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黒い森の魔女
相談 と 弱気
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「______黒い泥?」
「うん」
小さなお客の名前はジークといった。
彼は森の入口から少し離れたところにある町の外れに住む農家の息子らしい。
丁度お湯が沸いたところだったので1杯余計に茶を淹れて突然の来訪者に出してやった。テーブルの上にはあのしつこい騎士が置いていった菓子がまだ残っていたので茶菓子もある。
子供は正直苦手だ。まあ、大人も苦手なんだが。
とりあえず菓子を出しておけば何とかなるだろうという駄目な大人の安直な考えから、我々は唐突なティータイムに突入することとなった。
「食べていいよ。まあ、食べなくてもいいけど」
「いや、俺は別にお腹は」
ぐう、と空気を読まない腹の音がどこからか聞こえてきた。
正直でよろしい。やはり子供はそうでなくては。
「助けを呼んで帰ってきた息子が盛大に腹を鳴らしていちゃ、格好がつかないよ。用意ができたら直ぐに出るからその間に何か腹に入れておきなね」
言われて渋々焼き菓子の皿に手を伸ばした少年曰く、森で遭遇した黒い泥のようなものに襲われてから段々と母親の体調が悪くなっているのだという。
襲われたのは一昨日のこと。
森から帰ってきた母親が急に寝込んでしまったと町の医者にも見せたらしい。
栄養失調のようだと医者は言っていたようだが、何を与えても回復の兆しは見えず、その上恐ろしい速度で痩せ細っていると言うのだ。
「しかしそれは……また、何とも不思議な話だな」
飲まず食わずで倒れたりするならまだ話は分かる。
数日も経たないうちに栄養失調と診断を受けるほどやせ細るというのは明らかに普通ではなかった。
加えて、襲われたのは森のごく浅い場所なのだという。
そんな所で襲われること、もとい襲うようなものがそんな場所にいるのは普通のことではない。
町の人間が入ってくるようなところには噂されているような魔物はまず出てこないのだ。
私の住んでいる森の中域ですら魔物と呼ばれうる存在を目にすることはそう多くないわけであるし。
_______黒い、泥。
人間を襲うような恐ろしいものがまさか本当に泥だとは言うまい。
さてどうしたものか、と特に頭痛もしないのに眉間を押さえた。
果たしてそんな生き物がこの森にはいただろうか。
正直あまり覚えはない。
この感じだと実際に見てみるまでは何とも言えないので、今できることと言えば必要そうなものを持って目の前の子供の母親の元へと急ぐことだけだ。
皿の上の焼き菓子と来客用のカップを空にして、小さな来訪者は膝に手を置きこちらを見上げて言った。
「ねえお願い!……します。医者もお手上げだって、このままじゃ母さんが、母さんが!」
子供の目がまっすぐとこちらを見つめている。
彼の目に今、私はどう映っているのだろう。
必ず助けるなんて言えない不甲斐ない魔女で申し訳ないが、いつだって弱気な魔女はこんな時でも逃げに回るのだ。
「まあ、出来るだけのことはやってみるよ」
「本当!?早く行こう!」
「……そうだね。行こうか」
走って外へ向かう彼の背中に眩しいものを感じながら、使えそうなものを一式入れた麻の袋を片手に暗い森へと続くドアを開けた。
暗い森の中、1人で歩いてこんな所まで訪ねてきた少年に向けようとした「上手くいかなかったらごめん」という言葉は、静かに腹の底へと収めておいた。
「うん」
小さなお客の名前はジークといった。
彼は森の入口から少し離れたところにある町の外れに住む農家の息子らしい。
丁度お湯が沸いたところだったので1杯余計に茶を淹れて突然の来訪者に出してやった。テーブルの上にはあのしつこい騎士が置いていった菓子がまだ残っていたので茶菓子もある。
子供は正直苦手だ。まあ、大人も苦手なんだが。
とりあえず菓子を出しておけば何とかなるだろうという駄目な大人の安直な考えから、我々は唐突なティータイムに突入することとなった。
「食べていいよ。まあ、食べなくてもいいけど」
「いや、俺は別にお腹は」
ぐう、と空気を読まない腹の音がどこからか聞こえてきた。
正直でよろしい。やはり子供はそうでなくては。
「助けを呼んで帰ってきた息子が盛大に腹を鳴らしていちゃ、格好がつかないよ。用意ができたら直ぐに出るからその間に何か腹に入れておきなね」
言われて渋々焼き菓子の皿に手を伸ばした少年曰く、森で遭遇した黒い泥のようなものに襲われてから段々と母親の体調が悪くなっているのだという。
襲われたのは一昨日のこと。
森から帰ってきた母親が急に寝込んでしまったと町の医者にも見せたらしい。
栄養失調のようだと医者は言っていたようだが、何を与えても回復の兆しは見えず、その上恐ろしい速度で痩せ細っていると言うのだ。
「しかしそれは……また、何とも不思議な話だな」
飲まず食わずで倒れたりするならまだ話は分かる。
数日も経たないうちに栄養失調と診断を受けるほどやせ細るというのは明らかに普通ではなかった。
加えて、襲われたのは森のごく浅い場所なのだという。
そんな所で襲われること、もとい襲うようなものがそんな場所にいるのは普通のことではない。
町の人間が入ってくるようなところには噂されているような魔物はまず出てこないのだ。
私の住んでいる森の中域ですら魔物と呼ばれうる存在を目にすることはそう多くないわけであるし。
_______黒い、泥。
人間を襲うような恐ろしいものがまさか本当に泥だとは言うまい。
さてどうしたものか、と特に頭痛もしないのに眉間を押さえた。
果たしてそんな生き物がこの森にはいただろうか。
正直あまり覚えはない。
この感じだと実際に見てみるまでは何とも言えないので、今できることと言えば必要そうなものを持って目の前の子供の母親の元へと急ぐことだけだ。
皿の上の焼き菓子と来客用のカップを空にして、小さな来訪者は膝に手を置きこちらを見上げて言った。
「ねえお願い!……します。医者もお手上げだって、このままじゃ母さんが、母さんが!」
子供の目がまっすぐとこちらを見つめている。
彼の目に今、私はどう映っているのだろう。
必ず助けるなんて言えない不甲斐ない魔女で申し訳ないが、いつだって弱気な魔女はこんな時でも逃げに回るのだ。
「まあ、出来るだけのことはやってみるよ」
「本当!?早く行こう!」
「……そうだね。行こうか」
走って外へ向かう彼の背中に眩しいものを感じながら、使えそうなものを一式入れた麻の袋を片手に暗い森へと続くドアを開けた。
暗い森の中、1人で歩いてこんな所まで訪ねてきた少年に向けようとした「上手くいかなかったらごめん」という言葉は、静かに腹の底へと収めておいた。
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