私が豚令嬢ですけど、なにか? ~豚のように太った侯爵令嬢に転生しましたが、ダイエットに成功して絶世の美少女になりました~

米津

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第二章

39. セリーヌの怒り

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 セリーヌは喉の乾きを覚えた。

 エリザベスの視線を受けてセリーヌは喉がカラカラ乾く。
 彼女は紅茶を口に含み、喉を潤す。
 そして努めて冷静に振る舞いながら聞き返す。

「それは……どういうことでしょう?」
「フローラ様がパーティに遅れて登場した理由。ご存知ですわね?」
「い、いえ……」
「あら不思議なこと。そちらの従者がフローラ様のドレスを汚したのに、主人であるあなたが知らないとでも?」

 セリーヌは焦りを隠すように、わざと目を見開いて見せた。

「まあ! そんなことがあったのですね。申し訳ありません。従者が勝手にやったことでして……」

 そうセリーヌが言うと従者が顔を真っ青にさせた。
 もちろん、従者はセリーヌの指示で動いていた。
 主人に裏切られたのだ。
 従者は主人に逆らう権利がない。
 黙って罪をかぶるしかないのだ。

 エリザベスの追撃は止まらない。

「まさかそのような言い訳が通用するとでも? 私を馬鹿にしないでいただけます?」

 エリザベスは高らかに笑う。
 それは相手を威嚇する笑みだ。

「たとえあなたの従者が勝手にやったことだとして。それは主人であるセリーヌ様の失敗でもありますのよ。伯爵令嬢のあなたが侯爵令嬢、フローラ・メイ・フォーブズのドレスを台無しにし、恥をかかせようとした。この事実に変わりはありませんわ」
「…………」
「私のお友達を傷つけた。これがどういう意味かわかりまして? 今後の社交界が……いえ、学園生活がとても楽しみですわ」

 セリーヌが口をわなわなと震わせた。
 そして彼女はポツリと呟いた。

「なんで……」

 セリーヌの声が冷たく響く。
 彼女の声には怨嗟がこもっていた。

「なんであんなヤツを!」

 セリーヌがドンッとテーブルを叩き、声を上げた。
 取り巻きたちが小さく悲鳴をあげる。

「あんな豚のどこがいいのよ!? ブクブクに太って醜く。皆の笑い者だった豚の! フローラ・メイ・フォーブズは聖女でもなんでもない。ただのブタよ。ぶひぶひ鳴くだけの醜い豚だわ!」

 セリーヌはまくしたてるように感情を吐露した。
 顔を上気させ、エリザベスを睨む。
 しかし、エリザベスは冷めた表情でセリーヌを見る。

「言いたいことは済んだかしら?」

 恐ろしく冷たい声だ。
 セリーヌは背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
 だが彼女は、ここで怯むわけにはいかなかった。

「私が、私だけが悪いって、そういいたいの? エリザベス様だって昔のフローラを見たら、きっと馬鹿にするわ」

 セリーヌはエリザベスに食ってかかるように叫んだ。
 そのあと、彼女は取り巻きたちに目を向ける。

「あなた達だって、フローラを見て笑っていたじゃない! 忘れもしないわ! 第一王子の誕生日会の日、あなたたちがフローラを馬鹿にして笑っていたことを! ふんっ、あなたたちだって同じ穴の狢よ」

 取り巻きたちは、セリーヌに気圧され気まずい顔をする。
 かつて、彼女らはフローラのことを豚令嬢だと罵っていた時期がある。

「私だけじゃないわ。それなのに私だけ悪者扱い? 私だけを断罪するのね」

 セリーヌが勝ち誇った笑みを浮かべ、エリザベスを見据えた。

 エリザベスはセリーヌの言葉に憤りを感じていた。

 ――フローラ様は必死の努力の末、今の美しい姿を手に入れられたの。その努力は褒められるべきであり、貶して良いはずありません。過去の姿が醜かったと言うのなら、なおさら今の美しさを褒め称えるべきよ。

 美しいものが好きなエリザベスは、美しく変身を遂げたフローラを賞賛している。
 フローラを貶されたことで、エリザベスは憤っていた。

「あんな豚、いなくなっちゃえばいいのよ。そうだわ! 廃棄処分しましょう。高貴な者が集う学院に豚が紛れ込んだとあれば、大変なことだわ。ここは養豚場ではないものね。なんていいアイデアなのかしら!」

 セリーヌはストッパーをなくした暴走列車のごとく、口から負の感情がダダ漏れになる。
 その一言一言がエリザベスの神経をとがらせるとも知らずに。
 エリザベスは感情を爆発させるセリーヌとは反対に、静かだった。
 しかし、彼女は憤りを覚えている。
 それは例えるなら冷たい火のよう。

「セリーヌ様。あなたは大勢の人を敵に回しました。覚悟はおありで?」
「敵?」
「公爵令嬢である私、第一王子であるハリー様、剣鬼アレックス様、貴公子ノーマン様。その他フローラ・メイ・フォーブズを慕う大勢の学院生徒」
「みんな騙されているの。豚が人間に化けて……」
「その汚い口を閉じなさい!」

 エリザベスが一喝した。
 とうとう、彼女の怒りが沸点を超えたのだ。
 セリーヌが言葉を止める。

「この件は兄上に報告しておきます。生徒会で然るべき処置が取られるでしょう」
「な!? ……私は何も悪くないわ! 私は……何も……」

 セリーヌは絶望する。
 みなから見放されたら、彼女に学院での居場所はない。
 しかし、それでも自身の罪を認められなかった。
 フローラに対する憎悪が増すばかりだった。
 悪いのは全てフローラ。
 刷り込まれたような激しい憎悪がセリーヌに纏わりつく。

 と、そんなときだ。
 コンコンと扉をノックする音が室内に響く。

 こんな時間に誰が?
 室内にいる皆が疑問を抱いた。
 無視するわけにもいかない。
 従者がささっと動き、ドアを開けた。

 次の瞬間、彼女らの表情が驚愕に染まった。

「夜分遅くに申し訳ありません。フローラ・メイ・フォーブズです」

 そこにはなんとフローラがいたのだった。
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