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1話「えっさすがにこれって他人の空似っすか…?」
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突然ですがあなたに「推し」はいますか。
俺はいます。推しがいるっていいですよ。人生が潤いますし。
健康にもいい。推し活とは人間が生きる上で必要なことだって俺は思ってる。
俺の推しは大人気韓国ボーイズグループ「ATOM(アトム)」のメンバー、へファン君。
へファンはいいぞ。いつも金髪なのに傷むことを知らないトゥルトゥルの髪。
色が白いからこそ目立つ、耳元と口元のホクロ。(色っぽくて最高)
目は大きいのに小さい瞳もかわいい、控えめな性格なのに軟骨に開いてるピアスもかわいい!
男が男を推してるなんて変だと思いますか。
一応ガールズグループを好きだった時期もあったよ。他のボーイズグループだって見たさ。
でも俺が女の子のグループを推してた時、そのグループのメンバーとコラボステージをしたことで初めてATOMを知って、初めてへファンを見た。
衝撃だった。
それこそ体に電撃の走るような!
こんなに一生懸命に歌を歌う子がいるんだって思った。
メインボーカルにも女の子たちにも負けない綺麗な高音。
少しキツそうに見えるのが、人間味があってかえってよかった。
荒削りな感じに唆られた。
お察しの通り、へファンは人気メンじゃない。レートも低い。
だから俺がTO(トップオタ)になってやろうと決めた。謙虚で繊細なあの子を俺が全身全霊で支えたい。
(辛い時に隣で背中を支えてやりたい……とか言って……ッ!)
なんで俺が今こんなに彼に対する想いを語ってるかわかりますか?そう。理由はただひとつ。
「バイトに遅刻しそうだから」、です。
一生懸命走ってるんだけど、走るスピードに合わせて脳内もMAXフル回転。
俺のくだらない話に付き合ってくれてどうもありがとう。
(あと1分ッ……!!)
_「ッ、セ、セーフ!!セーフ!?どうですか!?」
「うるさいぞ山下ー。」
「おはよ、ギリセーフだよ!早く打刻しておいで!」
「あ、ッぶねー!!」
バイト仲間の遠藤と小川さんに見送られてダッシュで事務所。
エプロンに着替えながらバタバタと戻った。
「ぜってー今日も間に合わねーと思ったわ。」
「あはは!山下くん今日も汗びっしょりだね!」
「ごめ…ほんと…退勤したら即ATOMのライブだから、ペンラとか探してたら出るの遅くなったわ……」
「あ、チケ取れたの!?いいな~!だから今日16時までなんだね~!!」
ぺったりと汗で張り付くシャツが気持ち悪い。髪はべちゃべちゃ。
額を濡らす汗を袖でぐい、と拭いながらお客さんがいない間、つかの間の雑談タイム。
小川さんは1個下の女子大生。俺の貴重なelectron(エレクトロン:ATOMのファンネーム)仲間だ。
今日の公演のチケは取れなかったらしい。今度連番しようねって話をしてる。
遠藤はなんのこっちゃという顔をしながら「しゃっせー。」とレジに立った。
「아(あ)…すみません、あの、アイスアメリカーノを…ひとちゅ。」
「アイスアメリカーノっすね~。サイズは?」
「ぁ…トール、で。」
「……」
(……???)
え?小川さん気付いてる?
えっあれフードだしサングラスかけてるけど、どう考えてもへファンでしかないよね?
俺が間違えるわけなくない?どれだけ声聞いてると思ってんの、親の声より聞いてるかもしれない。今朝だってここに向かうまでの間聞いてきたへファンの_
「…후우(ふう)…」
イヤーーッ絶対そうなんでーーッ!?
確かにここは都内ですけどアイドル様が来るような目立つ店ではないし!!
隣にいる小川さんの肩をベシベシと叩く。
(無言:お、小川さん!小川さん!!)
「ちょっ…痛っ、なんっ……」
俺の形相にギョッとした顔してたけど視線の先、レジの向こうを見て小川さんの顔も固まった。
(無言:え、え!?あれってへファンくんですか!?)
(無言:わ、わかんないけど多分そう!声!声が同!!)
(無言:…いや、でも待って山下さん…こんななにもないカフェにへファンくんが1人で来ると思いますか……?)
(無言:……、確かに!それもそうだよね~!さすがに他人の空似だわな!)
(無言:そうですよ!まさかこんなところにATOMが来るわけ……)
俺たちは身振り手振り・表情だけで会話を繰り広げていた。
その時、開けっ放しだった入口から風が吹き込みレジの彼のフードが外れる。
「아……!!」
顕になる金髪。
彼は慌ててフードを掴んで被り直したが、軟骨に開いたピアスがキラリと光るのが見えた。
ぜ……
(絶対本人だーーーッ…!!)
間違いない…あのピアスはさすがにへファン…もう無理…俺もう帰る……
崩れ落ちる俺の背を慌てて支えてくれる小川さん…
(推しの背を支えるどころか、俺が年下の女の子に背を支えられる側に……)
「山下。」「ファイッ!?」
「あれさー、お前の推しじゃね?へファン?みたいな。」
「えっそうだよなんでわかったの」
「いらねえっつってんのにお前が何度も写真送ってくるからだろ。ほら、いいぞコーヒー渡してきて。」
「えっえっえっ、ダメだよそんなの職権乱用で…」
「えっじゃあ私が行きます!!」
「待ってーーー、ダメー、小川さんはダメ…俺が行く……」
手渡されたアイスコーヒー。
結露が汗ばむ俺の手をつぅ、と流れて伝う。
「ッ……」
「お、お待たせしました……!こっ、こちらがアイスアメリカーノです……!」
俺の声を聞いてぱっと顔を上げる、(多分)推し。
「…ありがとうごじゃいます。」
そのふわっと笑った顔は見間違えるわけもなく、どう考えても俺の大好きなへファンの顔で。
「あ、あの…俺…その、この後ライブ行くんで…楽しみにしてます……」
思わず口が滑ってしまった。こんなチャンス、無駄にしたくなくて未だコーヒーも渡せずじまい。
「…!!…혹시(もしかして)electron?만날 수 있기를、기대합니다(会えるの、楽しみにしてます)。」
嬉しそうにまたふわりと笑ったへファンはコーヒー越し、俺の手ごとぎゅっと握ってからすぐにコーヒーだけを抜き取り、俺に向けて手を振りながら走り去ってしまった。
「 俺に向けて 」手を振りながら……
へなへなとカウンターに崩れる。
「っや、山下さん~~っ!!よかったですね!超、超、ラッキーじゃないですか~~っ!!」
「もういいもう今日のお前仕事にならなそうだからその辺で補充でもしてろ。」
(空…空似じゃない。あれはさすがに空似じゃない。俺の(大好きな)へファン……)
「山下さん牛乳零れてます山下さん」
「補充もできねーんかお前!!もう使えねーな今日!!」
(どうしよう、今日死ぬかも………)
_ライブまであと2時間。
俺はいます。推しがいるっていいですよ。人生が潤いますし。
健康にもいい。推し活とは人間が生きる上で必要なことだって俺は思ってる。
俺の推しは大人気韓国ボーイズグループ「ATOM(アトム)」のメンバー、へファン君。
へファンはいいぞ。いつも金髪なのに傷むことを知らないトゥルトゥルの髪。
色が白いからこそ目立つ、耳元と口元のホクロ。(色っぽくて最高)
目は大きいのに小さい瞳もかわいい、控えめな性格なのに軟骨に開いてるピアスもかわいい!
男が男を推してるなんて変だと思いますか。
一応ガールズグループを好きだった時期もあったよ。他のボーイズグループだって見たさ。
でも俺が女の子のグループを推してた時、そのグループのメンバーとコラボステージをしたことで初めてATOMを知って、初めてへファンを見た。
衝撃だった。
それこそ体に電撃の走るような!
こんなに一生懸命に歌を歌う子がいるんだって思った。
メインボーカルにも女の子たちにも負けない綺麗な高音。
少しキツそうに見えるのが、人間味があってかえってよかった。
荒削りな感じに唆られた。
お察しの通り、へファンは人気メンじゃない。レートも低い。
だから俺がTO(トップオタ)になってやろうと決めた。謙虚で繊細なあの子を俺が全身全霊で支えたい。
(辛い時に隣で背中を支えてやりたい……とか言って……ッ!)
なんで俺が今こんなに彼に対する想いを語ってるかわかりますか?そう。理由はただひとつ。
「バイトに遅刻しそうだから」、です。
一生懸命走ってるんだけど、走るスピードに合わせて脳内もMAXフル回転。
俺のくだらない話に付き合ってくれてどうもありがとう。
(あと1分ッ……!!)
_「ッ、セ、セーフ!!セーフ!?どうですか!?」
「うるさいぞ山下ー。」
「おはよ、ギリセーフだよ!早く打刻しておいで!」
「あ、ッぶねー!!」
バイト仲間の遠藤と小川さんに見送られてダッシュで事務所。
エプロンに着替えながらバタバタと戻った。
「ぜってー今日も間に合わねーと思ったわ。」
「あはは!山下くん今日も汗びっしょりだね!」
「ごめ…ほんと…退勤したら即ATOMのライブだから、ペンラとか探してたら出るの遅くなったわ……」
「あ、チケ取れたの!?いいな~!だから今日16時までなんだね~!!」
ぺったりと汗で張り付くシャツが気持ち悪い。髪はべちゃべちゃ。
額を濡らす汗を袖でぐい、と拭いながらお客さんがいない間、つかの間の雑談タイム。
小川さんは1個下の女子大生。俺の貴重なelectron(エレクトロン:ATOMのファンネーム)仲間だ。
今日の公演のチケは取れなかったらしい。今度連番しようねって話をしてる。
遠藤はなんのこっちゃという顔をしながら「しゃっせー。」とレジに立った。
「아(あ)…すみません、あの、アイスアメリカーノを…ひとちゅ。」
「アイスアメリカーノっすね~。サイズは?」
「ぁ…トール、で。」
「……」
(……???)
え?小川さん気付いてる?
えっあれフードだしサングラスかけてるけど、どう考えてもへファンでしかないよね?
俺が間違えるわけなくない?どれだけ声聞いてると思ってんの、親の声より聞いてるかもしれない。今朝だってここに向かうまでの間聞いてきたへファンの_
「…후우(ふう)…」
イヤーーッ絶対そうなんでーーッ!?
確かにここは都内ですけどアイドル様が来るような目立つ店ではないし!!
隣にいる小川さんの肩をベシベシと叩く。
(無言:お、小川さん!小川さん!!)
「ちょっ…痛っ、なんっ……」
俺の形相にギョッとした顔してたけど視線の先、レジの向こうを見て小川さんの顔も固まった。
(無言:え、え!?あれってへファンくんですか!?)
(無言:わ、わかんないけど多分そう!声!声が同!!)
(無言:…いや、でも待って山下さん…こんななにもないカフェにへファンくんが1人で来ると思いますか……?)
(無言:……、確かに!それもそうだよね~!さすがに他人の空似だわな!)
(無言:そうですよ!まさかこんなところにATOMが来るわけ……)
俺たちは身振り手振り・表情だけで会話を繰り広げていた。
その時、開けっ放しだった入口から風が吹き込みレジの彼のフードが外れる。
「아……!!」
顕になる金髪。
彼は慌ててフードを掴んで被り直したが、軟骨に開いたピアスがキラリと光るのが見えた。
ぜ……
(絶対本人だーーーッ…!!)
間違いない…あのピアスはさすがにへファン…もう無理…俺もう帰る……
崩れ落ちる俺の背を慌てて支えてくれる小川さん…
(推しの背を支えるどころか、俺が年下の女の子に背を支えられる側に……)
「山下。」「ファイッ!?」
「あれさー、お前の推しじゃね?へファン?みたいな。」
「えっそうだよなんでわかったの」
「いらねえっつってんのにお前が何度も写真送ってくるからだろ。ほら、いいぞコーヒー渡してきて。」
「えっえっえっ、ダメだよそんなの職権乱用で…」
「えっじゃあ私が行きます!!」
「待ってーーー、ダメー、小川さんはダメ…俺が行く……」
手渡されたアイスコーヒー。
結露が汗ばむ俺の手をつぅ、と流れて伝う。
「ッ……」
「お、お待たせしました……!こっ、こちらがアイスアメリカーノです……!」
俺の声を聞いてぱっと顔を上げる、(多分)推し。
「…ありがとうごじゃいます。」
そのふわっと笑った顔は見間違えるわけもなく、どう考えても俺の大好きなへファンの顔で。
「あ、あの…俺…その、この後ライブ行くんで…楽しみにしてます……」
思わず口が滑ってしまった。こんなチャンス、無駄にしたくなくて未だコーヒーも渡せずじまい。
「…!!…혹시(もしかして)electron?만날 수 있기를、기대합니다(会えるの、楽しみにしてます)。」
嬉しそうにまたふわりと笑ったへファンはコーヒー越し、俺の手ごとぎゅっと握ってからすぐにコーヒーだけを抜き取り、俺に向けて手を振りながら走り去ってしまった。
「 俺に向けて 」手を振りながら……
へなへなとカウンターに崩れる。
「っや、山下さん~~っ!!よかったですね!超、超、ラッキーじゃないですか~~っ!!」
「もういいもう今日のお前仕事にならなそうだからその辺で補充でもしてろ。」
(空…空似じゃない。あれはさすがに空似じゃない。俺の(大好きな)へファン……)
「山下さん牛乳零れてます山下さん」
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(どうしよう、今日死ぬかも………)
_ライブまであと2時間。
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