【R18】兄と2人で公爵様に嫁いでみました【完結】

県田 星

文字の大きさ
191 / 250

第132話 右足の犠牲

しおりを挟む
「ねえ、アラーナ様、私達もお話をお聞きしたいの」

デュランの目の前にいる令嬢達がアラーナ(タルバン)を誘う。
いずれも場にふさわしく華やかに着飾った令嬢ばかり。

アラーナ(タルバン)は歩みを進めたものの、デュランの視線に気づいた。

『何か、ある?』

そう思った途端に令嬢から飲み物を勧められる。

「喉を潤した方がよろしいのでは?」

差し出されたグラスは、どれもアルコールが強めの酒だ。

「ありがとうございます」

アラーナ(タルバン)はグラスを選ぶ。
令嬢は「乾杯しましょう」とグラスを掲げて飲み干す。
アラーナ(タルバン)もそれに付き合った。

『なるほどねえ』

アラーナ(タルバン)に勧められるのは強めの酒。
一方で令嬢達が手にしているのは軽めの酒かジュース。

立て続けに4、5杯も飲まされれば、普通の令嬢であればすぐに寄ってしまうだろう。
そう、普通の令嬢であれば。

『ちょっと乗ってみるか』

アラーナ(タルバン)は、わざと酔ったふりをして、貴族令嬢の1人に寄りかかる。

「ごめんなさい。少し酔ったみたい」

そんな様子を見た令嬢達は「上手く行った」とばかりにほくそ笑む。

「あちらで休みましょうか」
「そうね、涼しいですし」
「アラーナ様、こちらへどうぞ」

アラーナ(タルバン)を噴水の近くへと導いた。

この辺りで、アラーナ(タルバン)はその後の展開が読めた。
もちろん、アラーナ(タルバン)を見守っていた3人にも。
ただし、3人は見守るのみに留めている。
アラーナ(タルバン)が「分かってる」と目くばせしたためだ。

噴水の間近に立ったアラーナ(タルバン)に、2人の貴族令嬢が近づく。
他の3人は周囲から目隠しするような立ち位置を取った。

「あらっ、ごめんなさい」
「うーん、私も酔ったのかしら」

2人の貴族令嬢が思い切りアラーナ(タルバン)に体当たりした。
普通の貴族令嬢であれば、噴水に突き落とされただろう。
そう、普通の貴族令嬢であれば。

アラーナ(タルバン)は女装こそしているが、体幹は普通の男性。
いや、貧乏伯爵家を支えるために普段から肉体労働に精を出してきた分、普通の男性以上にたくましかった。

片方の体当たりを難なくかわすと、もう片方の貴族令嬢の体当たりを跳ね返した。
跳ね返された令嬢は「キャッ」と叫んで尻もちをつく。

かわされた令嬢は…。

「あっ、あっ、あっ、あーっ…」

噴水に飛び込みそうになったところを、アラーナ(タルバン)の手が彼女の肩に伸びた。

「危ない!」

そのまま引っ張ろうとしたアラーナ(タルバン)だったが、アラーナに扮した衣装と靴が自由な動作を妨げる。

「それっ!」

グラスを投げ捨てて両手で令嬢を引っ張る。
それでも難しいと悟ると、右足を噴水の中に突っ込んだ。

「キャアアアッ!」

令嬢の叫び声が周囲の視線を集めた。
ここでパルマとデュランが大声を上げる。

「酔ったお客様が噴水に落ちかけました!」
「そこをアラーナ様がお助けに!」

万が一仲間が噴水に落ちた場合-落ちかけた場合も-はアラーナ(タルバン)の責任にする。
そう考えていた令嬢達の機先を制しての発言。

叫び声で集まって来た参加者も、パルマらの説明を受け入れる。

アリィ(アラーナ)はカルトメリを連れてきた。
カルトメリも瞬時に状況を理解する。
アラーナ(タルバン)は令嬢を横抱きにしたまま、噴水から右足を引き出す。

「平気、ではなさそうだな」
「片足だけ」

アラーナ(タルバン)が右足を上げると、噴水の水が滴った。

「でも、こちらのお嬢様が無事で何よりです」
「そうだな」

アラーナ(タルバン)が腕の中の令嬢に微笑みを向ける。
身を縮こまられた令嬢は恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。

「あ、あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」

アラーナ(タルバン)は令嬢をゆっくりと降ろす。

「アラーナ様って、力があるんですね」

アラーナ(タルバン)を突き落とそうとしたもう1人の令嬢が精一杯の皮肉を口にする。

「そうね、子供の頃から野山を駆け回ったり木登りしたりしていましたから」
「ああ、クリスパ領って田舎ですものね」
「だからこそ、あなたを助けられて良かったわ」

アラーナ(タルバン)が噴水に落ちそうになった令嬢の髪を整える。

「本当にありがとうございました。実は私達…」

4人の令嬢がハッとしたところで、アラーナ(タルバン)が唇に人差し指を置く。

「これから仲良くしてくれるとうれしいの。あなた達も、ね」

5人の令嬢はうなずくばかり。
アラーナ(タルバン)の微笑みに加えて、カルトメリの睨みがあったからだろう。

「とにかく着替えよう」
「ええ」

カルトメリとアラーナ(タルバン)が招待客に一礼して会場を後にした。
その後に3人も続く。

「思い出した」

カルトメリが口を開くと、アラーナ(タルバン)が「何を?」と尋ねる。

「あそこにいた2人、最終候補者だ」
「なるほど」

アラーナ(タルバン)が振り返って手を振ると、5人は恐縮したように頭を深く下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...