子持ち宮女の後宮日記

菰野るり

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期待と不安の前夜

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「まだ信じられない」

白露バイルーはとんでもなく広くなって自分の邸をぐるりと見渡した。

可愛い飛飛フェイフェイ花花ホワホワは揃いの衣装を着せられて、専用の籠で揺られている。子供達の面倒を見るのは女官の茉莉ムオリーだ。

牡丹が花咲く庭。月見の床。石を削り出した浴槽すらある。ここは牡丹坊ムーダンファン。後宮でも特別な場所。皇太后の邸である、いや、つい先ほどまではそうだった。

皇太后雲泪ユンレイは、白露バイルーが息子堯舜ヤオシュン皇帝がずっと探していた唯一の女性であること。飛飛フェイフェイ花花ホワホワが、堯舜ヤオシュンの落胤、つまり自分の孫であることを知り、大切な彼らの後ろ盾となることを決めたのだ。

牡丹坊ムーダンファンには奕震イーチェンとの思い出が多すぎる。今やその兄奕世イースと結ばれた雲泪ユンレイだが、そのまま牡丹坊ムーダンファンでイチャコラできるほど無神経ではなかった。息子に怒られたのは大きいが。

そんなわけで皇太后の邸「牡丹坊ムーダンファン」は、無名の宮女白露バイルーのために、超特急で整えられた。

皇太后の雲泪ユンレイの手配通りである。 

白露バイルーちゃん、私の苗字もバイなのよ。白雲泪バイユンレイよ。結納金目当てに、どっかのジジイの第五夫人に嫁にやられそうなところを、偶然か必然か後宮に逃げ込んで、今や皇太后になってしまったわ」
「同じバイだなんて恐れ多いことです」
白露バイルーは膝を降り、首を垂れる。
雲泪ユンレイはその顎を上にむけた。
「実家が薬屋なんてゆうのも偶然ね、お互い嫌な実家なんて忘れたい。だから白家バイジャの後ろ盾は私がなるわ」

よく分からないといった表情を白露バイルーはした。雲泪ユンレイは楽しそうに続ける。

「私、娘も欲しかったの。もっと子供も欲しかった。だからあなたが私の娘になってくれて、それに孫もいるなんて本当に嬉しい。きっと何一つ不自由させないし、誰にもいじめさせたりしないわ。あなたは私の親戚の娘。白露バイルーとして、ここで暮らすの。堯舜ヤオシュンもきっと喜ぶでしょう」

白露バイルーは怖かった。話がどんどん進んで、けれど何一つ手放しで喜べる気がしない。

「陛下は…私なんかでいいんでしょうか…」

白露バイルーは不安に思っていた。

「本当に私なんかにお喜びになるのでしょうか」
「だって、あなたのことを3年も探していたのよ。小龍シャオロンから聞いたわ。後宮をひらかない、あなたしかいらない、国中探せって命じられたって」
「あまりに恐れ多くて信じるのが怖いほどです」

雲泪ユンレイ白露バイルーを抱きしめる。
「大丈夫よ、堯舜ヤオシュンはアレでウブなの。きっと誠実だわ。そうでなければ私が叱るわ。全ての準備を整えたら、彼にサプライズね」

雲泪ユンレイが去り、宮女たちは世話を焼いてくれる。私の衣服を脱がせ、髪を洗い、湯をかけ、あたたかで柔らかな寝床まで。

ボロボロのまま、風の入る家で子供達をかかえていたのが嘘みたいだ。

シュン様…」

覚えている限りでは3度しかお会いしていない。

初めてお会いした飯店での見合では、流氓チンピラと言われ絡まれながら、私を守ってくれた。
そして厩戸係の格好で飛飛フェイフェイたちに馬をみせてくれた。
最後は図書館の隠し部屋で、狭くて暗くて私の心臓がばくばくしてた。一口噛んだ蟠桃をくれようとして、あわてて新しい桃に取り替えてくれて、子供たちの分まで…くれた。

ずっとずっと優しくて、かっこいい人。気取らなくて、自然体で接する事が出来て。皇帝陛下だと知らない時から、私なんかと釣り合わないと思ってた。

「彼が本当に厩戸係だったら良かったのに…」
いや、それだったら、こんな素敵な青年に傷物子持ちの私なんて好きになる資格ないと思っただろう。実際初めて会った瞬間そう思った。いや初めての出会いじゃない…のか

3年前、私の輿に侵入してきた賊だなんて、やっぱり思い出せなくて信じられない。何故何も思い出せないんだろう。身体があつくて、すごくいやらしく彼にせまったのは私だったかもしれない曖昧な断片的な記憶。

「助けてくれ…」
言われた気がする
「ねえ、ここに触って…」
言った気が…する
「抱いて」
上に乗った気がする…
皇帝陛下の上に…⁇

「ぐぇー…殺して…」

相手が堯舜ヤオシュンだったと想像したら、あんな見目麗しい身分違いの相手に、こんな貧弱な身体で迫ったのかと。

恥ずかしくて死にそうになった。
どんな顔して会えばいいの。

ひとり百面相しながら白露バイルーは眠りに落ちた。
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