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第14章 突然の宣言(千寿編)
第38話 花嫁候補
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「いい人がいるんだけど…」
垂水子爵家の一人息子である伸佑の元には、以前からポツポツと縁談が持ち込まれていた。
「いやあ、本人が乗り気でないので」
「息子はまだ若いですから」
伸太郎子爵も綾香夫人も相手にしない。
「今は勉強に集中したくて」
伸佑もさっさと断っていた。
しかし伸佑が帝大に合格したことが広まると、あちこちから縁談が持ち込まれた。
顔見知りの親族であればともかく、こんな人がいたのかと思えるような遠縁の親戚も顔を見せる。
また伸太郎の取引先だったり、綾香夫人の知り合いだったりすると、そうそう安易に断れない。
そうして縁談を持って来る側も、競争相手がいると思うと「自分が持ってくる相手こそ…」と考えるようで、粘り強く押し込んでくる。
「こちらの東條財閥のお嬢様は…」
「藤堂伯爵の娘さんなのですけど…」
「あの田崎商会様には次女がおりまして…」
「九条男爵家に似合いの方が…」
「こちら宮家の遠縁に当たる方で…」
皆同じように考えるようで、最初は話だけを持って来る。
「伸佑さん、いかがですか?」
「前にも言ったけど、今は勉強が…」
次は相手のプロフィールなどを記した釣り書きを持参する。
「趣味はお茶とお琴、お料理もお得意で…」
「ですから、今は…」
それでも動かないと見ると、今度は着飾った写真を何枚も広げて見せた。
「ほら、とってもおきれいでしょう」
「…」
さすがに伸佑も写真には興味があるので一応は目を通すが、その中には「うーん」と敬遠したくなるような写真もあった。
「写真うつりがお悪い方もいるようですね」
「おほほ、そうかもしれませんねえ」
精一杯の皮肉を口にするものの、その程度では相手も引かない。
「おっ」
その反対に、ひとめ見て「はあ」とため息が出そうな美形もいる。
桃色の振袖に高く結い上げた髪、強く見つめる眼差しと引き締まった唇が印象に残った。
「ああ、そちらは黒峰子爵家のお嬢様なのよ」
「へえ」
「お名前は春奈様。どう?お気に召して?」
「いや、まあ、ですから、今は…」
ここまで押しが強くなると、伸太郎子爵も綾香夫人も断るのが難しくなってくる。
「伸佑、どうだ?結婚や婚約は先として、とりあえず付き合うだけでも…」
「そうね、伸佑さん。婚約をするしないは別として、何人かとお会いしてみたら?」
「参ったなあ」
伸佑は額に手を当てた。
応接間にいる人間の視線が伸佑に集まる。
『父さんや母さんの言うように、結婚や婚約はともかく、会うだけでも会ってみても良いかもしれないなあ』
伸佑がそんな風に考えた時だった。
トントントン
応接間の扉がノックされる。
伸太郎が「どうぞ」と応えると、「失礼いたします」と断りを告げて、幸と千寿が入ってくる。
2人が両手に抱えたトレーには、カップとティーポットが乗っていた。
「お茶のお代わりをお持ちしました」
「ああ、ちょうど良かった」
「そうね」
各人が飲み干したカップを幸が片付けて、千寿が新しいお茶を入れたカップを配る。
温かな湯気と香りが、応接間の雰囲気を和ませた。
紅茶を口にした人から「ふぅ」や「はあ」の息がもれる。
そこで親戚のひとりが「ねえ、伸佑さん」と話しかけた。
「何です?」
「もしかして、もう気になる方でもいらっしゃるの?」
「へっ!」
いきなりの問いかけに、伸佑は間の抜けた返事をしてしまう。
「例えば、そうね、どこかのパーティーで見かけたお嬢さんが気になるとか?」
他の親族が「ああ!」とあいづちを打つ。
「うーむ、そう言う人がいるのなら、我々のやっていることは、伸佑君にとって余計なお世話になるな」
「そう言われれば、そうねえ」
「どうだい伸佑君、そうした人でもいるのかい?」
「いえ、気になる人なんて…」
言い淀む伸佑の前にカップが置かれた。
「お坊ちゃま、どうぞ」
「ありがとう」
砂糖を一杯入れて紅茶を口にする。
香り高い温かさが口の中から喉を通った。
「美味いな…」
そのつぶやきが聞こえたのか、伸佑の方を見て千寿がかすかに微笑んだ。
微笑みを見て伸佑も口の端が上がる。
『あっ!』
その途端に伸佑の頭の中にある考えが思い浮かんだ。
「気になる人、います!」
そんな一言が伸佑の口から漏れると、親である伸太郎と綾香夫人はもちろん、その場にいた親族や知人の視線が集まる。
「うん、います!確かにいます!」
一同から「えーっ!」の声があがった。
綾香夫人が「そうなの?伸佑?」と聞き返す。
伸太郎も「おい、それは誰なんだ?名前は分かるのか?」と尋ねた。
伸佑は「はい」と力強くうなずくと、手にしたカップをテーブルに置いた。
勢いよくソファから立ち上がった伸佑は千寿に向かって歩く。
「お茶ですか?」
千寿はお茶のお代わりでもいるのかと思って、ティーポットを持ち上げた。
「いや、それは置いていいから」
「…はあ」
伸佑は千寿の手からティーポットを取り上げる。
そのまま千寿の後方に回ると、両肩に手を置いて皆の前に押し出した。
「千寿と結婚します」
10秒ほど静寂が支配した後、再び「えーっ!」の声が部屋に響いた。
垂水子爵家の一人息子である伸佑の元には、以前からポツポツと縁談が持ち込まれていた。
「いやあ、本人が乗り気でないので」
「息子はまだ若いですから」
伸太郎子爵も綾香夫人も相手にしない。
「今は勉強に集中したくて」
伸佑もさっさと断っていた。
しかし伸佑が帝大に合格したことが広まると、あちこちから縁談が持ち込まれた。
顔見知りの親族であればともかく、こんな人がいたのかと思えるような遠縁の親戚も顔を見せる。
また伸太郎の取引先だったり、綾香夫人の知り合いだったりすると、そうそう安易に断れない。
そうして縁談を持って来る側も、競争相手がいると思うと「自分が持ってくる相手こそ…」と考えるようで、粘り強く押し込んでくる。
「こちらの東條財閥のお嬢様は…」
「藤堂伯爵の娘さんなのですけど…」
「あの田崎商会様には次女がおりまして…」
「九条男爵家に似合いの方が…」
「こちら宮家の遠縁に当たる方で…」
皆同じように考えるようで、最初は話だけを持って来る。
「伸佑さん、いかがですか?」
「前にも言ったけど、今は勉強が…」
次は相手のプロフィールなどを記した釣り書きを持参する。
「趣味はお茶とお琴、お料理もお得意で…」
「ですから、今は…」
それでも動かないと見ると、今度は着飾った写真を何枚も広げて見せた。
「ほら、とってもおきれいでしょう」
「…」
さすがに伸佑も写真には興味があるので一応は目を通すが、その中には「うーん」と敬遠したくなるような写真もあった。
「写真うつりがお悪い方もいるようですね」
「おほほ、そうかもしれませんねえ」
精一杯の皮肉を口にするものの、その程度では相手も引かない。
「おっ」
その反対に、ひとめ見て「はあ」とため息が出そうな美形もいる。
桃色の振袖に高く結い上げた髪、強く見つめる眼差しと引き締まった唇が印象に残った。
「ああ、そちらは黒峰子爵家のお嬢様なのよ」
「へえ」
「お名前は春奈様。どう?お気に召して?」
「いや、まあ、ですから、今は…」
ここまで押しが強くなると、伸太郎子爵も綾香夫人も断るのが難しくなってくる。
「伸佑、どうだ?結婚や婚約は先として、とりあえず付き合うだけでも…」
「そうね、伸佑さん。婚約をするしないは別として、何人かとお会いしてみたら?」
「参ったなあ」
伸佑は額に手を当てた。
応接間にいる人間の視線が伸佑に集まる。
『父さんや母さんの言うように、結婚や婚約はともかく、会うだけでも会ってみても良いかもしれないなあ』
伸佑がそんな風に考えた時だった。
トントントン
応接間の扉がノックされる。
伸太郎が「どうぞ」と応えると、「失礼いたします」と断りを告げて、幸と千寿が入ってくる。
2人が両手に抱えたトレーには、カップとティーポットが乗っていた。
「お茶のお代わりをお持ちしました」
「ああ、ちょうど良かった」
「そうね」
各人が飲み干したカップを幸が片付けて、千寿が新しいお茶を入れたカップを配る。
温かな湯気と香りが、応接間の雰囲気を和ませた。
紅茶を口にした人から「ふぅ」や「はあ」の息がもれる。
そこで親戚のひとりが「ねえ、伸佑さん」と話しかけた。
「何です?」
「もしかして、もう気になる方でもいらっしゃるの?」
「へっ!」
いきなりの問いかけに、伸佑は間の抜けた返事をしてしまう。
「例えば、そうね、どこかのパーティーで見かけたお嬢さんが気になるとか?」
他の親族が「ああ!」とあいづちを打つ。
「うーむ、そう言う人がいるのなら、我々のやっていることは、伸佑君にとって余計なお世話になるな」
「そう言われれば、そうねえ」
「どうだい伸佑君、そうした人でもいるのかい?」
「いえ、気になる人なんて…」
言い淀む伸佑の前にカップが置かれた。
「お坊ちゃま、どうぞ」
「ありがとう」
砂糖を一杯入れて紅茶を口にする。
香り高い温かさが口の中から喉を通った。
「美味いな…」
そのつぶやきが聞こえたのか、伸佑の方を見て千寿がかすかに微笑んだ。
微笑みを見て伸佑も口の端が上がる。
『あっ!』
その途端に伸佑の頭の中にある考えが思い浮かんだ。
「気になる人、います!」
そんな一言が伸佑の口から漏れると、親である伸太郎と綾香夫人はもちろん、その場にいた親族や知人の視線が集まる。
「うん、います!確かにいます!」
一同から「えーっ!」の声があがった。
綾香夫人が「そうなの?伸佑?」と聞き返す。
伸太郎も「おい、それは誰なんだ?名前は分かるのか?」と尋ねた。
伸佑は「はい」と力強くうなずくと、手にしたカップをテーブルに置いた。
勢いよくソファから立ち上がった伸佑は千寿に向かって歩く。
「お茶ですか?」
千寿はお茶のお代わりでもいるのかと思って、ティーポットを持ち上げた。
「いや、それは置いていいから」
「…はあ」
伸佑は千寿の手からティーポットを取り上げる。
そのまま千寿の後方に回ると、両肩に手を置いて皆の前に押し出した。
「千寿と結婚します」
10秒ほど静寂が支配した後、再び「えーっ!」の声が部屋に響いた。
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