透明人間vs塩田剛三

梧桐彰

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第四章 語られぬ約束

欧州回顧録「包帯に救われる」

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 彼が殴るのをやめて得意のレスリングで挑んできたのは、私にとっても脅威でした。

 彼はさっと仕掛けてきまた突撃を途中で止め、姿勢を変えるなり組み付いて首を絞めにかかってきたのです。
 この時はさすがに背筋へ寒いものが走りました。

 この透明人間が今までの相手と違うのは、若いながら徒手の格闘技術を深く身に着け、落ちついて戦うことに慣れているところでした。
 人間がどのように反応し、どうすれば不利になるかを熟知しているのです。
 完全につかまれてしまったら、なにをどうしようと振りほどくのは無理でしょう。

 ですが、ここで私はまたも九死に一生を得ました。

 救ってくれたのは、この透明人間に巻き付いていた包帯です。
 巨人が私の首を締めようとしたとき、私は彼のほつれかけた包帯に手を掛けて足をすくうことができました。
 これで彼はバランスをくずしたのです。

 いかに安定感抜群の西洋式レスリングでも、普段練習していない角度からの崩しには対応できません。
 人間の足は内側に引き上げられると、どんな姿勢でも崩れてしまいます。
 彼も例外ではありませんでした。 

 太い双腕が私の胴から離れます。
 対する私は崩れた勢いに乗じて、掌を相手の頬にたたきつけました。
 透明人間の頭を壁に激突させ、大きく窓が割れました。
 ひきつけてもう一度ぶつけます。
 もう一度ぶつけます。

 巨人はこの三撃で、ついにばったりと床に伏せた、というわけです。
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