13 / 26
第二章 藤の散る庭で
後悔
しおりを挟む
塔子は祇園町南側から巽橋へ向かう。花見小路を上り、四条通りを渡る。切り通しを抜ける。今日は学校帰りではないからだ。お昼の公演を観てから、急いで待ち合わせに向かっていた。
塔子の姿を認めると紅丸は笑いかけてくれた。今日の紅丸は黒いジャケットを着てる。少しだけ大人っぽくてドキッとする。明るい笑顔が嬉しくて、私も小走りに寄っていく。
「いつも待たせててごめんなさい」
「塔子ちゃん待ってる時間も好きやし、ええよ」
「私、紅丸さんに電話番号教えてなかったね」
塔子の言葉に紅丸は携帯電話を取り出す。画面に巽橋の桜が降る。それを払いながら、塔子はつぶやいた。
「私、紅丸さんが好き」
「俺も塔子ちゃんが好きや。両想いやな」
昨日あれだけ、吹雪に啖呵をきったことにより塔子は開き直っていた。そして今、本人にも好きって言ったことによって、より好きになれる気がした。視線と視線が絡み合い、2人で微笑みあう。
「とりあえずお昼ごはん食べよか」
そういって紅丸が取り出したのは、〝挽肉と米〟の整理券だ。
「わあ、行ってみたかったやつ!」
炊き立ての羽釜ご飯と炭火で焼いたハンバーグが人気で朝に整理券もらわないと入れない。塔子の笑顔に、紅丸も嬉しそうだった。塔子は3個でギブアップしたが、紅丸は10個目ぐらいのおかわりハンバーグを食べながら、紅丸は言った。
「マンションの窓なおったし、この後うち来る?」
塔子は即答しかねて、少し困った顔をした。その顔を見た紅丸は慌ててフォローを入れる。
「こないだ家に来た時、怖い思いさせたもんな。無理はせんくてええって。ちょっと見せたいもんあっただけやし、別にいつでもええ」
「ううん、大丈夫。紅丸のこと怖いってもう思ってないから」
塔子の返事に、紅丸はほっとしたような顔をする。
「良かった。でも無理強いはせえへんで。やっと好きや言うてくれたのに嫌われとうないもん」
昼食を終えて、四条通りのラデュレでマカロンを買って店を出たら、紅丸が用意した車が迎えに来てた。塔子は再び紅丸のマンションに足を踏み入れる。
「どしたん?なんかあったんけ?」
塔子の表情が暗いのに気がついた紅丸が心配そうに見てくる。
「ちょっと、お腹が痛いだけ。大丈夫」
お腹が痛いのは本当だった。
紅丸のマンションの窓は全部綺麗になおっていた。リビングの全面ガラスから見える景色が綺麗だ。だが塔子を驚かせたのはソファにも、リビングのテーブルや絨毯の上にも所狭しと並べてあるプレゼントの山である。
「全部入りきらんくて、寝室もベッドもクローゼットも箱だらけなんよな。今日全部開けてくれたら助かるし、家に来てほしかってん」
紅丸に促されて、ひとつずつ開けてゆく。洋服や靴やバッグ。小物類や化粧品が入っている。どれもとても可愛いし、多分お店の人が選んでくれた洋服のコーディネートは、どれも可愛くて見ているだけで楽しい。
「着いひんの?」
(嘘をつきたくない。でも嫌われたくもない)
「あのね…実はちょっと…首とかにあざが出来てしまって…」
「軽い怪我やったら治せるし、見せてみ」
紅丸は塔子の首のタートルネックを軽く捲る。
「なんやこれ」
真っ直ぐに視線を見れない。
「すぐ治したるし、傷がちゃんと見えた方がええから、どれが好きな服に着がえてきて」
やけに淡々と紅丸は言い、塔子は素直にプレゼントのワンピースを取る。寝室で夏物のワンピースに着替えた塔子を、穏やかに出迎えた紅丸は、塔子をソファに座らせ、ソファの後ろから吹雪がつけた跡をを指先でなぞっていく。
「少し熱いかもしれん、ごめんな」
掌で包むように当てた。首筋から胸元まで。耳元で囁くように話す紅丸の声は優しく穏やかだけれど、隠しきれない怒気を含んでいた。
「これどうしたん?」
「昨日ちょっと…」
「誰かにやられたん?」
「事故みたいなものなんだけど…」
正直になれなくて、言い淀む。
「なあ、なんで正直に言わへんねん。俺、塔子ちゃんと付き合ってるん彼氏なんやで。これ、やったの狐なんやろ?」
振り返ろうして鋭く止められる。
「動かんといて」
キスマークの内出血が熱い。紅丸の表情が見えなくて、怖い。塔子は答えられない。
「沈黙はYesやで」
気まずい雰囲気のまま、時間が経つ。キスマークの部分の熱さはもうなかった。塔子は振り返ることが怖くて出来ず、困っていた。突然紅丸は塔子を背後から抱きしめた。
「塔子ちゃんが悪くないのわかってんけど、今日はこのまま帰ってくれへんか。車は下につけさすさかい」
それだけを言うと紅丸は寝室へと入ってしまった。塔子は元の服に着替え、迎えに来た車で祇園まで送ってもらう。帰ってお風呂で確認すると、首筋のキスマークはまるで無かったかのように跡形もなく消えていた。
その夜、紅丸からの連絡はなかった。こちらから連絡する勇気はなかった。連絡先を交換したのに、とても遠く感じられた。ペンダントはキラキラ輝いていて、もらったあの日に戻りたかった。
巽橋で、また会えるだろうか。あの笑顔に会えるだろうか。もう二度と会えない予感がした。ほんの微かな希望を持って次の日も、また次の日も巽橋に向かうけれど、紅丸は現れなかった。
塔子の姿を認めると紅丸は笑いかけてくれた。今日の紅丸は黒いジャケットを着てる。少しだけ大人っぽくてドキッとする。明るい笑顔が嬉しくて、私も小走りに寄っていく。
「いつも待たせててごめんなさい」
「塔子ちゃん待ってる時間も好きやし、ええよ」
「私、紅丸さんに電話番号教えてなかったね」
塔子の言葉に紅丸は携帯電話を取り出す。画面に巽橋の桜が降る。それを払いながら、塔子はつぶやいた。
「私、紅丸さんが好き」
「俺も塔子ちゃんが好きや。両想いやな」
昨日あれだけ、吹雪に啖呵をきったことにより塔子は開き直っていた。そして今、本人にも好きって言ったことによって、より好きになれる気がした。視線と視線が絡み合い、2人で微笑みあう。
「とりあえずお昼ごはん食べよか」
そういって紅丸が取り出したのは、〝挽肉と米〟の整理券だ。
「わあ、行ってみたかったやつ!」
炊き立ての羽釜ご飯と炭火で焼いたハンバーグが人気で朝に整理券もらわないと入れない。塔子の笑顔に、紅丸も嬉しそうだった。塔子は3個でギブアップしたが、紅丸は10個目ぐらいのおかわりハンバーグを食べながら、紅丸は言った。
「マンションの窓なおったし、この後うち来る?」
塔子は即答しかねて、少し困った顔をした。その顔を見た紅丸は慌ててフォローを入れる。
「こないだ家に来た時、怖い思いさせたもんな。無理はせんくてええって。ちょっと見せたいもんあっただけやし、別にいつでもええ」
「ううん、大丈夫。紅丸のこと怖いってもう思ってないから」
塔子の返事に、紅丸はほっとしたような顔をする。
「良かった。でも無理強いはせえへんで。やっと好きや言うてくれたのに嫌われとうないもん」
昼食を終えて、四条通りのラデュレでマカロンを買って店を出たら、紅丸が用意した車が迎えに来てた。塔子は再び紅丸のマンションに足を踏み入れる。
「どしたん?なんかあったんけ?」
塔子の表情が暗いのに気がついた紅丸が心配そうに見てくる。
「ちょっと、お腹が痛いだけ。大丈夫」
お腹が痛いのは本当だった。
紅丸のマンションの窓は全部綺麗になおっていた。リビングの全面ガラスから見える景色が綺麗だ。だが塔子を驚かせたのはソファにも、リビングのテーブルや絨毯の上にも所狭しと並べてあるプレゼントの山である。
「全部入りきらんくて、寝室もベッドもクローゼットも箱だらけなんよな。今日全部開けてくれたら助かるし、家に来てほしかってん」
紅丸に促されて、ひとつずつ開けてゆく。洋服や靴やバッグ。小物類や化粧品が入っている。どれもとても可愛いし、多分お店の人が選んでくれた洋服のコーディネートは、どれも可愛くて見ているだけで楽しい。
「着いひんの?」
(嘘をつきたくない。でも嫌われたくもない)
「あのね…実はちょっと…首とかにあざが出来てしまって…」
「軽い怪我やったら治せるし、見せてみ」
紅丸は塔子の首のタートルネックを軽く捲る。
「なんやこれ」
真っ直ぐに視線を見れない。
「すぐ治したるし、傷がちゃんと見えた方がええから、どれが好きな服に着がえてきて」
やけに淡々と紅丸は言い、塔子は素直にプレゼントのワンピースを取る。寝室で夏物のワンピースに着替えた塔子を、穏やかに出迎えた紅丸は、塔子をソファに座らせ、ソファの後ろから吹雪がつけた跡をを指先でなぞっていく。
「少し熱いかもしれん、ごめんな」
掌で包むように当てた。首筋から胸元まで。耳元で囁くように話す紅丸の声は優しく穏やかだけれど、隠しきれない怒気を含んでいた。
「これどうしたん?」
「昨日ちょっと…」
「誰かにやられたん?」
「事故みたいなものなんだけど…」
正直になれなくて、言い淀む。
「なあ、なんで正直に言わへんねん。俺、塔子ちゃんと付き合ってるん彼氏なんやで。これ、やったの狐なんやろ?」
振り返ろうして鋭く止められる。
「動かんといて」
キスマークの内出血が熱い。紅丸の表情が見えなくて、怖い。塔子は答えられない。
「沈黙はYesやで」
気まずい雰囲気のまま、時間が経つ。キスマークの部分の熱さはもうなかった。塔子は振り返ることが怖くて出来ず、困っていた。突然紅丸は塔子を背後から抱きしめた。
「塔子ちゃんが悪くないのわかってんけど、今日はこのまま帰ってくれへんか。車は下につけさすさかい」
それだけを言うと紅丸は寝室へと入ってしまった。塔子は元の服に着替え、迎えに来た車で祇園まで送ってもらう。帰ってお風呂で確認すると、首筋のキスマークはまるで無かったかのように跡形もなく消えていた。
その夜、紅丸からの連絡はなかった。こちらから連絡する勇気はなかった。連絡先を交換したのに、とても遠く感じられた。ペンダントはキラキラ輝いていて、もらったあの日に戻りたかった。
巽橋で、また会えるだろうか。あの笑顔に会えるだろうか。もう二度と会えない予感がした。ほんの微かな希望を持って次の日も、また次の日も巽橋に向かうけれど、紅丸は現れなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる