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第100話 2人の執事
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「いってらっしゃいませ」
カルトメリ・ワーレンバーグ公爵とタルバン・クリスパ伯爵を乗せた馬車が王宮に向かう。
見送りに出た使用人達は、馬車の影が見えなくなると、それぞれの仕事に戻って行った。
残されたデュランは『さて、どうするか』と考える。
『公爵邸を見て回りたい気もするが、勝手に動き回るのもなあ。誰かに案内を頼めれば良いけど…」
主人であるタルバンからは「王都でも見物してきたらどうだ?」と言われている。
王都行きに備えて、お金はそこそこ持ってきた。
と言っても、公爵が馴染みの娼館へ行くには程遠い。
『本屋にでも行ってみるか。目新しい本があるかも…』
そう考えて振り向いたところ、コーネリア・センシスが立っていた。
「デュラン様、よろしければ、ワーレンバーグ公爵邸をご案内しましょうか?」
声をかけられたデュランは固まる。
「お、女、だったのか…」
言われた瞬間、コーネリアの顔が厳しくなる。
「女が執事になってはいけませんか?それとも女には見えなかったとでも?」
ハッとしたデュランは「申し訳ありません!」と腰から曲げて頭を下げる。
それでもコーネリアは見下げた表情を崩さない。
しかしデュランが一向に頭を上げないのを見ると、「止めてください」と声をかけた。
「本当に申し訳ありませんでした。あえて言い訳をさせてもらえれば…」
「いえ、もう構いません」
コーネリアの言葉にも関わらず、デュランは続ける、
「以前、クリスパ領に来られた際、同じ格好をされていたのを少し離れたところで見て『小柄な男性だな』と思い込んでいたので…」
「この格好は動きやすいからしているだけです」
「随分と髪を短かくしているんですね」
「執事の仕事に髪は無関係です。特に着飾る機会がもありませんし」
「そうですか?でも…」
コーネリアは話しをさえぎる。
「公爵邸の案内は不要ですか?」
「ぜひ!お願いします!それと“様”は止めてください」
「それでは、デュラン、さん」
「はい!コーネリアさん」
一瞬、コーネリアは不快そうに目を細める。
それでもデュランがこぼれそうな笑顔を見せたので、そのまま受け入れた。
「付いて来てください」
「はい!」
コーネリアの後を追っかけるデュラン。
短く整えた黒髪、その下の白い首筋、しっかり伸びた背筋に引き締まった尻、そしてきびきび動く両足。
これを上下に何度も眺めつつ、少し後方を歩く。
「こちらが書物庫です」
「はい」
説明を聞きながら、デュランはコーネリアの横顔を観察する。
切れ長の黒い瞳、小さめの鼻、わずかに赤みを帯びた唇。胸は…控えめ。
「何か?」
不審気にコーネリアがデュランを見る。
「あ、いえ、すごい数の本ですね」
「それだけに管理も大変ですが」
「確かに」
ここで「大人向けの絵物語はあるんですか?」のように聞かないくらいのわきまえは、デュランも持っていた。
それでもコーネリアの横顔をチラリと見るデュラン。
『姉さんなら、どんな風に化粧をするだろうなあ』
その後も公爵邸をひと通り回りつつ、出会った使用人を紹介してもらう。
「家人の数も多いですね」
「ええ、クリスパ家は4人とか」
「はい、家族経営です」
主だったところを回り終えると、コーネリアがデュランに尋ねる。
「このくらいですが、何か聞きたいことはありますか?」
少し考えたデュランが切り出す。
「ちょっと、いやかなり下世話なことを聞いても良いですか?」
「下世話なこと?まあ、どうぞ」
「こちらでは2000リーグル貰えると聞いています」
「ああ、そのようですね」
新たに増える4人の給金についてはコーネリアも聞いていた。
「コーネリアさんはどのくらいの給金なのですか?」
「最初は1600リーグルでした。見習いが取れた今は2400リーグルです」
「…すごい」
「父はあなた達と同じ2000リーグルですよ」
「えっ!」
「加えて自分の領地を持っていますけどね」
自分のことではないが、コーネリアが胸を反らす。
デュランは「ああ!」と納得した。
ワーレンバーグ公爵家の執事ともなれば、自領の経営次第で収入を増やせるのだろう。
「実はクリスパ領の給金は300リーグルでした」
「はあ…」
「四半期ではなく、年300リーグルです」
「えっ?」
コーネリアは聞き間違いかと思ったが、デュランの様子からすると間違いではないらしい。
以前に見た資料に使用人の数は書かれていたが、給金までは載っていなかった。
「さらに付け加えれば、私1人ではなく、家族4人で年300リーグルなんです」
「本当ですか?」
「そんな貴族もあるってことです」
わざとらしくデュランが肩をすくめると、コーネリアから「クスッ」と笑いがこぼれる。
「ようやく笑ってくれましたね」
「あ、失礼しました」
一瞬で真顔に戻るコーネリアにデュランが耳打ちする。
「着飾っても似合うと思いますよ」
「えっ!?」
意味をつかみ損ねたコーネリアに、デュランは「案内ありがとうございました!」と告げて走って行った。
カルトメリ・ワーレンバーグ公爵とタルバン・クリスパ伯爵を乗せた馬車が王宮に向かう。
見送りに出た使用人達は、馬車の影が見えなくなると、それぞれの仕事に戻って行った。
残されたデュランは『さて、どうするか』と考える。
『公爵邸を見て回りたい気もするが、勝手に動き回るのもなあ。誰かに案内を頼めれば良いけど…」
主人であるタルバンからは「王都でも見物してきたらどうだ?」と言われている。
王都行きに備えて、お金はそこそこ持ってきた。
と言っても、公爵が馴染みの娼館へ行くには程遠い。
『本屋にでも行ってみるか。目新しい本があるかも…』
そう考えて振り向いたところ、コーネリア・センシスが立っていた。
「デュラン様、よろしければ、ワーレンバーグ公爵邸をご案内しましょうか?」
声をかけられたデュランは固まる。
「お、女、だったのか…」
言われた瞬間、コーネリアの顔が厳しくなる。
「女が執事になってはいけませんか?それとも女には見えなかったとでも?」
ハッとしたデュランは「申し訳ありません!」と腰から曲げて頭を下げる。
それでもコーネリアは見下げた表情を崩さない。
しかしデュランが一向に頭を上げないのを見ると、「止めてください」と声をかけた。
「本当に申し訳ありませんでした。あえて言い訳をさせてもらえれば…」
「いえ、もう構いません」
コーネリアの言葉にも関わらず、デュランは続ける、
「以前、クリスパ領に来られた際、同じ格好をされていたのを少し離れたところで見て『小柄な男性だな』と思い込んでいたので…」
「この格好は動きやすいからしているだけです」
「随分と髪を短かくしているんですね」
「執事の仕事に髪は無関係です。特に着飾る機会がもありませんし」
「そうですか?でも…」
コーネリアは話しをさえぎる。
「公爵邸の案内は不要ですか?」
「ぜひ!お願いします!それと“様”は止めてください」
「それでは、デュラン、さん」
「はい!コーネリアさん」
一瞬、コーネリアは不快そうに目を細める。
それでもデュランがこぼれそうな笑顔を見せたので、そのまま受け入れた。
「付いて来てください」
「はい!」
コーネリアの後を追っかけるデュラン。
短く整えた黒髪、その下の白い首筋、しっかり伸びた背筋に引き締まった尻、そしてきびきび動く両足。
これを上下に何度も眺めつつ、少し後方を歩く。
「こちらが書物庫です」
「はい」
説明を聞きながら、デュランはコーネリアの横顔を観察する。
切れ長の黒い瞳、小さめの鼻、わずかに赤みを帯びた唇。胸は…控えめ。
「何か?」
不審気にコーネリアがデュランを見る。
「あ、いえ、すごい数の本ですね」
「それだけに管理も大変ですが」
「確かに」
ここで「大人向けの絵物語はあるんですか?」のように聞かないくらいのわきまえは、デュランも持っていた。
それでもコーネリアの横顔をチラリと見るデュラン。
『姉さんなら、どんな風に化粧をするだろうなあ』
その後も公爵邸をひと通り回りつつ、出会った使用人を紹介してもらう。
「家人の数も多いですね」
「ええ、クリスパ家は4人とか」
「はい、家族経営です」
主だったところを回り終えると、コーネリアがデュランに尋ねる。
「このくらいですが、何か聞きたいことはありますか?」
少し考えたデュランが切り出す。
「ちょっと、いやかなり下世話なことを聞いても良いですか?」
「下世話なこと?まあ、どうぞ」
「こちらでは2000リーグル貰えると聞いています」
「ああ、そのようですね」
新たに増える4人の給金についてはコーネリアも聞いていた。
「コーネリアさんはどのくらいの給金なのですか?」
「最初は1600リーグルでした。見習いが取れた今は2400リーグルです」
「…すごい」
「父はあなた達と同じ2000リーグルですよ」
「えっ!」
「加えて自分の領地を持っていますけどね」
自分のことではないが、コーネリアが胸を反らす。
デュランは「ああ!」と納得した。
ワーレンバーグ公爵家の執事ともなれば、自領の経営次第で収入を増やせるのだろう。
「実はクリスパ領の給金は300リーグルでした」
「はあ…」
「四半期ではなく、年300リーグルです」
「えっ?」
コーネリアは聞き間違いかと思ったが、デュランの様子からすると間違いではないらしい。
以前に見た資料に使用人の数は書かれていたが、給金までは載っていなかった。
「さらに付け加えれば、私1人ではなく、家族4人で年300リーグルなんです」
「本当ですか?」
「そんな貴族もあるってことです」
わざとらしくデュランが肩をすくめると、コーネリアから「クスッ」と笑いがこぼれる。
「ようやく笑ってくれましたね」
「あ、失礼しました」
一瞬で真顔に戻るコーネリアにデュランが耳打ちする。
「着飾っても似合うと思いますよ」
「えっ!?」
意味をつかみ損ねたコーネリアに、デュランは「案内ありがとうございました!」と告げて走って行った。
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