20 / 250
第19話 タルバンの来訪
しおりを挟む
「伯爵様だ!」
馬車の窓から顔を覗かせると、民衆の中から声があがる。
「相変わらずお元気そうで何よりだ」
「あの事故を乗り越えて伯爵様になったんだから大変だろうな」
「しかし何とか頑張って領地を盛り立てて欲しいものだ」
「無理を承知で頼んでみるか」
止まった馬車に民衆が近寄って行く。
御者台から降りたホスルトが扉を開けると、まずは執事のデュランが、そしてタルバンが姿を現した。
民衆の中から初老の男性、村長が進み出る。
「伯爵様自らの見回り、ご苦労様です」
「うむ、実際に見ないと分からないことも多いからな」
「先代様も同じようになさっておいででした」
「ああ、父上を見習って、だ」
「ところで…」
村長がタルバンの背後にある馬車を覗き込む。
「今日はアラーナ様はいらっしゃらないのですか?」
「うん?ああ、いろいろすることがあってね。書類の取りまとめを頼んでいるんだ」
「…そうでしたか」
タルバンの言葉に村長が落胆する。
民衆からも「居ないのかあ」「なーんだ」のような声が聞こえる。
「えー、アラーナ様、居ないのー」
子供らしい叫びも聞こえる。
タルバンの目には明らかに熱気が下がったように見えた。
「ま、まあ、今年の実り具合なんかを教えてくれないか?」
「はい、こちらへどうぞ」
村長の案内に続いて、タルバンが村のあちこちを見て回る。
数人の男女が付いてくるものの、その他の領民は家や畑に散って行った。
「まあ、例年並みの出来ばえってところか」
「先代様が灌漑施設を整えて下さったお陰で、ようやく水には困らなくなりましたが、そもそも土がやせているので」
「全体的な土地の改良は…金がないなあ」
「何かやせた土地でもそこそこ育つものがあれば良いのですが」
「うーん、探しておこう」
ひと通り見回った後は、付いてきた男女から要望を聞く。
「あの辺りに橋があると助かるんですが…」
「そうか、考えておこう」
「村に行商人が来る回数を増やして欲しいです」
「知り合いの商人に声をかけてみるよ」
「炭の売値が今ひとつ低くて困ります」
「質は良いんだがなあ。新しい売り先を探してみよう」
要望にできる限り応えていく。こうしたタルバンの真摯な姿勢は領民から十分に信頼を得ていた。
そのため先代のコロック・クリスパ伯爵が亡くなった時、領内の騒動は小さなものですんだ。
やがて村から離れる時間が来る。
「タルバン様!」
馬車に乗り込もうとしたタルバンに、村の女が袋を抱えて歩み寄る。
デュランが止めようとしたが、「構わないよ」とタルバンが進み出た。
「これを…」
女は袋から毛皮を出した。
「ウサギの毛皮で作ってみたんです。温かくなるように…と」
毛皮で丁寧に作り込んだマフラーだった。
「そうか、ありがとう」
タルバンが首に巻こうとした時、女が慌てる。
「あ、その、それを、アラーナ様に」
「ああ、そうか」
タルバンは苦笑すると、毛皮を丁寧に畳んでデュランに渡した。
「必ず渡しておくよ」
女はうれしそうにうなずいた。
タルバンは馬車に乗ると、窓から顔を出して手を振った。
見送る村民も「タルバン様ー」と手を振って応じた。
やがて馬車はクリスパ家の屋敷に戻る。
馬車から降りたタルバンをアラーナが出迎える。
「ほい、お土産だ」
タルバンは毛皮をアラーナの首に巻く。
アラーナは嬉しそうな顔を見せる。
「改めてアラーナの人気を実感したよ。父上や母上がアラーナを連れていくわけだ」
毛皮に顔を半ば埋めつつアラーナは板を見せる。
【声が出るようになったら、私も一緒に行きます】
「ああ、そうだな」
馬車の窓から顔を覗かせると、民衆の中から声があがる。
「相変わらずお元気そうで何よりだ」
「あの事故を乗り越えて伯爵様になったんだから大変だろうな」
「しかし何とか頑張って領地を盛り立てて欲しいものだ」
「無理を承知で頼んでみるか」
止まった馬車に民衆が近寄って行く。
御者台から降りたホスルトが扉を開けると、まずは執事のデュランが、そしてタルバンが姿を現した。
民衆の中から初老の男性、村長が進み出る。
「伯爵様自らの見回り、ご苦労様です」
「うむ、実際に見ないと分からないことも多いからな」
「先代様も同じようになさっておいででした」
「ああ、父上を見習って、だ」
「ところで…」
村長がタルバンの背後にある馬車を覗き込む。
「今日はアラーナ様はいらっしゃらないのですか?」
「うん?ああ、いろいろすることがあってね。書類の取りまとめを頼んでいるんだ」
「…そうでしたか」
タルバンの言葉に村長が落胆する。
民衆からも「居ないのかあ」「なーんだ」のような声が聞こえる。
「えー、アラーナ様、居ないのー」
子供らしい叫びも聞こえる。
タルバンの目には明らかに熱気が下がったように見えた。
「ま、まあ、今年の実り具合なんかを教えてくれないか?」
「はい、こちらへどうぞ」
村長の案内に続いて、タルバンが村のあちこちを見て回る。
数人の男女が付いてくるものの、その他の領民は家や畑に散って行った。
「まあ、例年並みの出来ばえってところか」
「先代様が灌漑施設を整えて下さったお陰で、ようやく水には困らなくなりましたが、そもそも土がやせているので」
「全体的な土地の改良は…金がないなあ」
「何かやせた土地でもそこそこ育つものがあれば良いのですが」
「うーん、探しておこう」
ひと通り見回った後は、付いてきた男女から要望を聞く。
「あの辺りに橋があると助かるんですが…」
「そうか、考えておこう」
「村に行商人が来る回数を増やして欲しいです」
「知り合いの商人に声をかけてみるよ」
「炭の売値が今ひとつ低くて困ります」
「質は良いんだがなあ。新しい売り先を探してみよう」
要望にできる限り応えていく。こうしたタルバンの真摯な姿勢は領民から十分に信頼を得ていた。
そのため先代のコロック・クリスパ伯爵が亡くなった時、領内の騒動は小さなものですんだ。
やがて村から離れる時間が来る。
「タルバン様!」
馬車に乗り込もうとしたタルバンに、村の女が袋を抱えて歩み寄る。
デュランが止めようとしたが、「構わないよ」とタルバンが進み出た。
「これを…」
女は袋から毛皮を出した。
「ウサギの毛皮で作ってみたんです。温かくなるように…と」
毛皮で丁寧に作り込んだマフラーだった。
「そうか、ありがとう」
タルバンが首に巻こうとした時、女が慌てる。
「あ、その、それを、アラーナ様に」
「ああ、そうか」
タルバンは苦笑すると、毛皮を丁寧に畳んでデュランに渡した。
「必ず渡しておくよ」
女はうれしそうにうなずいた。
タルバンは馬車に乗ると、窓から顔を出して手を振った。
見送る村民も「タルバン様ー」と手を振って応じた。
やがて馬車はクリスパ家の屋敷に戻る。
馬車から降りたタルバンをアラーナが出迎える。
「ほい、お土産だ」
タルバンは毛皮をアラーナの首に巻く。
アラーナは嬉しそうな顔を見せる。
「改めてアラーナの人気を実感したよ。父上や母上がアラーナを連れていくわけだ」
毛皮に顔を半ば埋めつつアラーナは板を見せる。
【声が出るようになったら、私も一緒に行きます】
「ああ、そうだな」
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる