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皇帝陛下としての本分に目覚めた息子によって、放り出された雲泪であったが、胸に残る疑問がひとつ。
息子が探している翡翠のかんざしの女が銀蓮の翡翠を持つ娘でないとしたら、残るは雲泪の翡翠しかありえない。
3年前に出会った女…雲泪の翡翠のかんざしを持つ…
「わたし、とんでもない見落としをしたかも」
そう呟くと怪訝な奕世に先に部屋に戻るよう促し雲泪は駆け出した。
息を切らしながら、たどり着いたのは白露が勤める尚服の仕事場である。
「雲泪様、どうしてすごく綺麗…」
大きい瞳をひときわ大きく見開いて、雲泪の衣装や髪に目を見張る。
尚服部屋にいた他の宮女たちは、頭を垂れて一斉に合唱する。
「お仕えいたします奴婢めが、皇太后娘娘様にご挨拶いたします」
行儀を知らないと思われた白露は膝の裏に軽く蹴りを周りに入れられ、慌てて頭を他の宮女におさられる。
「礼はいらないわ、白露来て」
呼ばれた白露は戸惑っているがら周りに「早く行かないか」と押し出され、雲泪の前に出る。
「細かい話はあと、一緒について来なさい」
周りの尚服たちは、目配せしあい、あの子がなにをやらかしたのか噂をする声が2人の背中から聞こえた。
雲泪は歩みを止めることなく、白露に話しかける。
「ごめんなさい、びっくりさせた思うけど、あなたがこの翡翠のかんざしを手に入れた経緯が知りたいの」
翡翠のかんざしを引き抜いて、白露に手渡そうとする。
「ぬ、奴婢にはそんな恐れ多いことはできません」
察しの良い娘は、雲泪が皇太后であることを悟って、宮女のルールで皇太后に接する。
困惑で泣きそうな白露の背中を撫でる。牡丹坊の扉を押し開けると、入るように促す。
「怖がらないで。今まで通りで大丈夫だから」
小青がお茶の用意をし、螺鈿細工の美しいテーブルに差し出す。黒檀の椅子に座らされた白露は困惑を未だに隠せないでいる。
「あなたにかんざしを返すわ。3年前このかんざしを巡って何があったのか、教えてくれない?」
「とてもお耳に入れられるような話ではございません。
奴婢にはそんな恐れ多いことはできません」
雲泪は白露の手を取り合わせ、優しく心を込めて語りかける。
「とても大事な話なの、どうか私を母と思って全てを打ち明けてちょうだい」
涙をポロポロながしながら、少しずつ言葉を、話し出す。
不本意な婚礼の花嫁行列の輿に乱入してきた見知らぬ若者がいたこと。「追われている。助けてくれ」と懇願されそして盗賊に襲われたこと。彼が盗賊から救ってくれたこと。抗えない衝動におそわれ、彼とふしだらな関係を結んでしまったこと。
そして彼が、翡翠のかんざしをくれたこと。
しかしあまりにも人の死と直面したためか、朦朧として顔も何も思い出せないこと。
「でも、子どもたちは大切な私の宝物で、ふしだらと罵られ実家を追い出されても、あの子達に出会えたこの人生に悔いなどございません」
雲泪は白露の背中を撫で、まるで母のように抱きしめた。こんな細い身体でどれほどの苦労をしてきただろうと心を痛めた。
「白露、あなた堯舜のことは、好き?」
白露は泣き腫らした頬を赤く染める。
「堯舜様は、カッコよくて私なんかにも優しくて、でも私のようなふしだらな子持ちの女が好きになって良い相手ではございません」
「この翡翠のかんざしは私の母が私に残した宝物。私の息子は3年前それを無くし、瀕死で帰ってきました」
「堯舜様が…そんな…まさか」
「そして、この翡翠のかんざしを持つ娘を探せと国中におふれを出していたの。私たち後宮にいたから気づかなかったみたい」
白露の眼から涙が再び溢れる。嗚咽をもらす白露に雲泪は優しく言葉をかける。
「そうよ、私は幸せだわ。あんな可愛い飛飛と花花が私の本当の孫だなんて。ありがとう、ずっと守って育ててくれて」
「お母様…お願いがあります」
「何でも言ってちょうだい」
「どうか、堯舜様に私のことを話さないでください」
息子が探している翡翠のかんざしの女が銀蓮の翡翠を持つ娘でないとしたら、残るは雲泪の翡翠しかありえない。
3年前に出会った女…雲泪の翡翠のかんざしを持つ…
「わたし、とんでもない見落としをしたかも」
そう呟くと怪訝な奕世に先に部屋に戻るよう促し雲泪は駆け出した。
息を切らしながら、たどり着いたのは白露が勤める尚服の仕事場である。
「雲泪様、どうしてすごく綺麗…」
大きい瞳をひときわ大きく見開いて、雲泪の衣装や髪に目を見張る。
尚服部屋にいた他の宮女たちは、頭を垂れて一斉に合唱する。
「お仕えいたします奴婢めが、皇太后娘娘様にご挨拶いたします」
行儀を知らないと思われた白露は膝の裏に軽く蹴りを周りに入れられ、慌てて頭を他の宮女におさられる。
「礼はいらないわ、白露来て」
呼ばれた白露は戸惑っているがら周りに「早く行かないか」と押し出され、雲泪の前に出る。
「細かい話はあと、一緒について来なさい」
周りの尚服たちは、目配せしあい、あの子がなにをやらかしたのか噂をする声が2人の背中から聞こえた。
雲泪は歩みを止めることなく、白露に話しかける。
「ごめんなさい、びっくりさせた思うけど、あなたがこの翡翠のかんざしを手に入れた経緯が知りたいの」
翡翠のかんざしを引き抜いて、白露に手渡そうとする。
「ぬ、奴婢にはそんな恐れ多いことはできません」
察しの良い娘は、雲泪が皇太后であることを悟って、宮女のルールで皇太后に接する。
困惑で泣きそうな白露の背中を撫でる。牡丹坊の扉を押し開けると、入るように促す。
「怖がらないで。今まで通りで大丈夫だから」
小青がお茶の用意をし、螺鈿細工の美しいテーブルに差し出す。黒檀の椅子に座らされた白露は困惑を未だに隠せないでいる。
「あなたにかんざしを返すわ。3年前このかんざしを巡って何があったのか、教えてくれない?」
「とてもお耳に入れられるような話ではございません。
奴婢にはそんな恐れ多いことはできません」
雲泪は白露の手を取り合わせ、優しく心を込めて語りかける。
「とても大事な話なの、どうか私を母と思って全てを打ち明けてちょうだい」
涙をポロポロながしながら、少しずつ言葉を、話し出す。
不本意な婚礼の花嫁行列の輿に乱入してきた見知らぬ若者がいたこと。「追われている。助けてくれ」と懇願されそして盗賊に襲われたこと。彼が盗賊から救ってくれたこと。抗えない衝動におそわれ、彼とふしだらな関係を結んでしまったこと。
そして彼が、翡翠のかんざしをくれたこと。
しかしあまりにも人の死と直面したためか、朦朧として顔も何も思い出せないこと。
「でも、子どもたちは大切な私の宝物で、ふしだらと罵られ実家を追い出されても、あの子達に出会えたこの人生に悔いなどございません」
雲泪は白露の背中を撫で、まるで母のように抱きしめた。こんな細い身体でどれほどの苦労をしてきただろうと心を痛めた。
「白露、あなた堯舜のことは、好き?」
白露は泣き腫らした頬を赤く染める。
「堯舜様は、カッコよくて私なんかにも優しくて、でも私のようなふしだらな子持ちの女が好きになって良い相手ではございません」
「この翡翠のかんざしは私の母が私に残した宝物。私の息子は3年前それを無くし、瀕死で帰ってきました」
「堯舜様が…そんな…まさか」
「そして、この翡翠のかんざしを持つ娘を探せと国中におふれを出していたの。私たち後宮にいたから気づかなかったみたい」
白露の眼から涙が再び溢れる。嗚咽をもらす白露に雲泪は優しく言葉をかける。
「そうよ、私は幸せだわ。あんな可愛い飛飛と花花が私の本当の孫だなんて。ありがとう、ずっと守って育ててくれて」
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