1 / 50
序章
しおりを挟む
「これが蒸気機関車かあ。帝都はすっごいところだなや」
海を望む土手の上から千寿が歓声をあげた。
煙突から流れ出す真っ黒な煙。
どこまでも響きそうな汽笛。
千寿が立っている土手まで揺れそうな地響き。
千寿がこれまで暮らしてきた故郷では全く見られない光景だった。
もっとも蒸気機関車を眺めているのは千寿だけではない。
大勢の老若男女が土手のそこかしこに立ったり座ったりして蒸気機関車を眺めていた。
千寿と同じように歓声をあげている者もいれば、ポカンと口を開けて眺めているばかりの者もいる。
いつまでも見飽きない景色に思えたが、上京した目的を考えれば、このまま眺めているわけにはいかない。
そう思い直した千寿は蒸気機関車に視線を置いたまま歩こうとした。
「おわっ!」
「きゃっ!」
誰かにぶつかったかと思うと、2人して土手から転がり落ちていく。
千寿は故郷から持ってきた風呂敷包みをしっかりと抱えて体を丸めた。
何度も転がった後で平らなところに至ったらしく、転がり落ちるのがようやく止まる。
「あたたー」
千寿はうめき声を出したものの、声に出すほどに痛みは感じていなかった。
「うーん?」
改めて見れば、千寿をかばうように坊主頭の若い男が千寿の頭や背中を抱えている。
見方を変えれば、千寿が抱きしめられているのと同じ。
「きゃっ!」
初めてとも言える若い男との密着に、千寿は思わず男を突きとばした。
「うわっ、ととと!」
起き上がりかけた男が尻もちをついた。
「あ、も、申し訳ないっす!」
あわてて千寿は男の手を握って引っ張り起こした。
「あはは、いやあ、どっちも怪我が無いようで良かったべ」
立ち上がった男が袴の尻を叩くと、大きくほこりが立つ。
グッと背を反らすと、背中の風呂敷包みを背負い直した。
女なりに小柄な千寿だったが、若い男も大差ない背格好。
「どうも、よそ見をしていて、ほんにすみませんっす」
「いえいえ、わっしもそっぽを向いていたんで。しっかし、すごい陸蒸気だべ」
「ほんに、ほんに」
2人は蒸気機関車に目を移した。
既に遠くへ去っているが、長い煙が目印のように続いている。
「わっしは田舎から奉公に出てきたんだども、これを見れただけでも良かったべ」
「兄さんもですか?あたしも貴族様のところに奉公することになったのっす」
「へえー、わっしも貴族様のところだべ」
偶然ながらも同じような境遇にある者同士だと分かり、自然と心強さにつながった。
「そんなら、あたしも兄さんも、またどっかでお会いできるかもしれませんねえ」
「ええ、お互いに一生懸命奉公を頑張るべや」
「あい」
2人は名も知らないまま、別々の方向へと歩いていった。
---------------------------------------------------------------------------------
次からは千寿が主人公で数話。その次に男主人公(善吉)で数話。その繰り返しで続いて行きますので、よろしくお願いいたします。m(_ _)m
海を望む土手の上から千寿が歓声をあげた。
煙突から流れ出す真っ黒な煙。
どこまでも響きそうな汽笛。
千寿が立っている土手まで揺れそうな地響き。
千寿がこれまで暮らしてきた故郷では全く見られない光景だった。
もっとも蒸気機関車を眺めているのは千寿だけではない。
大勢の老若男女が土手のそこかしこに立ったり座ったりして蒸気機関車を眺めていた。
千寿と同じように歓声をあげている者もいれば、ポカンと口を開けて眺めているばかりの者もいる。
いつまでも見飽きない景色に思えたが、上京した目的を考えれば、このまま眺めているわけにはいかない。
そう思い直した千寿は蒸気機関車に視線を置いたまま歩こうとした。
「おわっ!」
「きゃっ!」
誰かにぶつかったかと思うと、2人して土手から転がり落ちていく。
千寿は故郷から持ってきた風呂敷包みをしっかりと抱えて体を丸めた。
何度も転がった後で平らなところに至ったらしく、転がり落ちるのがようやく止まる。
「あたたー」
千寿はうめき声を出したものの、声に出すほどに痛みは感じていなかった。
「うーん?」
改めて見れば、千寿をかばうように坊主頭の若い男が千寿の頭や背中を抱えている。
見方を変えれば、千寿が抱きしめられているのと同じ。
「きゃっ!」
初めてとも言える若い男との密着に、千寿は思わず男を突きとばした。
「うわっ、ととと!」
起き上がりかけた男が尻もちをついた。
「あ、も、申し訳ないっす!」
あわてて千寿は男の手を握って引っ張り起こした。
「あはは、いやあ、どっちも怪我が無いようで良かったべ」
立ち上がった男が袴の尻を叩くと、大きくほこりが立つ。
グッと背を反らすと、背中の風呂敷包みを背負い直した。
女なりに小柄な千寿だったが、若い男も大差ない背格好。
「どうも、よそ見をしていて、ほんにすみませんっす」
「いえいえ、わっしもそっぽを向いていたんで。しっかし、すごい陸蒸気だべ」
「ほんに、ほんに」
2人は蒸気機関車に目を移した。
既に遠くへ去っているが、長い煙が目印のように続いている。
「わっしは田舎から奉公に出てきたんだども、これを見れただけでも良かったべ」
「兄さんもですか?あたしも貴族様のところに奉公することになったのっす」
「へえー、わっしも貴族様のところだべ」
偶然ながらも同じような境遇にある者同士だと分かり、自然と心強さにつながった。
「そんなら、あたしも兄さんも、またどっかでお会いできるかもしれませんねえ」
「ええ、お互いに一生懸命奉公を頑張るべや」
「あい」
2人は名も知らないまま、別々の方向へと歩いていった。
---------------------------------------------------------------------------------
次からは千寿が主人公で数話。その次に男主人公(善吉)で数話。その繰り返しで続いて行きますので、よろしくお願いいたします。m(_ _)m
10
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる