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第四章 語られぬ約束
欧州回顧録「決着」
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勝利を得たのはこちらでした。
透明人間がそれまでの闘志を完全に消しさったとき。
ただこの刹那、この勝負への覚悟を決めたとき。
彼は精神も肉体もあらゆる意味で消え去っていました。
いくら心機をこらしても捉えることはできなくなりました。
このときばかりは、負けたか、と本気で思いました。
ですが、その傾く均衡は、まったくの幸運によって破られました。
雷が、私の全身をはっきりと見せてしまったのです。
そして私の姿が見えたことで、新しい論理が彼の中に生まれてしまったのです。
見えたぞ!
きっと彼は心の中でそう叫んだことでしょう。
見えないはずの姿が明星の如くに輝いているのですから。
しかし、その事実は自らの姿も露わにしてしていました。
完璧な戦士は、野生の動物に成り下がってしまいました。
先ほどは透明人間と透明人間の立ち合いでした。
それが今は、不透明人間と不透明人間の立ち合いにすり替わったのです。
私の伸ばした右腕へと恐るべき速度で突っ込むのがわかります。
ですがそれは彼にとって勝機ではなく、完全な油断でした。
彼の見えない全身が大声で叫んでいます。
見えたのだ!
見えたからこちらのものだ!
見えたから勝てるのだ!
彼はその幻影にしがみついていました。
その強烈な獣の意識こそが、合気術の真価を発揮する条件でした。
足音から距離とタイミングがわかり、雨滴から手の位置が読み取れました。
意気揚々と組み伏せる勢いに乗じて、私は大きく身をひるがえして相手の両腕をとらえました。
両手が彼の全身と一体になる感覚がありました。
踏み出す方角を変え、全力を加えました。
相手が何かを叫びました。
それでも無我夢中で身についた技を繰り出します。
壁の裂け目めがけて投げ飛ばしました。
摩擦熱を皮膚に残して、肉体が離れていくのがわかります。
巨体を投げつけた貨車の側壁は木っ端みじんに吹き飛びました。
彼の体が完全に列車の外へ放り出されました。
外は谷でした。
坂道に彼の体が弾み、砂利をはじき飛ばしたようです。
ごろん、ごろんと転がる姿が、へし折られていく枝の音でわかりました。
その音は繰り返すたびに、少しずつ遠ざかっていきました。
しばらくその場に立ち、じっと外を見つめました。
雷がもう一度轟きました。
真っ黒な雲の向こうから、誰かの声が聞こえたような気がしました。
『塩田が頑張ってるから、ちょっとだけ手を貸したんや』
私はしばらく壁の向こうへ残心をとっていましたが、それから床にどっと座り込み、大きく息をつきました。
結局、私には光は見えていたのでしょうか?
植芝先生は手を貸してくれたのでしょうか?
それともすべて幻だったのでしょうか?
誰も答えてはくれませんでした。
蒼白であろう私の額から、雨水に混じった汗がとめどなく落ちていました。
透明人間がそれまでの闘志を完全に消しさったとき。
ただこの刹那、この勝負への覚悟を決めたとき。
彼は精神も肉体もあらゆる意味で消え去っていました。
いくら心機をこらしても捉えることはできなくなりました。
このときばかりは、負けたか、と本気で思いました。
ですが、その傾く均衡は、まったくの幸運によって破られました。
雷が、私の全身をはっきりと見せてしまったのです。
そして私の姿が見えたことで、新しい論理が彼の中に生まれてしまったのです。
見えたぞ!
きっと彼は心の中でそう叫んだことでしょう。
見えないはずの姿が明星の如くに輝いているのですから。
しかし、その事実は自らの姿も露わにしてしていました。
完璧な戦士は、野生の動物に成り下がってしまいました。
先ほどは透明人間と透明人間の立ち合いでした。
それが今は、不透明人間と不透明人間の立ち合いにすり替わったのです。
私の伸ばした右腕へと恐るべき速度で突っ込むのがわかります。
ですがそれは彼にとって勝機ではなく、完全な油断でした。
彼の見えない全身が大声で叫んでいます。
見えたのだ!
見えたからこちらのものだ!
見えたから勝てるのだ!
彼はその幻影にしがみついていました。
その強烈な獣の意識こそが、合気術の真価を発揮する条件でした。
足音から距離とタイミングがわかり、雨滴から手の位置が読み取れました。
意気揚々と組み伏せる勢いに乗じて、私は大きく身をひるがえして相手の両腕をとらえました。
両手が彼の全身と一体になる感覚がありました。
踏み出す方角を変え、全力を加えました。
相手が何かを叫びました。
それでも無我夢中で身についた技を繰り出します。
壁の裂け目めがけて投げ飛ばしました。
摩擦熱を皮膚に残して、肉体が離れていくのがわかります。
巨体を投げつけた貨車の側壁は木っ端みじんに吹き飛びました。
彼の体が完全に列車の外へ放り出されました。
外は谷でした。
坂道に彼の体が弾み、砂利をはじき飛ばしたようです。
ごろん、ごろんと転がる姿が、へし折られていく枝の音でわかりました。
その音は繰り返すたびに、少しずつ遠ざかっていきました。
しばらくその場に立ち、じっと外を見つめました。
雷がもう一度轟きました。
真っ黒な雲の向こうから、誰かの声が聞こえたような気がしました。
『塩田が頑張ってるから、ちょっとだけ手を貸したんや』
私はしばらく壁の向こうへ残心をとっていましたが、それから床にどっと座り込み、大きく息をつきました。
結局、私には光は見えていたのでしょうか?
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それともすべて幻だったのでしょうか?
誰も答えてはくれませんでした。
蒼白であろう私の額から、雨水に混じった汗がとめどなく落ちていました。
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