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第106話 戸惑う訪問者
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「何ぃ!おられない!だと?」
ワーレンバーグ公爵家の馬車が止まっている宿には、大勢の人が押し掛けていた。
いずれも近隣の貴族や有力者達ながら、彼らは宿の主人の返答に戸惑った。
「はい、そうしたお方はお泊りになっておりません」
しかし、そのくらいで引き下がる者ばかりではない。
「そんなはずはない!」
「面談を断っているのか?」
「あの馬車は公爵家のものだろう」
「会えないのなら手紙だけでも」
「少しの時間で良いのだ!」
押しかけてきた貴族や有力者達は口々に詰め寄るが、宿の主人は譲らない。
と言うよりも、いない人は「いない」と答えるのみ。
その中には金貨を握らせようとした者もいたが、主人が受け取ることはなかった。
「皆様方が何とおっしゃられても、アラーナ・クリスパ伯爵令嬢様はお泊りになっておりません」
通りがかった公爵家の騎士に事情を尋ねる貴族もいたが、公爵家の騎士が答えるはずもなかった。
「旦那様!」
そこに何人かの使用人が駆け込んでくる。
それぞれの主人を見つけると、駆け寄って報告する。
「どうした?」
「実は…」
他人に聞こえないよう耳打ちした。
「公爵家の馬車が?」
「はい、間違いなく」
「すると、こちらの馬車は?」
「おとりの可能性がありそうです」
「そうだったのか!」
慌てて何組かの主従が駆け出して行く。
それらのやり取りを漏れ聞いた他の貴族や有力者らも宿を出て行った。
主人以外に誰も居なくなった宿の受付に、公爵家の騎士が寄ってくる。
「ご主人、すまない」
公爵家の騎士は申し訳なさそうに声をかけた。
宿の主人が汗をぬぐう。しかしその顔はほころんでいる。
「いえいえ、十分にお礼を頂いておりますので」
「まあ、それもそうだな」
「ところでいかがでしょう?次はあえて当宿にお泊りになる。そんな手もございますよ」
主人が揉み手で提案すると、騎士は「それも面白そうだ」と笑う。
「ただな。もうしばらくすると別の宿に押しかけていた者がこっちに来るだろう」
「ええ、ええ、それも心得ておりますよ。『いないものはいない』それだけでございます」
宿の主人と騎士が顔を見合わせて大笑いした。
「しかしアラーナ様も大変でございますね」
「正式に公爵閣下と結婚してワーレンバーグ公爵家の一員となれば、こうした無理な訪問も減るだろう」
「ああ、そうですな」
数刻の後、別の馬車を追いかけていた貴族や有力者らが、こちらに押し掛けてきた。
しかし宿の主人は「お泊りになっておりません」と素っ気なく答えるのみ。
「こちらにアラーナ・クリスパ伯爵令嬢がいらっしゃると聞いた」
「せっかくのご来訪ですが、そのような方はおりませんな」
「この宿にアラーナ・クリスパ様が…」
「残念ながら、お泊りではありませんね」
「ここにアラーナ様が…」
「いいえ…」
同じようなやり取りは、他の2カ所の宿でも行われていた。
結果的に貴族や有力者らは3カ所の宿を行ったり来たりしたものの、誰もアラーナと面会できなかった。
その頃、アラーナ(タルバン)ら一行は、馬で駆け抜けてずっと先にある別の町へとたどり着いていた。
目立たない宿に、ワーレンバーグ公爵家ともクリスパ伯爵家とも名乗らずに泊まる。
「どうやら上手く行きましたね」
アラーナ(タルバン)の言葉にアリィ(アラーナ)とパルマが微笑む。
オルギュールもホッとひと安心していた。
ワーレンバーグ公爵家の馬車が止まっている宿には、大勢の人が押し掛けていた。
いずれも近隣の貴族や有力者達ながら、彼らは宿の主人の返答に戸惑った。
「はい、そうしたお方はお泊りになっておりません」
しかし、そのくらいで引き下がる者ばかりではない。
「そんなはずはない!」
「面談を断っているのか?」
「あの馬車は公爵家のものだろう」
「会えないのなら手紙だけでも」
「少しの時間で良いのだ!」
押しかけてきた貴族や有力者達は口々に詰め寄るが、宿の主人は譲らない。
と言うよりも、いない人は「いない」と答えるのみ。
その中には金貨を握らせようとした者もいたが、主人が受け取ることはなかった。
「皆様方が何とおっしゃられても、アラーナ・クリスパ伯爵令嬢様はお泊りになっておりません」
通りがかった公爵家の騎士に事情を尋ねる貴族もいたが、公爵家の騎士が答えるはずもなかった。
「旦那様!」
そこに何人かの使用人が駆け込んでくる。
それぞれの主人を見つけると、駆け寄って報告する。
「どうした?」
「実は…」
他人に聞こえないよう耳打ちした。
「公爵家の馬車が?」
「はい、間違いなく」
「すると、こちらの馬車は?」
「おとりの可能性がありそうです」
「そうだったのか!」
慌てて何組かの主従が駆け出して行く。
それらのやり取りを漏れ聞いた他の貴族や有力者らも宿を出て行った。
主人以外に誰も居なくなった宿の受付に、公爵家の騎士が寄ってくる。
「ご主人、すまない」
公爵家の騎士は申し訳なさそうに声をかけた。
宿の主人が汗をぬぐう。しかしその顔はほころんでいる。
「いえいえ、十分にお礼を頂いておりますので」
「まあ、それもそうだな」
「ところでいかがでしょう?次はあえて当宿にお泊りになる。そんな手もございますよ」
主人が揉み手で提案すると、騎士は「それも面白そうだ」と笑う。
「ただな。もうしばらくすると別の宿に押しかけていた者がこっちに来るだろう」
「ええ、ええ、それも心得ておりますよ。『いないものはいない』それだけでございます」
宿の主人と騎士が顔を見合わせて大笑いした。
「しかしアラーナ様も大変でございますね」
「正式に公爵閣下と結婚してワーレンバーグ公爵家の一員となれば、こうした無理な訪問も減るだろう」
「ああ、そうですな」
数刻の後、別の馬車を追いかけていた貴族や有力者らが、こちらに押し掛けてきた。
しかし宿の主人は「お泊りになっておりません」と素っ気なく答えるのみ。
「こちらにアラーナ・クリスパ伯爵令嬢がいらっしゃると聞いた」
「せっかくのご来訪ですが、そのような方はおりませんな」
「この宿にアラーナ・クリスパ様が…」
「残念ながら、お泊りではありませんね」
「ここにアラーナ様が…」
「いいえ…」
同じようなやり取りは、他の2カ所の宿でも行われていた。
結果的に貴族や有力者らは3カ所の宿を行ったり来たりしたものの、誰もアラーナと面会できなかった。
その頃、アラーナ(タルバン)ら一行は、馬で駆け抜けてずっと先にある別の町へとたどり着いていた。
目立たない宿に、ワーレンバーグ公爵家ともクリスパ伯爵家とも名乗らずに泊まる。
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