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第17章 新婚初夜(善吉編)
第46話 差しつ差されつ
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結婚が決まってしまえば話は早い。
「この辺りに建てるか」
黒峰健太郎《くろみね けんたろう》子爵の指示で屋敷が増築されることになった。
「そこまでして頂くのは…」
そう抵抗したのは善吉のみ。
春代夫人も春奈も当たり前のように受け入れた。
若夫婦専用の湯殿と台所も作って…となりかけたが、そこは善吉が抵抗しきった。
「掃除や手入れが大変ですし」
「うん?奉公人を増やせばよかろう」
「部屋だけで十分です」
「そうか?」
それでも屋敷に4部屋を増築することになった。
大工仕事が聞こえる中で同時に進められたのが、花嫁と花婿の衣装の準備。
黒峰子爵家に出入りする呉服商が呼ばれて、あれやこれやと反物を広げながら選んでいく。
もっとも声を上げるのは春代夫人と春奈ばかり-時に福や智が加わることもあったが-で、健太郎は「任せた」と言って早々と部屋を後にした。
「ねえ、これは?」
「こっちの柄が似合いそう」
「うーん、これも」
「この組み合わせは…」
花婿となる善吉は「はあ、良いですね」とうなずくばかりだった。
ただし善吉からすると、その方が過ごしやすいのは事実であり、変に意見を言えば妨げになることも分っている。
それ以外は以前と変わらず毎日の雑用に精を出す。
「あら、若様、そんなことなさらなくても良いのに」
これまで「善吉」「善吉さん」などと呼ばれていたのも、ちょっと変わってくる。
女中頭の福は「若様」と呼び、庭師の権蔵と妻の智は「若殿」や「若殿様」と呼んだ。
そして通いの女中達は「善吉様」「若旦那様」などいろいろ。
そのどれにも善吉は「はいっ!」と答えていた。
春奈と結婚するとの朗報は善吉の実家にも届けられた。
「黒峰のお嬢様になんてことを!」
一報を聞いた善吉の父親は怒りかけたものの、春奈からの申し出と聞いて安堵した。
そうなると結婚について反対する理由はない。
「父上!母上!」
「善吉か?随分と大きくなったなあ」
「あの善吉がこんなに立派になるなんて」
善吉の両親が上京して武家の作法に沿った結納が行われる。
屋敷の増築が完了したところで、良き日を選んで結婚式が行われた。
今度は善吉の兄弟姉妹や親戚も参加しての盛大なものとなる。
「春奈様、とってもきれい」
「若奥様、素敵」
「春奈さん、とっても似合ってるわ」
多くの参加者の視線は花嫁衣裳の春奈に集まる。
言うまでもなく花婿である善吉も5つ紋の裃姿の正装ながら、やはり春奈の騎士に収まっていた。
朱塗りの杯で三々九度を終えると、盛り上がる参加者をよそに、善吉と春奈は別室に下がる。
「お腹が空いていますでしょう」
別々に風呂を済ませて楽な着物に着替えた2人に、福が気を利かせて2人分の膳を持って来る。
そこには酒の入った徳利と杯が2つ。
「はい、善吉」
春奈が徳利を傾ける。
「ありがとうございます」
杯を持った善吉が恐縮しつつ、酒を受けようとする。
すると春奈が徳利を引いた。
「違うでしょ」
「はい?」
「もう善吉は私の夫なのだから、もっと堂々として」
「あ、はい」
善吉は背筋を伸ばして杯を差し出す。春奈はにっこり笑って徳利から酒を注いだ。
春奈の注いだ酒を一気に飲んだ善吉は体の芯から熱くなる。
「はい」
今度は春奈が杯を差し出す。
「じゃあ、お嬢様も」
それを聞いた春奈が不満そうに頬をふくらませて、杯を引いた。
「えっ!?」
「お嬢様、じゃあないでしょ」
「…ああ」
善吉は何度か口を開きかけた後、ようやく「春奈」とつぶやいた。
「うん?」
春奈は「聞こえないよー」とばかりに耳を傾ける。
「春奈」
「はーい」
いくらか大きくなった呼び声に春奈は応えて杯を出した。
善吉が注いだ酒を春奈もちょっとだけ舐めた後、全部飲み干した。
それに続いて膳に用意された飯やお菜を食べていく。
「それじゃあ、あーん」
春奈が箸で善吉に食べさせ、善吉がお菜箸でつまんで春奈の口に持って行く。
ひと通り口にして腹が満ちたところで、春奈がお茶を入れた。
「はい」
「ありがとうございます」
「ほら、またー!」
「すみません」
まだまだ敬語が抜けない善吉だったが、春奈は笑って受け入れた。
2人はお茶を飲みつつ、互いを意識して視線を交わす。
と言っても、春奈が善吉を見つめ続けているのに対して、善吉は春奈と目が合うとすぐに反らしてしまう。
春奈にとってはじれったくもあったが、そうした善吉が愛おしくもあった。
「ねえ、善吉」
春奈はお茶を飲み干すと、善吉の方ににじり寄る。
「は、はいっ」
善吉が持ったままの湯のみ茶わんを手から外すと、膳に戻す。
その空いた膝の上に春奈が横座りになった。
春奈は善吉の首に手を回すものの、善吉は動かない。
「ほら、抱っこして」
「はいっ」
ようやく善吉が春奈の背中に腕を回した。しかし腕の力はごくごく弱い。
「もっと強く!」
「はい」
「もっと!」
「はい」
ようやく春奈が満足する力の入れ具合となる。
しばらく抱き合った後、少し体を離した春奈が善吉を見つめて目を閉じた。
『お嬢様』
そう言いかけた善吉だったが、春奈の考えを悟ってなにも言わないまま春奈の唇に吸い付いた。
チュパッ
唇に感触を得た春奈も善吉の唇を吸う。
ちょっとだけ目を開けた春奈は、善吉が目を閉じているのを確認して、また目を閉じた。
そのまま唇を吸い合っていたが、春奈が顔を引いたのを感じて善吉も顔を離した。
春奈は善吉の胸に顔を寄せると、しっかりと抱きしめる。
それでも善吉が動かないのを感じると「善吉、連れてって」とささやいた。
「はい」
軽々と春奈を横抱きにして立ち上がった善吉は隣の寝所へと足を進める。
ふすまを開けると2人用の布団が用意されていた。
「この辺りに建てるか」
黒峰健太郎《くろみね けんたろう》子爵の指示で屋敷が増築されることになった。
「そこまでして頂くのは…」
そう抵抗したのは善吉のみ。
春代夫人も春奈も当たり前のように受け入れた。
若夫婦専用の湯殿と台所も作って…となりかけたが、そこは善吉が抵抗しきった。
「掃除や手入れが大変ですし」
「うん?奉公人を増やせばよかろう」
「部屋だけで十分です」
「そうか?」
それでも屋敷に4部屋を増築することになった。
大工仕事が聞こえる中で同時に進められたのが、花嫁と花婿の衣装の準備。
黒峰子爵家に出入りする呉服商が呼ばれて、あれやこれやと反物を広げながら選んでいく。
もっとも声を上げるのは春代夫人と春奈ばかり-時に福や智が加わることもあったが-で、健太郎は「任せた」と言って早々と部屋を後にした。
「ねえ、これは?」
「こっちの柄が似合いそう」
「うーん、これも」
「この組み合わせは…」
花婿となる善吉は「はあ、良いですね」とうなずくばかりだった。
ただし善吉からすると、その方が過ごしやすいのは事実であり、変に意見を言えば妨げになることも分っている。
それ以外は以前と変わらず毎日の雑用に精を出す。
「あら、若様、そんなことなさらなくても良いのに」
これまで「善吉」「善吉さん」などと呼ばれていたのも、ちょっと変わってくる。
女中頭の福は「若様」と呼び、庭師の権蔵と妻の智は「若殿」や「若殿様」と呼んだ。
そして通いの女中達は「善吉様」「若旦那様」などいろいろ。
そのどれにも善吉は「はいっ!」と答えていた。
春奈と結婚するとの朗報は善吉の実家にも届けられた。
「黒峰のお嬢様になんてことを!」
一報を聞いた善吉の父親は怒りかけたものの、春奈からの申し出と聞いて安堵した。
そうなると結婚について反対する理由はない。
「父上!母上!」
「善吉か?随分と大きくなったなあ」
「あの善吉がこんなに立派になるなんて」
善吉の両親が上京して武家の作法に沿った結納が行われる。
屋敷の増築が完了したところで、良き日を選んで結婚式が行われた。
今度は善吉の兄弟姉妹や親戚も参加しての盛大なものとなる。
「春奈様、とってもきれい」
「若奥様、素敵」
「春奈さん、とっても似合ってるわ」
多くの参加者の視線は花嫁衣裳の春奈に集まる。
言うまでもなく花婿である善吉も5つ紋の裃姿の正装ながら、やはり春奈の騎士に収まっていた。
朱塗りの杯で三々九度を終えると、盛り上がる参加者をよそに、善吉と春奈は別室に下がる。
「お腹が空いていますでしょう」
別々に風呂を済ませて楽な着物に着替えた2人に、福が気を利かせて2人分の膳を持って来る。
そこには酒の入った徳利と杯が2つ。
「はい、善吉」
春奈が徳利を傾ける。
「ありがとうございます」
杯を持った善吉が恐縮しつつ、酒を受けようとする。
すると春奈が徳利を引いた。
「違うでしょ」
「はい?」
「もう善吉は私の夫なのだから、もっと堂々として」
「あ、はい」
善吉は背筋を伸ばして杯を差し出す。春奈はにっこり笑って徳利から酒を注いだ。
春奈の注いだ酒を一気に飲んだ善吉は体の芯から熱くなる。
「はい」
今度は春奈が杯を差し出す。
「じゃあ、お嬢様も」
それを聞いた春奈が不満そうに頬をふくらませて、杯を引いた。
「えっ!?」
「お嬢様、じゃあないでしょ」
「…ああ」
善吉は何度か口を開きかけた後、ようやく「春奈」とつぶやいた。
「うん?」
春奈は「聞こえないよー」とばかりに耳を傾ける。
「春奈」
「はーい」
いくらか大きくなった呼び声に春奈は応えて杯を出した。
善吉が注いだ酒を春奈もちょっとだけ舐めた後、全部飲み干した。
それに続いて膳に用意された飯やお菜を食べていく。
「それじゃあ、あーん」
春奈が箸で善吉に食べさせ、善吉がお菜箸でつまんで春奈の口に持って行く。
ひと通り口にして腹が満ちたところで、春奈がお茶を入れた。
「はい」
「ありがとうございます」
「ほら、またー!」
「すみません」
まだまだ敬語が抜けない善吉だったが、春奈は笑って受け入れた。
2人はお茶を飲みつつ、互いを意識して視線を交わす。
と言っても、春奈が善吉を見つめ続けているのに対して、善吉は春奈と目が合うとすぐに反らしてしまう。
春奈にとってはじれったくもあったが、そうした善吉が愛おしくもあった。
「ねえ、善吉」
春奈はお茶を飲み干すと、善吉の方ににじり寄る。
「は、はいっ」
善吉が持ったままの湯のみ茶わんを手から外すと、膳に戻す。
その空いた膝の上に春奈が横座りになった。
春奈は善吉の首に手を回すものの、善吉は動かない。
「ほら、抱っこして」
「はいっ」
ようやく善吉が春奈の背中に腕を回した。しかし腕の力はごくごく弱い。
「もっと強く!」
「はい」
「もっと!」
「はい」
ようやく春奈が満足する力の入れ具合となる。
しばらく抱き合った後、少し体を離した春奈が善吉を見つめて目を閉じた。
『お嬢様』
そう言いかけた善吉だったが、春奈の考えを悟ってなにも言わないまま春奈の唇に吸い付いた。
チュパッ
唇に感触を得た春奈も善吉の唇を吸う。
ちょっとだけ目を開けた春奈は、善吉が目を閉じているのを確認して、また目を閉じた。
そのまま唇を吸い合っていたが、春奈が顔を引いたのを感じて善吉も顔を離した。
春奈は善吉の胸に顔を寄せると、しっかりと抱きしめる。
それでも善吉が動かないのを感じると「善吉、連れてって」とささやいた。
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軽々と春奈を横抱きにして立ち上がった善吉は隣の寝所へと足を進める。
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