑が皆に向かって頭を下げる。
それに習って千寿も皆に深々と礼をした。

「まさに灯台下暗しだったか」
「でも、お似合いですわ」
「両想いであれば、我々の出る幕ではありませんな」
「何でも垂水小町と呼ばれているとか」
「ああ、聞いたことある」

縁談を持ち込んできた親戚や知人が垂水家を後にした。

「では、ごゆっくり」

後片付けを終えた幸が応接間を出ていく。
残ったのは垂水家の3人と千寿。

伸佑がこれ以上ないくらいに笑顔でいるのに対して、千寿は真っ赤になって床を見つめているばかり。

「ところで、だ。伸佑」
「はい?」

伸太郎が真面目な顔で息子に問いかける。

「お前、千寿に手を出していないだろうな」
「えっ!?」

途端に伸佑がうろたえる。
千寿に手を出してはいない。厳密に言えば、手を出しかけて放り投げられたことはあった。
それ以降は、どちらかと言えば千寿に手でいろいろとしてもらっている。

「うん?何かあるのか?」
「いや、別に何も…」

綾香夫人が心配そうに尋ねる。

「千寿、本当に何もされていない?」

千寿は顔を上げて首を振る。

「正直に言ってもいいのよ。もしかして脅されてるとか…」
「いいえ、全く」

その後も綾香夫人からの詰問が重ねられる。
千寿は、休みの日にいろんなところに連れて行ってもらったり、いろいろとご馳走になっていたことを明かした。

「まあ、そうだったのね」
「うーむ、気が付かなかったなあ」

しかし伸太郎は念押しで聞いてくる。

「その時に連れ込み宿とかに引っ張って行かれて、強引に…ってことは?」
「いいえ、一度も」

千寿はしっかり否定する。
伸佑は呆れたように「息子を信頼してくれよ」と嘆いた。

「ともかく!」

伸太郎は立ち上がって、伸佑に人差し指を突き出した。

「結婚は許そう。しかし軽々に手を出すことは許さんぞ!」
「ええっ!」
「当たり前だろう。こうなったからには鳴海の家から預かった大切なお嬢さんなのだからな」
「…はい」

気落ちした息子を前に、伸太郎がニヤリと笑う。

「まあ、ここまで手を出していないのなら。結婚まで大事にしておけ」
「はあ」
「楽しみは先に伸ばしたほど、楽しさが増すからな」
「ふーん」

ふと気づいた伸佑が両親に尋ねる。

「手を出すなって、父さんと母さんはどうだったの?」
「うん?いや、まあ…」

伸太郎が顔を反らした一方で、綾香夫人は意味ありげに微笑む。

「その点、旦那様は手が早い方でしたね」
「お、おいっ!」
「でも十分に大事にしてくれましたわ」
「当たり前だ!」

垂水家の応接間が笑いに包まれた。
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