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黒い森の魔女
苔 と 道標
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母親が黒い泥に侵された。
一昨日森に入ってから体調を崩し、とうとうベッドから起きてこなくなった。
黒い森で泥に襲われたのだと言っていたが、別に奥深くまで入ったわけではないのだという。
時間とともに弱っていく母さんに何をしてやることもできず、打てる手は全て打ったのだという医者もお手上げだと白旗を上げてしまった。
______黒い森には魔物が出るらしい。
町の人間であれば誰もが知っている話だった。
魔女に雇われた人間が彼女が作ったのだという怪しげな薬を売っているのを何度か見かけたことがある。
人間嫌いとの噂もあったけれど、特に町の住民たちを怖がらせてくるようなこともないので無用な攻撃をしてくるようなことはないと思った。
もう他に頼れるものがなかったのもあって、父さんの静止を振り切って家を出たあと、森の入口を走り抜けた。
明かりも持たずにやってきた夜の森は真っ暗で右も左も分からない。
振り返った道は酷く暗く、引き返すこともできなくてただひたすら前だと思う方を向いて走った。
「どこだ……!どこだよ、魔女の家……!」
獣道を通り、草木をかき分けひたすらに進む。
枝に引っかかってできた腕の傷がじわりと熱を持っていくのを、次の1歩を踏み出す瞬間にはもう忘れていた。
気にしている暇なんて無くて、もうどうすればいいのかも分からないまま。ただただ走った。
お願い、お願い、助けて、誰か。
「うわっ!」
途中で木の根か何かに躓いて転んでしまい、膝が痛くて熱かった。
_______走らなきゃ。今は俺しかいないのに。
だけど痛くて上手く足が動かない。
空と地面がひっくり返ったような心地がして、何が何だか分からなくなって。暫く地面に這いつくばっていた。
そうして立ち上がれないまま、顔を上げて前を見た時だった。
「……!」
光る苔みたいなものが地面に這いつくばっている自分の目の前で光っていた。
それは細く、道のように集まっていて、フラフラと何とか立ち上がって微かな緑色の光を辿ってゆくとやがて開けた場所に出た。
そこから見えた丘の上。
怪しく光る道の先には小さな古い家がひとつだけ見える。
「あった……!」
足がもつれそうになりながら、明かりがついている家を目掛けて一生懸命に走った。
魔女の家を見つけて気が緩んでしまって、考えなしにドアを叩いた。
「……どちら様で?」
中から声が聞こえてきたのに驚いて声が上手く出ない。
「ま、魔女さんはいらっしゃいますか!」
緊張して返事を待っていると、カチャリとドアノブの回る音がしてドアが開く。
心臓がバクバクと音を立てている。慣れない光に顔が一瞬見えなかった。
目を細めて見てみると、出てきたのは想像していた魔女よりもずっと若い真っ黒な髪の女の人だった。
「入って。要件はそれから聞きます」
暗い外に慣れた目に、家の明かりが眩しかった。
一昨日森に入ってから体調を崩し、とうとうベッドから起きてこなくなった。
黒い森で泥に襲われたのだと言っていたが、別に奥深くまで入ったわけではないのだという。
時間とともに弱っていく母さんに何をしてやることもできず、打てる手は全て打ったのだという医者もお手上げだと白旗を上げてしまった。
______黒い森には魔物が出るらしい。
町の人間であれば誰もが知っている話だった。
魔女に雇われた人間が彼女が作ったのだという怪しげな薬を売っているのを何度か見かけたことがある。
人間嫌いとの噂もあったけれど、特に町の住民たちを怖がらせてくるようなこともないので無用な攻撃をしてくるようなことはないと思った。
もう他に頼れるものがなかったのもあって、父さんの静止を振り切って家を出たあと、森の入口を走り抜けた。
明かりも持たずにやってきた夜の森は真っ暗で右も左も分からない。
振り返った道は酷く暗く、引き返すこともできなくてただひたすら前だと思う方を向いて走った。
「どこだ……!どこだよ、魔女の家……!」
獣道を通り、草木をかき分けひたすらに進む。
枝に引っかかってできた腕の傷がじわりと熱を持っていくのを、次の1歩を踏み出す瞬間にはもう忘れていた。
気にしている暇なんて無くて、もうどうすればいいのかも分からないまま。ただただ走った。
お願い、お願い、助けて、誰か。
「うわっ!」
途中で木の根か何かに躓いて転んでしまい、膝が痛くて熱かった。
_______走らなきゃ。今は俺しかいないのに。
だけど痛くて上手く足が動かない。
空と地面がひっくり返ったような心地がして、何が何だか分からなくなって。暫く地面に這いつくばっていた。
そうして立ち上がれないまま、顔を上げて前を見た時だった。
「……!」
光る苔みたいなものが地面に這いつくばっている自分の目の前で光っていた。
それは細く、道のように集まっていて、フラフラと何とか立ち上がって微かな緑色の光を辿ってゆくとやがて開けた場所に出た。
そこから見えた丘の上。
怪しく光る道の先には小さな古い家がひとつだけ見える。
「あった……!」
足がもつれそうになりながら、明かりがついている家を目掛けて一生懸命に走った。
魔女の家を見つけて気が緩んでしまって、考えなしにドアを叩いた。
「……どちら様で?」
中から声が聞こえてきたのに驚いて声が上手く出ない。
「ま、魔女さんはいらっしゃいますか!」
緊張して返事を待っていると、カチャリとドアノブの回る音がしてドアが開く。
心臓がバクバクと音を立てている。慣れない光に顔が一瞬見えなかった。
目を細めて見てみると、出てきたのは想像していた魔女よりもずっと若い真っ黒な髪の女の人だった。
「入って。要件はそれから聞きます」
暗い外に慣れた目に、家の明かりが眩しかった。
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