【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】

阿佐夜つ希

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第二章

28 祈りの理由

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「わ、すごい……!」

 馬車の外に広がる光景に、ヒナリは声を上げずにはいられなかった。鮮やかな緑のゆるやかな起伏が、ずっと遠くまで続いている。遠くには大小の山々が連なっている。雲ひとつない青空と、緑とのコントラストが目に眩しい。

「綺麗……。こんな素敵な風景を見させてもらえて嬉しいな。里帰りに誘ってくれてありがとう、ダリオ」

 窓から振り返ると、ダリオが口元を微笑ませた。

「君は景色を眺めるのが好きなの?」
「うん、大好き!」

 張り切ってそう答えた瞬間、ダリオが目を見開いて小さく身じろぎした。瞬く間に頬が赤く染まる。

「どうしたの?」
「君があまりにも可愛くて驚いた」
「あはは! 聖女だからって誉めすぎだよ! 私から言わせてみれば、ダリオの方がよっぽど美人で見る度に見とれちゃうのに」
「美人? それってベルトランのことではなく?」
「ベルトランはもちろん、ダリオも、アルトゥールもクレイグもみんなホントにかっこいいよ。賢者って顔が良くないとなれないとかあるの?」
「そんな話は聞いたことないな……」

 ダリオの視線が下がっていく。
 その反応でヒナリは思い出した――ダリオは賢者であるが故に、その地位に目が眩んだ女性にひどい目に遭わされていたのだった。そういった人たちに顔を誉められて嫌な思いをしたのかも知れない。

「ごめんねダリオ、浮かれて変なこと言っちゃって」
「ううん。君にだったらどこをどう誉めてもらえても嬉しく感じるよ」

 そう言って穏やかな笑みを浮かべる。

(気を遣わせちゃって申し訳ないな)

 ヒナリが反省していると、急にダリオが顔を近付けてきた。赤い瞳でまっすぐに目を覗き込んでくる。

「僕が言ったことは本当だよ? だから申し訳ないなんて思わないで」
「う、うん」

 こういう感情もオーラで見えてしまうらしい。ヒナリは気持ちを切り替えると、再び窓の外を眺めることにしたのだった。



 しばらく同じ景色が続き、今の景色はもう充分堪能したかなと思ったヒナリが馬車内に視線を戻すと、ダリオが話し掛けてきた。

「さて。到着まで時間も掛かることだし、祈りの儀の前に聞かせた説明では省略した【浄化とは何なのか】ということから話していこうか」
「あ、うん。ぜひ勉強させてください」

 背筋を伸ばし、生徒になった気分で説明に耳を傾ける。

「昨日ベルトランも話していたけれど、君の祈りは魔獣の弱体化が主目的ではない。君が祈ることによって、魔鉱石というものから発せられる余分な魔力を消し去る。これが一番の目的」
「うん」
「魔鉱石というのは魔力が含まれている石で、世界中どこにでも埋まっているありふれた石なんだけど、聖女様が身まかられて御加護が消えると、その石に含まれている魔力が石の外に漏れ出してしまうようになる。それを【余剰魔力】と呼ぶんだ」
「余剰魔力……」
「そう。余剰魔力というものは、互いに引き合う性質があってね。余剰魔力が集まって魔獣が形成され、人々を襲うようになる」
「そうなんだ……」

 魔獸はどこかに棲家があって、そこから人々の居る場所にやって来るのかも知れないとヒナリはおぼろげに考えていた。
 しかしその発生源が【世界のどこにでもある石】では、突如として出現するその生き物たちに手を焼かされるのも無理もないだろう。

「続いて魔鉱石の用途だけど。昔は採掘したものは、そのまま燃料として使っていたらしい」

(石炭みたいな感じかな?)

「魔道具で高温が出せるようになってからは、溶かして加工して丈夫な道具を作れるようになった」

(鉄鉱石っぽいかも?)

「あとは粉砕して固めて魔力石塊というものにして、それを魔道具に嵌め込み、そのエネルギーで魔道具を動かすことができる」

(電池ってこと!?)

 魔鉱石というものの多様さに、感心せずにはいられない。

「万能な石なんだね」
「そうだね」
「お部屋にある灯りも、その魔力石塊ってやつで光ってたりする?」
「その通り。よく分かったね。君が降臨直後に着替えをした部屋も、天井全体に照明が埋め込まれていて、魔力石塊の力で光っていたんだ」
「そうなんだ! ずっと気になってたんだよね、エネルギー源はどうなっているんだろうって」

 疑問がひとつ解消されて、ヒナリはすっきりとした気分で伸びをした。
 笑みを浮かべたダリオが説明を再開する。

「魔鉱石は世界中、色々な場所で産出されるけれど、一番埋蔵量が多く、質が高いのが北の端、元は離島だったシュネインゼル辺境領なんだ。魔鉱石の埋蔵量が多いせいで余剰魔力も膨大な量となり、そこから発生する魔獣も巨大化、凶暴化し、聖女様の御加護がない期間は甚大な魔獣被害が発生する」
「そうなんだ……」
「数年前、ここ数十年で最も巨大で凶暴な魔獣が出現した際、そいつを退治する陣頭指揮を取ったのが、当時王国騎士団長だったアルトゥールなんだ。過去に記録がないほどに強大な魔獣と対峙して戦線が崩壊する中、最終的にはアルトゥールがたったひとりで対峙し、とどめを刺したらしい。山のように巨大な魔獣だったにもかかわらず」
「アルトゥール、すごい……!」
「だからアルトゥールは世界最強の騎士様と呼ばれるし、辺境伯はアルトゥールには頭が上がらないんだ」
「うんうん、それはそうだろうね」

 ヒナリが張り切って頷けば、釣られたようにダリオもまた口元を微笑ませて頷く。
 しかしすぐに真剣な表情に変わると、さらに話を続けた。

「ヒナリ、ひとつ大事な情報を教えておく。賢者はお務め終了時に莫大な褒賞金が出るということから、賢者を輩出できなかった貴族たちから逆恨みされていたりもするんだ。その筆頭が、さっき話したシュネインゼル辺境領の伯爵で、三代前の聖女様のときにひとりだけ賢者を輩出して以降、一族から賢者を輩出できていないことに憤り、愚かにも女神様すら否定する言葉を口にすることがある。伯爵家だから今後何かしらの集まりで顔を合わせる機会は幾度となく訪れるはずだけど、伯爵の性格からして必ず君に噛み付いてくると思う。そのときは、君は何を言われても受け流すようにして」
「分かった、肝に銘じます」

 ダリオがヒナリの両手を取り上げて、強く握り締める。

「僕ら賢者がいつでも君の心に寄り添い、支えていることを忘れないで」
「ありがとう」

 頼もしい言葉に、ヒナリは胸が熱くなったのだった。


    ◇◇◆◇◇


 ダリオの実家は一日で着く距離ではなかった。道中、国王の計らいで二ヵ所の王族の別荘でそれぞれ一泊させてもらった。
 ヒナリの面倒を見てくれたメイドたちは皆優しく仕事が丁寧だった。神殿の聖女邸と何ら変わらぬ快適さで過ごさせてもらえたのは、国王の心遣いの賜物だろう。


 聖女邸を出発して三日目の朝、馬車はダリオの故郷、アウレンティ領に入った。
 森の中を馬車が行く。しばらく濃緑の景色が続いた後――突然視界が開けた。
 森を抜けた先は大きな湖だった。湖畔に城が建っている。

「わ、素敵なお城! 綺麗……!」

 美しい湖に並び立つに相応しい、荘厳な佇まいの古城が朝日を浴びて輝いている。

「あのお城も王家の別荘だったりするのかな?」
「あれ、僕の実家」
「え」

 さらりとダリオに重大なことを言われて、ヒナリはぽかんと口を開けてしまった。
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