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第十八話 聖女の動向④
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「いえ。私も少し深刻に受け止めすぎました。
王立学園は警備も厳重ですし、滅多なことは起こらないでしょう」
「全くそのとおりだ。そうそう、学園といえば、学園生活にはもう慣れたかい?」
「はい。親しい友人もできましたし」
「ほほう。それは結構なことだ。とはいえ、我が家は由緒正しき伯爵家。付き合う人間もきちんと選ばなければいけないよ。
友人というのは、いったいどういった家柄の子だい?」
「特に親しいのはキュロットです。キュロット・アドバリテといって――」
その名を口にした途端、ボイドとマーレーが目を剥き、ずいっと身を乗り出してくる。
「アドバリテというと、あの侯爵家の!」
「すごい方とお友達になったじゃない! 侯爵家のご令嬢に目をかけていただいたら、我が家も安泰よ!」
「そ、そうですね。それと、さっき話に出たヒーシス殿下ともよく一緒に……」
「で、ででで殿下とお友達に!?」
「あらまあ! あらまあどうしましょ!? あなた、どうしましょ!?」
「お父様、お母様。ちょっと落ち着いてください!
あとはブラド・シュターとルフォート・サリバンとも仲良くしていますけど……」
「ああ、シュター伯爵家だね。よい友人を選んだじゃないか」
「サリバン伯爵家ね。いいお付き合いができそうね」
何かごめんなさい。順番間違えました。
王族と侯爵家の後だからすっごい薄味な感じになっちゃいました。
どっちも名家なんですけどね。
私が胸中でブラドとルフォートに詫びていると、マーレーが好奇心いっぱいに訊ねてくる。
「シエザ、学園では皆とどんなことをして過ごしているの? お母さんに教えてちょうだい」
「そうですね。ブラドとルフォートとは……」
「そっちは今度暇なときに聞くわ。王太子殿下や侯爵令嬢とは何をして過ごしているの?」
ほんとごめーん。
ブラドごめーん。ルフォートごめーん。
「ええと、そうですね。まずは授業が始まる前に、キュロットの縦ロールを巻いてあげてますね」
「まあ素敵! お母さんも学生の頃は、仲のいい友達の髪をクシで梳いたりしていたわ。
髪の色艶がいい子からお手入れの方法を教わったりして、とても優雅で充実した時間だったわね」
「クシで梳く? 優雅な時間?」
私はもはや日課となっている、縦ロールを巻く作業を思い返す。
今では大した労苦もなく縦ロールを完成させているが、最初の頃は繊細な魔力操作がうまくいかず、脳が焼き切れるような感覚を幾度となく味わった。
ようやく完成しても精神的に疲れ果て、授業中に失神したように眠り続けることもしばしば。
それは優雅とは程遠い苦行だった。
私が共感できずに煩悶としていることなどつゆ知らず、マーレーが重ねて問いかける。
「他にはどんなことをして過ごしているの? たとえばお昼休みとか」
「昼休みは、そうですね。ここ半月ほどは歌のレッスンのようなことを……」
これに反応したのはボイドだ。
ボイドは口元を緩め、懐かしそうに語る。
「それはいいことだな。お父さんはこう見えて、昔は聖歌隊に入っていてな。
仲間と賛美歌を歌うときは、まるで心が浄化されていくような感覚に満たされたものだ」
「心が浄化されていく……?」
王立学園は警備も厳重ですし、滅多なことは起こらないでしょう」
「全くそのとおりだ。そうそう、学園といえば、学園生活にはもう慣れたかい?」
「はい。親しい友人もできましたし」
「ほほう。それは結構なことだ。とはいえ、我が家は由緒正しき伯爵家。付き合う人間もきちんと選ばなければいけないよ。
友人というのは、いったいどういった家柄の子だい?」
「特に親しいのはキュロットです。キュロット・アドバリテといって――」
その名を口にした途端、ボイドとマーレーが目を剥き、ずいっと身を乗り出してくる。
「アドバリテというと、あの侯爵家の!」
「すごい方とお友達になったじゃない! 侯爵家のご令嬢に目をかけていただいたら、我が家も安泰よ!」
「そ、そうですね。それと、さっき話に出たヒーシス殿下ともよく一緒に……」
「で、ででで殿下とお友達に!?」
「あらまあ! あらまあどうしましょ!? あなた、どうしましょ!?」
「お父様、お母様。ちょっと落ち着いてください!
あとはブラド・シュターとルフォート・サリバンとも仲良くしていますけど……」
「ああ、シュター伯爵家だね。よい友人を選んだじゃないか」
「サリバン伯爵家ね。いいお付き合いができそうね」
何かごめんなさい。順番間違えました。
王族と侯爵家の後だからすっごい薄味な感じになっちゃいました。
どっちも名家なんですけどね。
私が胸中でブラドとルフォートに詫びていると、マーレーが好奇心いっぱいに訊ねてくる。
「シエザ、学園では皆とどんなことをして過ごしているの? お母さんに教えてちょうだい」
「そうですね。ブラドとルフォートとは……」
「そっちは今度暇なときに聞くわ。王太子殿下や侯爵令嬢とは何をして過ごしているの?」
ほんとごめーん。
ブラドごめーん。ルフォートごめーん。
「ええと、そうですね。まずは授業が始まる前に、キュロットの縦ロールを巻いてあげてますね」
「まあ素敵! お母さんも学生の頃は、仲のいい友達の髪をクシで梳いたりしていたわ。
髪の色艶がいい子からお手入れの方法を教わったりして、とても優雅で充実した時間だったわね」
「クシで梳く? 優雅な時間?」
私はもはや日課となっている、縦ロールを巻く作業を思い返す。
今では大した労苦もなく縦ロールを完成させているが、最初の頃は繊細な魔力操作がうまくいかず、脳が焼き切れるような感覚を幾度となく味わった。
ようやく完成しても精神的に疲れ果て、授業中に失神したように眠り続けることもしばしば。
それは優雅とは程遠い苦行だった。
私が共感できずに煩悶としていることなどつゆ知らず、マーレーが重ねて問いかける。
「他にはどんなことをして過ごしているの? たとえばお昼休みとか」
「昼休みは、そうですね。ここ半月ほどは歌のレッスンのようなことを……」
これに反応したのはボイドだ。
ボイドは口元を緩め、懐かしそうに語る。
「それはいいことだな。お父さんはこう見えて、昔は聖歌隊に入っていてな。
仲間と賛美歌を歌うときは、まるで心が浄化されていくような感覚に満たされたものだ」
「心が浄化されていく……?」
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