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<後編>
第49話 春を祝う12 春を告げる花
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賭けを成功させようとしているのか、ダメにさせようとしているのか調べるために、茶会ではパトリック様とフレディ様と話すように言われた。ふたりは賭けの対象者ではない。ふたりと仲良くするのに邪魔が入ったり、5人の方と仲良くするような不自然な流れがあったら、それは誰かがわたしと5人を仲良くさせたいんだと思う材料のひとつになる。
とにかく気が重い。パトリック様とフレディ様に対して不誠実だ。
パトリック様もフレディ様も大変心配してくれていた。
パトリック様は自分が贈ったとされる花がわたしに悪さをしようとしていたわけだし、フレディ様は自分がエスコートをしている時にわたしがいなくなったわけだから、顔色を悪くしていた。
ふたりと話しながらあたりに目を向ければ、図らずしも殿下たちは淑女たちに取り巻かれている。と遠目に見て、おふたりと話したりしていたんだけど。どこぞの令嬢にお尻で押し出され、肩で巧みに進路を変えられ、気がついてみると、わたしはひとりだった。
……殿下たちだけでなくパトリック様もフレディ様も令嬢たちに取り巻かれている!
わたし7人から交際を申し込まれている立場だと思うんだけど。それらの人と参加しているお茶会でぼっちってどういうこと?
賭けを成功させようとも、ダメにしようともしていない? 読みはハズレたか。
と、わたしのついたテーブルに数人の令嬢が腰を下ろした。先に座っているわたしにひとこともなく。
「もう、飽きられてしまったのかしら?」
扇で口元を隠した隣の女性が前に座った女性に話しかける。
「そりゃあ血筋だけが取り柄の方にあるのは、血筋だけでしょうからね」
うわー、わかりやすく絡まれている。
蔑んでくるのを聞いているのは別にいいんだ。けれどメイドとして勤めていて見ていてわかったことがある。
人は自分と同じ熱量を持って相手をしてもらえないと、逆上する生き物なのだ。
聞こえてない、や、何にも心に響いてない態度をとると、多くが逆上する。お誂え向きにテーブルの上には飲み物がある。
今日はラモン様から贈っていただいたお茶会用のドレスを着ている。これを濡らされてはたまらない。
わたしは席を立つ。
「あら、ひとりでは何もできなくて逃げるのね」
それはあんたたちだろうがと心の中で言葉をおさめた。
フラッと歩き出すと、男性に取り巻かれた少女がいた。わたしをみつけて微笑む。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
挨拶を返す。キラキラした光が見えなくてほっとする。光がなくても可愛らしいけれど。あの勢いある守ってあげなきゃという思いに抵抗するのは苦痛だから、そうでなくてよかった。
そこまで彼女と仲良くなりたいという気持ちは発動しない。
「どちらへ?」
「花摘みにですわ」
周りに男性が多くいたので、きちんとそう告げる。
もちろん本当に花摘みなわけではない。淑女なら他人に花摘みと自分で告げる慎みのないことはしないものだし、聞いた方も淑女ならそこから話は繋げないはずだ。
話したい気分ではないので、自分の心に従う。
「では、急ぎますので」
周りの子たちが顔を赤くしている。
〝なんて下品な〟と噂はばらまかれるだろう。
はばかり令嬢とか言われるかも。う、それは嫌かも。
わたしはイラッとしていた。気が重たくても、ちゃんと役目は果たすつもりだった。おふたりと仲睦まじそうにして、邪魔が入らないか調べるつもりだった。ところが。邪魔? うん、おふたりとどこぞのご令嬢が仲良くなるのを邪魔しているのがわたし、だよね。どっちかというと。おふたりもだけど皆様も、頬を桜色に染めた令嬢と朗らかに笑って話されていて。そりゃそうだよね。賭けで仕方なくエスコートするより、キレイで可愛いご令嬢とアハハウフフと話される方がずっといいよね。皆様の心情を思えば納得するしかないけれど、わたしはちょっと哀しかった。
「嫉妬か……」
声が出た。ああ、やだやだ。賭けで優しくしてもらっているのに、勘違いしそうになってる? しかも7人に対してってガメツすぎ。一旦、冷静になろう、と自分に言い聞かせる。
ドレスを着て、お化粧をして、ペペシブの実を食べて。用意するのは大変なのに、お茶会に来てまだ1時間も経っていなかった。
このまま部屋に帰るのももったいないな。それに王宮に来てから、常に誰かと一緒に行動していて、少し窮屈だった。それが今はせっかくひとりなのだ。
わたしは外国の花があるという温室に行ってみることにした。ひとりの時間を持てば少しは冷静になれるだろう。
……ヴェールをつけているとバレるか。ファニーだとわかって何か仕掛けられたら嫌だしな。
わたしは木陰に入り周りに人がいないことを確認してヴェールを外して髪をおろした。昨日一対一の時間を持てなかったラモン様が自分のドレスを一番に着て欲しいとおっしゃるから、今日のお茶会はラモン様が贈ってくださったものだ。赤を基調としたドレスなんだけど、前のラインだけ赤を覗かせるようにして白いレースで覆った可愛いデザインのものだった。この白いレース部分が取り外しできるようになっていたんだよね。二通りの装いを楽しめるというものだ。装飾品は全てラモン様の瞳と同じ色でゴールドだ。
今までのわたしはポイントに赤が入った白いドレス、と見えたと思う。それがこのレースをとってしまえば、ジャン、赤髪の赤いドレスの子になると思う。髪をアップにしているか、おろしているかで違って見えるだろうし。レースとヴェールを小さく畳んで小さなバッグにしまう。これで誰だかわかるまい。
では温室にレッツゴーだ。昨日の花垣の迷宮だって、お花を楽しめなかったし。観賞用にお花を配置して迷路を作るなんて贅沢な楽しみ方よね。
想定外に行き交う人に、あの子エスコートなしのひとりなのかしらみたいな目で見られたが、ヴェール越しにジロジロ見られるよりよほど爽快だ。
前から男性の団体が歩いてくる。わたしは気持ち端を歩く。
「〝男爵令嬢〟には気をつけるべきだよ」
「元祖の方もそうだが、新しい方もすごいらしいぞ」
「しかも顔を見せてないんだぞ。それであの身分の高い方々をガッチリ抱え込むとは」
「女というのは恐ろしいな」
うわー、新しい方ってわたしのことだよね。
何、わたしが元祖の真似して男を取っ替え引っ替えしてるみたいになってるの?
ひょっとして目的それなんじゃないの?
あまりにも悪評が立っちゃったから、同じ男爵令嬢に噂を移行させるために、わたしの評判を最悪にしたとか。
なんか、バッチリ当てはまる気がするんですけど。
ふと耳によみがえる。
〝おちなかったのだから、それなら幸せでいないとでしょう?〟
それまでの少女と雰囲気がガラッと変わった声音。
幸せなわたしに用がある?
お兄様たちに〝おちる〟ときいて連想する言葉を尋ねた。
評判を落とす、と答えてくれた。
わたしは聞いた時に思い出した言葉がある。それは「闇堕ち」だ。
多分、前世の言葉だ。意味は思い出せないというか、きちんと調べて理解したのではないと思うふんわり加減だが。精神状態が深い闇に飲み込まれている状況ではないかなと思った。
その言葉はこちらにはない。彼女が使った言葉は〝おちる〟だが、ひょっとしてクジネ男爵令嬢は前世の記憶があり、そしてわたしと同胞なのではないだろうか? ……そんなわけないか。
温室にたどり着いた。人はまばらだ。
中は想像していたのと違って、ひんやりとしていた。寒い国のお花みたいだね。
白い可愛らしい小花が寄り添って咲いていた。
その隣りはガラス細工のような青い花だった。大きなすずらんみたいな釣鐘型の花が揺れるとチリチリと風鈴みたいな涼しげな音を響かせる。ステキ!
「この花が気に入りましたか?」
びくっとすると、驚かせたようだと謝られた。
お兄様ぐらいの歳かな、銀髪を上の方で一つに結んでいる。黒曜石のような黒い瞳だ。
「これは私の国の花なんです」
「どのように咲くんですか?」
「どのように、とは?」
「群生するんですか? 一つで咲くのかしら? いえ、風に吹かれて涼しげなこの音が反響して聞こえたら素敵だろうなと思って、普段はどんな場所で咲いているのかなと思いまして」
「ああ、斜面いっぱいに咲いているのを見たことがあります。音の楽しみか、それは気づかなかったな」
斜面に広がる、マテュー様の瞳みたいな青い花が涼しげな音を鳴らして、うわー素敵な気がする!
「失礼ですが」
一歩踏み込まれた時、横から声をかけられた。
「お嬢様」
え? わたし?
「主人がお探しです」
「あの」
「担ぎ上げましょうか?」
サッと近づいて、わたしに耳打ちする。
この人、あの人だ。
陛下と宰相の……。
「参ります」
わたしは銀髪の方に会釈をして、黒の人を追いかけた。
黒まみれの時はもっと年上かと思ったけれど、お兄様と同年代ぐらいかも。
執事さんのような格好をしていると若く見えるし、なかなかイケメンだ。目つき怖いけど。
「あのぉ、陛下に呼ばれているのでしょうか?」
恐る恐る背中に呼びかける。
「ああ、いえ、誰も呼んでおりません。あの場で名乗らないほうがいいと思ったので、施設から出ていただきました。差し出がましかったでしょうか?」
あ、そっか。名前を聞かれたら名乗るしかないものね。
「あ、いえ。ありがとうございました」
「なぜ会場からひとりお離れになったのかお尋ねしてもいいですか?」
え?
「ちょっと外国の花に興味を持ちまして」
「それはお嬢様ひとりで見にこなければならないことだったのでしょうか?」
ん?
「いえ、そういうわけではないのですが、ご一緒された方が皆様お忙しそうだったので、ひとりで」
「ヴェールを取られて?」
これは注意を受けているのか?
「ヴェールをしていると目立つし、わたしと宣伝して歩くようなものなので。取ってしまえばわからないかなーと」
黒い人はため息をついた。
「やっといらしたようだ。お一人にはならないように」
目の前にいたのに消えた。嘘。なんで、どうして?
わたしはキョロキョロと辺りを見回す。
マテュー様が走ってきて捕獲された。抱え込まれる。
「な。ま、マテュー様。な、何事です?」
「ヴェールはどうなさいました? 髪型も……なぜドレスが変わっているんです?」
矢継ぎ早に尋ねられる。
「ああ、ヴェールは取りました。ドレスも飾りを取ったんです。印象が変わるからヴェールを取ればわからないかなと思って」
「……失礼しますよ」
ええ? 抱き上げられた。
「な、なんで」
「顔をお隠しください。部屋に戻ります」
怒ってる。いつもならちゃんと説明してくださるのに。
とにかく気が重い。パトリック様とフレディ様に対して不誠実だ。
パトリック様もフレディ様も大変心配してくれていた。
パトリック様は自分が贈ったとされる花がわたしに悪さをしようとしていたわけだし、フレディ様は自分がエスコートをしている時にわたしがいなくなったわけだから、顔色を悪くしていた。
ふたりと話しながらあたりに目を向ければ、図らずしも殿下たちは淑女たちに取り巻かれている。と遠目に見て、おふたりと話したりしていたんだけど。どこぞの令嬢にお尻で押し出され、肩で巧みに進路を変えられ、気がついてみると、わたしはひとりだった。
……殿下たちだけでなくパトリック様もフレディ様も令嬢たちに取り巻かれている!
わたし7人から交際を申し込まれている立場だと思うんだけど。それらの人と参加しているお茶会でぼっちってどういうこと?
賭けを成功させようとも、ダメにしようともしていない? 読みはハズレたか。
と、わたしのついたテーブルに数人の令嬢が腰を下ろした。先に座っているわたしにひとこともなく。
「もう、飽きられてしまったのかしら?」
扇で口元を隠した隣の女性が前に座った女性に話しかける。
「そりゃあ血筋だけが取り柄の方にあるのは、血筋だけでしょうからね」
うわー、わかりやすく絡まれている。
蔑んでくるのを聞いているのは別にいいんだ。けれどメイドとして勤めていて見ていてわかったことがある。
人は自分と同じ熱量を持って相手をしてもらえないと、逆上する生き物なのだ。
聞こえてない、や、何にも心に響いてない態度をとると、多くが逆上する。お誂え向きにテーブルの上には飲み物がある。
今日はラモン様から贈っていただいたお茶会用のドレスを着ている。これを濡らされてはたまらない。
わたしは席を立つ。
「あら、ひとりでは何もできなくて逃げるのね」
それはあんたたちだろうがと心の中で言葉をおさめた。
フラッと歩き出すと、男性に取り巻かれた少女がいた。わたしをみつけて微笑む。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
挨拶を返す。キラキラした光が見えなくてほっとする。光がなくても可愛らしいけれど。あの勢いある守ってあげなきゃという思いに抵抗するのは苦痛だから、そうでなくてよかった。
そこまで彼女と仲良くなりたいという気持ちは発動しない。
「どちらへ?」
「花摘みにですわ」
周りに男性が多くいたので、きちんとそう告げる。
もちろん本当に花摘みなわけではない。淑女なら他人に花摘みと自分で告げる慎みのないことはしないものだし、聞いた方も淑女ならそこから話は繋げないはずだ。
話したい気分ではないので、自分の心に従う。
「では、急ぎますので」
周りの子たちが顔を赤くしている。
〝なんて下品な〟と噂はばらまかれるだろう。
はばかり令嬢とか言われるかも。う、それは嫌かも。
わたしはイラッとしていた。気が重たくても、ちゃんと役目は果たすつもりだった。おふたりと仲睦まじそうにして、邪魔が入らないか調べるつもりだった。ところが。邪魔? うん、おふたりとどこぞのご令嬢が仲良くなるのを邪魔しているのがわたし、だよね。どっちかというと。おふたりもだけど皆様も、頬を桜色に染めた令嬢と朗らかに笑って話されていて。そりゃそうだよね。賭けで仕方なくエスコートするより、キレイで可愛いご令嬢とアハハウフフと話される方がずっといいよね。皆様の心情を思えば納得するしかないけれど、わたしはちょっと哀しかった。
「嫉妬か……」
声が出た。ああ、やだやだ。賭けで優しくしてもらっているのに、勘違いしそうになってる? しかも7人に対してってガメツすぎ。一旦、冷静になろう、と自分に言い聞かせる。
ドレスを着て、お化粧をして、ペペシブの実を食べて。用意するのは大変なのに、お茶会に来てまだ1時間も経っていなかった。
このまま部屋に帰るのももったいないな。それに王宮に来てから、常に誰かと一緒に行動していて、少し窮屈だった。それが今はせっかくひとりなのだ。
わたしは外国の花があるという温室に行ってみることにした。ひとりの時間を持てば少しは冷静になれるだろう。
……ヴェールをつけているとバレるか。ファニーだとわかって何か仕掛けられたら嫌だしな。
わたしは木陰に入り周りに人がいないことを確認してヴェールを外して髪をおろした。昨日一対一の時間を持てなかったラモン様が自分のドレスを一番に着て欲しいとおっしゃるから、今日のお茶会はラモン様が贈ってくださったものだ。赤を基調としたドレスなんだけど、前のラインだけ赤を覗かせるようにして白いレースで覆った可愛いデザインのものだった。この白いレース部分が取り外しできるようになっていたんだよね。二通りの装いを楽しめるというものだ。装飾品は全てラモン様の瞳と同じ色でゴールドだ。
今までのわたしはポイントに赤が入った白いドレス、と見えたと思う。それがこのレースをとってしまえば、ジャン、赤髪の赤いドレスの子になると思う。髪をアップにしているか、おろしているかで違って見えるだろうし。レースとヴェールを小さく畳んで小さなバッグにしまう。これで誰だかわかるまい。
では温室にレッツゴーだ。昨日の花垣の迷宮だって、お花を楽しめなかったし。観賞用にお花を配置して迷路を作るなんて贅沢な楽しみ方よね。
想定外に行き交う人に、あの子エスコートなしのひとりなのかしらみたいな目で見られたが、ヴェール越しにジロジロ見られるよりよほど爽快だ。
前から男性の団体が歩いてくる。わたしは気持ち端を歩く。
「〝男爵令嬢〟には気をつけるべきだよ」
「元祖の方もそうだが、新しい方もすごいらしいぞ」
「しかも顔を見せてないんだぞ。それであの身分の高い方々をガッチリ抱え込むとは」
「女というのは恐ろしいな」
うわー、新しい方ってわたしのことだよね。
何、わたしが元祖の真似して男を取っ替え引っ替えしてるみたいになってるの?
ひょっとして目的それなんじゃないの?
あまりにも悪評が立っちゃったから、同じ男爵令嬢に噂を移行させるために、わたしの評判を最悪にしたとか。
なんか、バッチリ当てはまる気がするんですけど。
ふと耳によみがえる。
〝おちなかったのだから、それなら幸せでいないとでしょう?〟
それまでの少女と雰囲気がガラッと変わった声音。
幸せなわたしに用がある?
お兄様たちに〝おちる〟ときいて連想する言葉を尋ねた。
評判を落とす、と答えてくれた。
わたしは聞いた時に思い出した言葉がある。それは「闇堕ち」だ。
多分、前世の言葉だ。意味は思い出せないというか、きちんと調べて理解したのではないと思うふんわり加減だが。精神状態が深い闇に飲み込まれている状況ではないかなと思った。
その言葉はこちらにはない。彼女が使った言葉は〝おちる〟だが、ひょっとしてクジネ男爵令嬢は前世の記憶があり、そしてわたしと同胞なのではないだろうか? ……そんなわけないか。
温室にたどり着いた。人はまばらだ。
中は想像していたのと違って、ひんやりとしていた。寒い国のお花みたいだね。
白い可愛らしい小花が寄り添って咲いていた。
その隣りはガラス細工のような青い花だった。大きなすずらんみたいな釣鐘型の花が揺れるとチリチリと風鈴みたいな涼しげな音を響かせる。ステキ!
「この花が気に入りましたか?」
びくっとすると、驚かせたようだと謝られた。
お兄様ぐらいの歳かな、銀髪を上の方で一つに結んでいる。黒曜石のような黒い瞳だ。
「これは私の国の花なんです」
「どのように咲くんですか?」
「どのように、とは?」
「群生するんですか? 一つで咲くのかしら? いえ、風に吹かれて涼しげなこの音が反響して聞こえたら素敵だろうなと思って、普段はどんな場所で咲いているのかなと思いまして」
「ああ、斜面いっぱいに咲いているのを見たことがあります。音の楽しみか、それは気づかなかったな」
斜面に広がる、マテュー様の瞳みたいな青い花が涼しげな音を鳴らして、うわー素敵な気がする!
「失礼ですが」
一歩踏み込まれた時、横から声をかけられた。
「お嬢様」
え? わたし?
「主人がお探しです」
「あの」
「担ぎ上げましょうか?」
サッと近づいて、わたしに耳打ちする。
この人、あの人だ。
陛下と宰相の……。
「参ります」
わたしは銀髪の方に会釈をして、黒の人を追いかけた。
黒まみれの時はもっと年上かと思ったけれど、お兄様と同年代ぐらいかも。
執事さんのような格好をしていると若く見えるし、なかなかイケメンだ。目つき怖いけど。
「あのぉ、陛下に呼ばれているのでしょうか?」
恐る恐る背中に呼びかける。
「ああ、いえ、誰も呼んでおりません。あの場で名乗らないほうがいいと思ったので、施設から出ていただきました。差し出がましかったでしょうか?」
あ、そっか。名前を聞かれたら名乗るしかないものね。
「あ、いえ。ありがとうございました」
「なぜ会場からひとりお離れになったのかお尋ねしてもいいですか?」
え?
「ちょっと外国の花に興味を持ちまして」
「それはお嬢様ひとりで見にこなければならないことだったのでしょうか?」
ん?
「いえ、そういうわけではないのですが、ご一緒された方が皆様お忙しそうだったので、ひとりで」
「ヴェールを取られて?」
これは注意を受けているのか?
「ヴェールをしていると目立つし、わたしと宣伝して歩くようなものなので。取ってしまえばわからないかなーと」
黒い人はため息をついた。
「やっといらしたようだ。お一人にはならないように」
目の前にいたのに消えた。嘘。なんで、どうして?
わたしはキョロキョロと辺りを見回す。
マテュー様が走ってきて捕獲された。抱え込まれる。
「な。ま、マテュー様。な、何事です?」
「ヴェールはどうなさいました? 髪型も……なぜドレスが変わっているんです?」
矢継ぎ早に尋ねられる。
「ああ、ヴェールは取りました。ドレスも飾りを取ったんです。印象が変わるからヴェールを取ればわからないかなと思って」
「……失礼しますよ」
ええ? 抱き上げられた。
「な、なんで」
「顔をお隠しください。部屋に戻ります」
怒ってる。いつもならちゃんと説明してくださるのに。
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