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<後編>
第55話 反撃4 ファニーとの面談(上)
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今日は久しぶりのオフだ。お茶会も夜会も開催されているけれど、参加しなくていいと言われた! パトリック様が離脱し、昨日意気投合していた伯爵令嬢の登場でフレディ様の気持ちがどう傾くか出方をみるためでもある。
その代わり、ファニーとしてお3方との時間を持つことになった。
魔力、神力、体型でも見破られてしまう。それなのに約束しちゃってどうするんだって思ったけれど、お兄様は魔具を手にしていた。
認識障害という術がある。通称目くらましと呼ばれるもので、正しい姿を認識できなくするものだ。それは悪用できそうなものなのでキャパは小さくピンポイント制限をかけられるのが普通だし、鑑定系のものをかけられれば術は通用しない。それを魔石に付与して魔具にしたというから驚いた。これ、バレたら怒られるやつじゃないの? そして同時に付与したのが結界。つまり特定の結界をはったところを認識障害がかかる魔具を作ったみたいだ。うわー、お金使わせた。
これをね、ファニーのベッドに仕掛けて認識障害のかかる場とした。
わたしは起きあがれるほど体調はよくない設定で、失礼してベッドの中での面談だ。殿下たちには、ファニーは見慣れない方が近くにいるとパニックを起こすので、認識障害をかけてソフトにしてあると伝えたようだ。こちらに到着して多くの人を見てぶっ倒れているので、信憑性があったみたいだ。
最初は殿下で、緊張した面持ちでやってきた。
挨拶の後、まずは謝られた。膝をつきそうな勢いで、マジで慌てた。
本当のことを話す決心ができず、あなたを追い詰めて申し訳なかったと。
その独白にわたしの胸も痛む。わたしも本当のことを話せていない。
賭けが終わったら、わたしの婚活に絶対不利なようにはしないから安心して欲しいと言われた。今、ファニーの評判最悪なんだけど、どうするつもりだろう。
賭けとは別に結婚相手に自分を選んでくれたら嬉しいというから、ご冗談をと言ったら手を取られた。
「失礼。認識障害の魔術で、声も聞こえるし姿は見えているのだがはっきりしないのがもどかしくて、本当にあなたがそこにいるのか確かめてしまいました」
手を離してくれたが、びっくりのドキドキがおさまらない。
「冗談ではないですよ」
「王子様が、クリスタラーの領地に籠られるというのですか?」
「私はぴったりだと思うのです。クロエールがゲルスターに欲された理由はご存知ですか?」
「一般的に言われていることは存じております」
「これまでゲルスターは攻撃をされていませんが、いつまたブーケンやラングを欲しいと思うものが現れるかわかりません」
あの鉱物の取れる土地に面しているのはクリスタラー領だけだから、足掛かりになってしまう、どうしても。
「王族だった肩書きのあるものがいることで、あの地はより盤石になることでしょう」
昔は精霊が恐れられていたということもあり、クリスタラー領は放っておかれたけど、今は信じられていないからね。その人々の牽制をするのに王族はもってこいなわけだ。
やっぱり王子様なんだなーと思う。国のことを考えるんだね。
「殿下は自分のためではなくて、国のために自分のことを考えられるのですね」
「……それはどういう意味ですか?」
「やはり王子様なんだなと思ったんです。国のことを考えて結婚をするのだと」
上流な方々は家のための政略結婚がまだまだ多いから。王族なら当たり前か。
「それは違います」
殿下は躊躇って微笑った。
「そんな王族の役割を果たそうという、いいものではないのです。私の瞳が見えますか?」
「え、はい」
「何色に見えますか?」
「それはもちろん、紫色です」
王族の証の紫の瞳。
殿下はなぜか苦笑している。
「これではどうですか?」
王妃様にそっくり、じゃなかった。どうしたことだ? 殿下の瞳が青くなった。
「これが私の本来の瞳の色なのです」
!
「ああ、不義のとかそういうことではありませんよ。王族の証の紫の瞳。これ、実はもう何代も前から、こうして他の色を持つものが生まれてくるようになったのです。緑を持たない緑の乙女と同じようにね」
……そうだったんだ。
「なぜ、それを明かさないんですか?」
「本当に、なぜなんだろうね?」
まずった。傷つけた。いつも強気な人に悲しい顔をさせてしまった。
口調が砕けたが、哀しそうな辛そうな顔に見える。
「瞳の色が何色でも、殿下が殿下であることは変わらないと思います」
「ありがとう。ただ王族でいる限り私はこうして嘘をつくことになる。だから早いところ、くだりたいんだ。指輪を取り返し、兄上に王太子でいてもらい、私は臣下として国を支えようと思う。だからどうしても賭けに勝つ必要があるのです」
真摯な目を向けられる。
「ファニー嬢は16歳ですね。賭けとは別に、私との縁談を本気で考えてみてください」
そう最後に言葉を残して、殿下は部屋を出て行かれた。
なんか、疲れた。っていうか、ガチで交際を持ちかけられちゃったりしたんだけど、王子様に! ぐるぐるする。
興奮冷めやらぬうちに、タデウス様が入って来る。
挨拶の後、やはり、申し訳ないと謝られた。
リリアンと接しているときは必要最低限のことしか話さないイメージがあったが、なかなか雄弁で、わたしは幾度も笑わせてもらった。
「せっかく城にきたのに、出歩けないのではつまらないでしょう?」
と同情された。体調が良くなったらぜひと、お城の見所なんかを教えてくれた。中でも裏庭から表側に出る近道の話はとても面白かった。どうやら、あの上司と上手くいってない人が同僚に囲まれていたあのあたりから表口に行ける通路があるみたいだ。もう行く機会はないだろうけれど、見てみたかったな。
「リリアンとはどういう関係なんですか?」
まさか直で聞かれるとは思っていなかった。
「すみません、叔父に確かめてからでないとお答え致しかねます」
「オッソー家と関わりがあるのですよね? 僕の家はオッソー家に酷いことをしました」
タデウス様の瞳が暗くなる。
タデウス様がやったことではないのに。
「それがどこの家にしたことでも変わりありませんね。ウチは卑怯で、それなのに残るべき家系が途絶えて、ウチみたいのがしぶとく残っています」
皮肉げに微笑んだ。
「先祖のしたことを自分の罪のように感じられているのですね」
「それを知っているのに、隠していることは同罪ですから」
「でも、それで救われている人もいますよね? だから明かせない。タデウス様はお優しいですね」
「よくとりすぎです。それに僕は優しくないです。欠陥品のようで、優しいということがよくわからない。優しく見えるとしたら、優しく見えるように習った行動をとっただけなんです」
「タデウス様は器用そうにみえて、とても不器用なんですね」
「不器用?」
失礼だったかしら。
「そんなの誰だってそうですよ。手探りでなにがいいか、やってみて学ぶでしょう? でもそんな心の動きを端折って、いいことだけ覚えておくようにするんです。タデウス様はいいことも悪いことも全部覚えているから、息苦しく感じられることがあるんでしょう」
頭がいいのも考えものだね。悪いことも全部忘れられずに苦しむのだから。わたしみたいにキャパが少ないとすぐ忘れちゃうけどね、端折った思いなんかは特に。
「君はやっぱり面白い」
え?
「僕は出遅れたようだ。それが残念だ」
へ?
「僕は、ファニー・イエッセル・クリスタラー嬢が、幸せであることを望みます」
そう言って、わたしに礼をとり、部屋を出て行った。
部屋にはポカンとしたわたしが残された。
3人目はマテュー様だった。
挨拶の後はやはり謝罪だ。
領地のことを聞かれたので、精霊の森のことを話した。
「森の恵みがいっぱいあるのです。それにずいぶん助けられました」
「毎日どんなふうに過ごされていたのですか?」
「朝は森に散歩に行き、洗濯と掃除をして、食事を作って、領地の見回りに行ったり、お兄様のお仕事の手伝いをしたり。代わり映えのない毎日を過ごしていましたわ」
マテュー様は頷かれる。
「何かやってみたいことはありますか?」
「……はしたないんですけど、屋台で買い食いというのをしてみたいです」
とっても美味しそうなのを見たことはあるが、値は張るし、そんな贅沢はできないから指をくわえて見るだけだった。
マテュー様がクスッと笑われる。
「いいですね、あなたが口を大きく開けて、おいしそうに頬張るところを俺も見たいです」
マテュー様は笑ってくれたが、令嬢らしくなかったな。
「他には?」
「そうですね、湖や海に行ってみたいです。いっぱいのお水があるのですよね?」
前世で見たことがあるらしく、思い浮かべる景色がある。あれが本当に全部水なのかな。海は不思議だ。誰が作っているのか波が絶えず砂浜まで届く。それにあれが全部塩水って本当なのかな? だってあの容量が塩辛く感じるってことはそれだけの塩が含まれているってことでしょ。どこにあった塩なんだろう?
「マテュー様は行ったことがありますか?」
「海はありませんが、湖はあります。とても澄んだきれいな水で。朝の早い時間に行ったら、モヤがだんだん晴れてきて、湖の水面を光が渡ってきたんです。きれいだったな」
「わー、いいですね。そんな景色を見られたなんて羨ましいですわ」
「一緒に行きましょう」
え?
「行きたいところも、やりたいことも、全部一緒にやりましょう」
マテュー様は微笑まれる。そうできたら、いいのにな。
マテュー様と買い食いしたり、湖を眺めたり、海に行って足を水につけたり貝殻を拾ったり。エスコートじゃなくて、手を繋いで歩きたいな。たわいもない会話をして、マテュー様の好きなことをひとつひとつ知っていきたい。
未来を夢みたことがある。物語を読んでそんな素敵な場所に行ってみたいと思ったこともあるし、聞いた話で見てみたい、やってみたいと思ったことがある。でも、夢のまた夢だと自分を笑い飛ばしてきた。皆様と出会ってからわたしは贅沢思考になってしまった。夢のまた夢を、手を伸ばせばつかめるんじゃないかって思い始めている。賭けが終わったら、元の生活に戻るだけなのに、何かが変わるんじゃないかって思いたがっている。実際は元の生活どころか身を偽っていた罪でどんな罰を与えられるかもわかっていないのにね。
マテュー様はわたしに微笑む。今はファニーに微笑んで、わたしを怯えさせ寝込ませたお詫びにわたしのやりたいことを一緒にやろうと言ってくれている。
……少し複雑だ。やっぱり、マテュー様は誰にでも優しいんだな。だから、リリアンにも優しかったんだ。
尋ねられるままに話していた。とても穏やかな時間を過ごした。
わたしは皆様がファニーに会いたがる理由は賭けのことを謝りたいからだと思っていた。
だから不審に思っていなかったし、それぞれがわたしを探っていたことに少しも気づいていなかった。
その代わり、ファニーとしてお3方との時間を持つことになった。
魔力、神力、体型でも見破られてしまう。それなのに約束しちゃってどうするんだって思ったけれど、お兄様は魔具を手にしていた。
認識障害という術がある。通称目くらましと呼ばれるもので、正しい姿を認識できなくするものだ。それは悪用できそうなものなのでキャパは小さくピンポイント制限をかけられるのが普通だし、鑑定系のものをかけられれば術は通用しない。それを魔石に付与して魔具にしたというから驚いた。これ、バレたら怒られるやつじゃないの? そして同時に付与したのが結界。つまり特定の結界をはったところを認識障害がかかる魔具を作ったみたいだ。うわー、お金使わせた。
これをね、ファニーのベッドに仕掛けて認識障害のかかる場とした。
わたしは起きあがれるほど体調はよくない設定で、失礼してベッドの中での面談だ。殿下たちには、ファニーは見慣れない方が近くにいるとパニックを起こすので、認識障害をかけてソフトにしてあると伝えたようだ。こちらに到着して多くの人を見てぶっ倒れているので、信憑性があったみたいだ。
最初は殿下で、緊張した面持ちでやってきた。
挨拶の後、まずは謝られた。膝をつきそうな勢いで、マジで慌てた。
本当のことを話す決心ができず、あなたを追い詰めて申し訳なかったと。
その独白にわたしの胸も痛む。わたしも本当のことを話せていない。
賭けが終わったら、わたしの婚活に絶対不利なようにはしないから安心して欲しいと言われた。今、ファニーの評判最悪なんだけど、どうするつもりだろう。
賭けとは別に結婚相手に自分を選んでくれたら嬉しいというから、ご冗談をと言ったら手を取られた。
「失礼。認識障害の魔術で、声も聞こえるし姿は見えているのだがはっきりしないのがもどかしくて、本当にあなたがそこにいるのか確かめてしまいました」
手を離してくれたが、びっくりのドキドキがおさまらない。
「冗談ではないですよ」
「王子様が、クリスタラーの領地に籠られるというのですか?」
「私はぴったりだと思うのです。クロエールがゲルスターに欲された理由はご存知ですか?」
「一般的に言われていることは存じております」
「これまでゲルスターは攻撃をされていませんが、いつまたブーケンやラングを欲しいと思うものが現れるかわかりません」
あの鉱物の取れる土地に面しているのはクリスタラー領だけだから、足掛かりになってしまう、どうしても。
「王族だった肩書きのあるものがいることで、あの地はより盤石になることでしょう」
昔は精霊が恐れられていたということもあり、クリスタラー領は放っておかれたけど、今は信じられていないからね。その人々の牽制をするのに王族はもってこいなわけだ。
やっぱり王子様なんだなーと思う。国のことを考えるんだね。
「殿下は自分のためではなくて、国のために自分のことを考えられるのですね」
「……それはどういう意味ですか?」
「やはり王子様なんだなと思ったんです。国のことを考えて結婚をするのだと」
上流な方々は家のための政略結婚がまだまだ多いから。王族なら当たり前か。
「それは違います」
殿下は躊躇って微笑った。
「そんな王族の役割を果たそうという、いいものではないのです。私の瞳が見えますか?」
「え、はい」
「何色に見えますか?」
「それはもちろん、紫色です」
王族の証の紫の瞳。
殿下はなぜか苦笑している。
「これではどうですか?」
王妃様にそっくり、じゃなかった。どうしたことだ? 殿下の瞳が青くなった。
「これが私の本来の瞳の色なのです」
!
「ああ、不義のとかそういうことではありませんよ。王族の証の紫の瞳。これ、実はもう何代も前から、こうして他の色を持つものが生まれてくるようになったのです。緑を持たない緑の乙女と同じようにね」
……そうだったんだ。
「なぜ、それを明かさないんですか?」
「本当に、なぜなんだろうね?」
まずった。傷つけた。いつも強気な人に悲しい顔をさせてしまった。
口調が砕けたが、哀しそうな辛そうな顔に見える。
「瞳の色が何色でも、殿下が殿下であることは変わらないと思います」
「ありがとう。ただ王族でいる限り私はこうして嘘をつくことになる。だから早いところ、くだりたいんだ。指輪を取り返し、兄上に王太子でいてもらい、私は臣下として国を支えようと思う。だからどうしても賭けに勝つ必要があるのです」
真摯な目を向けられる。
「ファニー嬢は16歳ですね。賭けとは別に、私との縁談を本気で考えてみてください」
そう最後に言葉を残して、殿下は部屋を出て行かれた。
なんか、疲れた。っていうか、ガチで交際を持ちかけられちゃったりしたんだけど、王子様に! ぐるぐるする。
興奮冷めやらぬうちに、タデウス様が入って来る。
挨拶の後、やはり、申し訳ないと謝られた。
リリアンと接しているときは必要最低限のことしか話さないイメージがあったが、なかなか雄弁で、わたしは幾度も笑わせてもらった。
「せっかく城にきたのに、出歩けないのではつまらないでしょう?」
と同情された。体調が良くなったらぜひと、お城の見所なんかを教えてくれた。中でも裏庭から表側に出る近道の話はとても面白かった。どうやら、あの上司と上手くいってない人が同僚に囲まれていたあのあたりから表口に行ける通路があるみたいだ。もう行く機会はないだろうけれど、見てみたかったな。
「リリアンとはどういう関係なんですか?」
まさか直で聞かれるとは思っていなかった。
「すみません、叔父に確かめてからでないとお答え致しかねます」
「オッソー家と関わりがあるのですよね? 僕の家はオッソー家に酷いことをしました」
タデウス様の瞳が暗くなる。
タデウス様がやったことではないのに。
「それがどこの家にしたことでも変わりありませんね。ウチは卑怯で、それなのに残るべき家系が途絶えて、ウチみたいのがしぶとく残っています」
皮肉げに微笑んだ。
「先祖のしたことを自分の罪のように感じられているのですね」
「それを知っているのに、隠していることは同罪ですから」
「でも、それで救われている人もいますよね? だから明かせない。タデウス様はお優しいですね」
「よくとりすぎです。それに僕は優しくないです。欠陥品のようで、優しいということがよくわからない。優しく見えるとしたら、優しく見えるように習った行動をとっただけなんです」
「タデウス様は器用そうにみえて、とても不器用なんですね」
「不器用?」
失礼だったかしら。
「そんなの誰だってそうですよ。手探りでなにがいいか、やってみて学ぶでしょう? でもそんな心の動きを端折って、いいことだけ覚えておくようにするんです。タデウス様はいいことも悪いことも全部覚えているから、息苦しく感じられることがあるんでしょう」
頭がいいのも考えものだね。悪いことも全部忘れられずに苦しむのだから。わたしみたいにキャパが少ないとすぐ忘れちゃうけどね、端折った思いなんかは特に。
「君はやっぱり面白い」
え?
「僕は出遅れたようだ。それが残念だ」
へ?
「僕は、ファニー・イエッセル・クリスタラー嬢が、幸せであることを望みます」
そう言って、わたしに礼をとり、部屋を出て行った。
部屋にはポカンとしたわたしが残された。
3人目はマテュー様だった。
挨拶の後はやはり謝罪だ。
領地のことを聞かれたので、精霊の森のことを話した。
「森の恵みがいっぱいあるのです。それにずいぶん助けられました」
「毎日どんなふうに過ごされていたのですか?」
「朝は森に散歩に行き、洗濯と掃除をして、食事を作って、領地の見回りに行ったり、お兄様のお仕事の手伝いをしたり。代わり映えのない毎日を過ごしていましたわ」
マテュー様は頷かれる。
「何かやってみたいことはありますか?」
「……はしたないんですけど、屋台で買い食いというのをしてみたいです」
とっても美味しそうなのを見たことはあるが、値は張るし、そんな贅沢はできないから指をくわえて見るだけだった。
マテュー様がクスッと笑われる。
「いいですね、あなたが口を大きく開けて、おいしそうに頬張るところを俺も見たいです」
マテュー様は笑ってくれたが、令嬢らしくなかったな。
「他には?」
「そうですね、湖や海に行ってみたいです。いっぱいのお水があるのですよね?」
前世で見たことがあるらしく、思い浮かべる景色がある。あれが本当に全部水なのかな。海は不思議だ。誰が作っているのか波が絶えず砂浜まで届く。それにあれが全部塩水って本当なのかな? だってあの容量が塩辛く感じるってことはそれだけの塩が含まれているってことでしょ。どこにあった塩なんだろう?
「マテュー様は行ったことがありますか?」
「海はありませんが、湖はあります。とても澄んだきれいな水で。朝の早い時間に行ったら、モヤがだんだん晴れてきて、湖の水面を光が渡ってきたんです。きれいだったな」
「わー、いいですね。そんな景色を見られたなんて羨ましいですわ」
「一緒に行きましょう」
え?
「行きたいところも、やりたいことも、全部一緒にやりましょう」
マテュー様は微笑まれる。そうできたら、いいのにな。
マテュー様と買い食いしたり、湖を眺めたり、海に行って足を水につけたり貝殻を拾ったり。エスコートじゃなくて、手を繋いで歩きたいな。たわいもない会話をして、マテュー様の好きなことをひとつひとつ知っていきたい。
未来を夢みたことがある。物語を読んでそんな素敵な場所に行ってみたいと思ったこともあるし、聞いた話で見てみたい、やってみたいと思ったことがある。でも、夢のまた夢だと自分を笑い飛ばしてきた。皆様と出会ってからわたしは贅沢思考になってしまった。夢のまた夢を、手を伸ばせばつかめるんじゃないかって思い始めている。賭けが終わったら、元の生活に戻るだけなのに、何かが変わるんじゃないかって思いたがっている。実際は元の生活どころか身を偽っていた罪でどんな罰を与えられるかもわかっていないのにね。
マテュー様はわたしに微笑む。今はファニーに微笑んで、わたしを怯えさせ寝込ませたお詫びにわたしのやりたいことを一緒にやろうと言ってくれている。
……少し複雑だ。やっぱり、マテュー様は誰にでも優しいんだな。だから、リリアンにも優しかったんだ。
尋ねられるままに話していた。とても穏やかな時間を過ごした。
わたしは皆様がファニーに会いたがる理由は賭けのことを謝りたいからだと思っていた。
だから不審に思っていなかったし、それぞれがわたしを探っていたことに少しも気づいていなかった。
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