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第五章 しん愛編
144. シンモラ
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アークが帰ってきた。
その情報がノーヤダーマ城を駆け巡る。
その中でも最も安堵したのは、ランスロットであった。
このままでは第一軍と戦うはめになる。
――絶対無理。なんで戦うの? 馬鹿なの? そもそもなんで俺が軍のトップなの? 意味わかんなくない?
と、ランスロットは困惑していた。
ランスロットの能力は決して高くない。
むしろ周りの面々と比べたら、かなり劣っている。
部下たちが優秀なおかげであたかもランスロットが優秀なように見えるだけだ。
本人は自分の実力を正しく認識しており、軍でトップをはる器ではないと自覚している。
平時でも胃に穴が空きそうなのに、第一軍と戦うことになり、ランスロットのストレスは半端ないものになっていた。
無敗の名将、テュール。
そのテュールが率いる最強の軍隊、第一軍。
最も敵に回してはいけない相手が攻め入ってくるのだ。
これにストレスを感じないほうが無理だ。
さらに、ランスロットは大軍を率いて戦った経験がない。
せいぜい3000程度だ。
それでも十分な数だが、軍全体を動かした経験はない。
そんな戦が今までになかったからだ。
軍はすでに1万を超える勢力になっている。
吐き気を覚えるほどの軍勢だ。
その指揮をするというのは相当なストレスになる。
それも部下たちはランスロットの実力を勝手に高く評価している。
恐怖だった。
この戦に負ければ、ガルム領が滅びるのだ。
そんな責任をランスロットが負えるはずもなかった。
だから、アークが帰ってきたと聞いたときは狂ったように笑った。
これで自分の責任は軽くなる。
と、そう思っていたのだが、
「軍の指揮権を一時期的に貴様に預けよう。期待しているぞ、ランスロットよ」
ランスロットはあまりの責任と期待の重さに発狂しそうになった。
その場で発狂しなかったランスロットは、自分で自分を褒めたいくらいだった。
もちろん、褒めたとことで何も変わりはしないのだが……。
周囲からの期待の目にランスロットは吐き気を覚えた。
――もう……ほんと勘弁してくれ。
ランスロットの憂鬱は続く。
◇ ◇ ◇
アークの帰還でノーヤダーマ城が賑わっていたが、実はアークは偽物であり、申がアークに扮した姿であった。
本物のアークは未だに村でのんびりしている。
第一軍が攻め入ってくることはもちろんしないし、当然、国との戦争に突入したことも知らない。
さらにブリュンヒルデがアークを殺そうと血眼になって探していることも知らない。
村人から飯をたかって、
「これぞ悪徳貴族だ! フハハハ!」
と、高笑いしている。
たかだ村人から飯をもらった程度で、悪徳貴族だとのたまうあまりにも小さな男である。
村の居心地が良いあまり、無駄に長く滞在をしている。
こんな緊迫感ある情勢なのに、まったく脳天気な男である。
そんな能天気で器の小さな男は、
「そろそろ飽きてきたし、村から出るとしようか」
と、ようやく重い腰を上げたのであった。
こうして様々な者たちの思惑が交差する中、何の思惑もないアークが乱入していくのであった。
◇ ◇ ◇
シンモラ――。
彼女は本編では悲しい最期を迎えるキャラだ。
だが、この世界ではアークによって救われ、カミュラのもと”指”の一員として活動していた。
そして数年。
原作では死んだような目をしていたシンモラだったが、この世界では生き生きとしながら活躍――否、暗躍していた。
そのシンモラだが、未だにスルトとは会えていなかった。
忙しく会う時間がなかった――というのは言い訳である。
スルトに会いに行く時間はいつでもあった。
だが、会いにいく勇気がなかった。
シンモラが初めてスルトを認識したのは、2年前。
ナンバーズⅧ、骸が学園を襲撃してきた日だ。
カミュラのもと”指”として活動していたところ、スルトを目にした。
声をかけることができた。
だが、そのときのスルトの印象がシンモラの知る姿とかけ離れており、シンモラは怖くなってしまった。
シンモラはアークによって救われた。
対して、スルトはどうだったのか?
シンモラが救われたように、スルトも誰かに救われたのだろうか?
スルトはずっと一人ではなかったのか?
自分だけが楽しい日々を送っていたことに罪悪感を覚えてしまった。
それ以降、彼女はスルトと接するのを恐れてしまった。
そうしてスルトと話す機会を先延ばしにしてしまっていた。
カミュラもシンモラのことを気遣い、あえてスルトが関わる任務にシンモラを連れて行かないようにしていた。
だが、今回はさすがに会わないほうが難しい。
カミュラの右腕として活躍するシンモラは、重要な会議には出席している。
そして案の定、先程の軍事会議でシンモラとスルトは再会を果たした。
スルトは幽霊でも見たような驚いた表情で、シンモラを見つめていた。
それもそのはずだ。
彼はシンモラを死んだものだと考えていたのだ。
シンモラは申し訳なくなった。
「さすがにもう会いにいきなさい。戦の前にその状態では、任せられるものも任せられないわ」
「ですが今でなくとも……」
なおもシンモラは逃げようとする。
「時が経つのは私が思っている以上に早いわ。
それに、私達に明日が保証されてるわけでもない」
戦争が始まった。
明日の自身の命すら怪しい。
アークとてすべてを救えるわけでもない。
その手からこぼれ落ちるものもあるはずだ。
その溢れ落ちるものが、自分にならないとは限らない。
「明日死ぬかもしれない。たとえ明日死んでも後悔のない選択をしなさい」
カミュラにそう言われ、シンモラはスルトに会いに行く覚悟ができた。
こうして彼女は、過去に置き忘れてしまったものを取り返しにいくのだった。
その情報がノーヤダーマ城を駆け巡る。
その中でも最も安堵したのは、ランスロットであった。
このままでは第一軍と戦うはめになる。
――絶対無理。なんで戦うの? 馬鹿なの? そもそもなんで俺が軍のトップなの? 意味わかんなくない?
と、ランスロットは困惑していた。
ランスロットの能力は決して高くない。
むしろ周りの面々と比べたら、かなり劣っている。
部下たちが優秀なおかげであたかもランスロットが優秀なように見えるだけだ。
本人は自分の実力を正しく認識しており、軍でトップをはる器ではないと自覚している。
平時でも胃に穴が空きそうなのに、第一軍と戦うことになり、ランスロットのストレスは半端ないものになっていた。
無敗の名将、テュール。
そのテュールが率いる最強の軍隊、第一軍。
最も敵に回してはいけない相手が攻め入ってくるのだ。
これにストレスを感じないほうが無理だ。
さらに、ランスロットは大軍を率いて戦った経験がない。
せいぜい3000程度だ。
それでも十分な数だが、軍全体を動かした経験はない。
そんな戦が今までになかったからだ。
軍はすでに1万を超える勢力になっている。
吐き気を覚えるほどの軍勢だ。
その指揮をするというのは相当なストレスになる。
それも部下たちはランスロットの実力を勝手に高く評価している。
恐怖だった。
この戦に負ければ、ガルム領が滅びるのだ。
そんな責任をランスロットが負えるはずもなかった。
だから、アークが帰ってきたと聞いたときは狂ったように笑った。
これで自分の責任は軽くなる。
と、そう思っていたのだが、
「軍の指揮権を一時期的に貴様に預けよう。期待しているぞ、ランスロットよ」
ランスロットはあまりの責任と期待の重さに発狂しそうになった。
その場で発狂しなかったランスロットは、自分で自分を褒めたいくらいだった。
もちろん、褒めたとことで何も変わりはしないのだが……。
周囲からの期待の目にランスロットは吐き気を覚えた。
――もう……ほんと勘弁してくれ。
ランスロットの憂鬱は続く。
◇ ◇ ◇
アークの帰還でノーヤダーマ城が賑わっていたが、実はアークは偽物であり、申がアークに扮した姿であった。
本物のアークは未だに村でのんびりしている。
第一軍が攻め入ってくることはもちろんしないし、当然、国との戦争に突入したことも知らない。
さらにブリュンヒルデがアークを殺そうと血眼になって探していることも知らない。
村人から飯をたかって、
「これぞ悪徳貴族だ! フハハハ!」
と、高笑いしている。
たかだ村人から飯をもらった程度で、悪徳貴族だとのたまうあまりにも小さな男である。
村の居心地が良いあまり、無駄に長く滞在をしている。
こんな緊迫感ある情勢なのに、まったく脳天気な男である。
そんな能天気で器の小さな男は、
「そろそろ飽きてきたし、村から出るとしようか」
と、ようやく重い腰を上げたのであった。
こうして様々な者たちの思惑が交差する中、何の思惑もないアークが乱入していくのであった。
◇ ◇ ◇
シンモラ――。
彼女は本編では悲しい最期を迎えるキャラだ。
だが、この世界ではアークによって救われ、カミュラのもと”指”の一員として活動していた。
そして数年。
原作では死んだような目をしていたシンモラだったが、この世界では生き生きとしながら活躍――否、暗躍していた。
そのシンモラだが、未だにスルトとは会えていなかった。
忙しく会う時間がなかった――というのは言い訳である。
スルトに会いに行く時間はいつでもあった。
だが、会いにいく勇気がなかった。
シンモラが初めてスルトを認識したのは、2年前。
ナンバーズⅧ、骸が学園を襲撃してきた日だ。
カミュラのもと”指”として活動していたところ、スルトを目にした。
声をかけることができた。
だが、そのときのスルトの印象がシンモラの知る姿とかけ離れており、シンモラは怖くなってしまった。
シンモラはアークによって救われた。
対して、スルトはどうだったのか?
シンモラが救われたように、スルトも誰かに救われたのだろうか?
スルトはずっと一人ではなかったのか?
自分だけが楽しい日々を送っていたことに罪悪感を覚えてしまった。
それ以降、彼女はスルトと接するのを恐れてしまった。
そうしてスルトと話す機会を先延ばしにしてしまっていた。
カミュラもシンモラのことを気遣い、あえてスルトが関わる任務にシンモラを連れて行かないようにしていた。
だが、今回はさすがに会わないほうが難しい。
カミュラの右腕として活躍するシンモラは、重要な会議には出席している。
そして案の定、先程の軍事会議でシンモラとスルトは再会を果たした。
スルトは幽霊でも見たような驚いた表情で、シンモラを見つめていた。
それもそのはずだ。
彼はシンモラを死んだものだと考えていたのだ。
シンモラは申し訳なくなった。
「さすがにもう会いにいきなさい。戦の前にその状態では、任せられるものも任せられないわ」
「ですが今でなくとも……」
なおもシンモラは逃げようとする。
「時が経つのは私が思っている以上に早いわ。
それに、私達に明日が保証されてるわけでもない」
戦争が始まった。
明日の自身の命すら怪しい。
アークとてすべてを救えるわけでもない。
その手からこぼれ落ちるものもあるはずだ。
その溢れ落ちるものが、自分にならないとは限らない。
「明日死ぬかもしれない。たとえ明日死んでも後悔のない選択をしなさい」
カミュラにそう言われ、シンモラはスルトに会いに行く覚悟ができた。
こうして彼女は、過去に置き忘れてしまったものを取り返しにいくのだった。
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