【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】

阿佐夜つ希

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第二章

40 完全浄化までの道程

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 記録の中の先代聖女が、転生した事実を受け入れられずに大声で泣いている。彼女を取り囲む先代賢者たちは、降臨したばかりの聖女の嘆く様子に困惑しつつも、四人の誰もが『身命を賭して貴女に寄り添い続ける』と誓っていた。
 ヒナリと同じく先代聖女も前世では賢者たちより年上だったらしく、年下の賢者たちの懸命さに心を動かされて、その場では一旦嘆くのをこらえていた。

 読み進めていくと、先代聖女は女神に抗議しに行って一蹴されていたり、四人の賢者に深く感謝の念を抱きつつも、時折自身の置かれた現実に打ちひしがれてはひとり密かに涙していた。


 先代聖女が儀式に溺れる理由に触れ、ヒナリは心の中で詫びずにはいられなかった。

(お盛んなんて思ってしまってごめんなさい、先代聖女様)

 前世で志高く生きたであろう先代聖女はきっと、賢者たちに激しく抱かれていなければ精神の安定を保てなかったのだろう。それに比べたら、前世に大して未練のない自分の、この世界へ来るまでの人生のなんと浅かったことか。

 自分はこの世界の聖女となってしまって本当に良かったのだろうか――。

 様々な思いが錯綜し、目の奥が熱くなる。

 まばたきを繰り返して涙をごまかしていると、視界の端に無言でハンカチが差し出された。ベルトランだった。

「……ありがとう」

 またハンカチを借りてしまったなと思いつつ、そっと目頭を押さえる。
 涙を拭い終え、鼻を押さえると、ヒナリは自身の涙のわけを説明した。

「……どの聖女様もみんな、降臨したときは戸惑われていたみたい。特に先代聖女様は、とても苦しまれていて……」
「そうなんだ……」

 ベルトランが切なげな声をこぼす。アルトゥールがヒナリの背に手を添えてくる。クレイグとダリオも、読んでいた本を閉じてヒナリをじっと見つめていた。
 ベルトランが、ヒナリの頭に何度も優しく手を滑らせる。

「焦らなくていいからね、ヒナリ。君の心の揺らぎが収まるように、僕らがずっと寄り添い続けるから」
「ありがとう。私は大丈夫。みんな、本当にありがとう」

 歴代聖女と比べたら私の戸惑いなんて些末なことなのに、こんなにも温かく支えてくれるなんて――ヒナリは賢者たちに申し訳なくなって、再びハンカチで目を押さえたのだった。


 涙が収まったあと、頭を切り替えたヒナリはこの世界について勉強しようと思い立った。
 記録本を本棚に戻し、再び賢者たちの間に腰を下ろして背筋を伸ばす。

「いろいろ知りたいことがあるんだけど、質問してもいいかな」
「もちろん」

 真っ先にベルトランが頷く。アルトゥールもヒナリの方に向き直る。クレイグとダリオも読書には戻らずヒナリに目を向けてきている。皆、話に付き合ってくれるらしい。

「浄化の効果って、毎回一ヶ月間しか持たないの?」
「いや。初回の祈りで一ヶ月、その後二ヶ月、三ヶ月、半年と少しずつ延びていくんだ。あとは一年ごとに女神様に祈りを捧げて、祈りの間にある光時計の色が紫色から白色に変わったら、その次の祈りで完全浄化に至る。どの歴代聖女様も五年掛かったそうだけど、先代聖女様だけは例外で、たった三年で完全浄化を成し遂げられたそうだよ」
「なるほど……」

 先代聖女の尋常でない儀式の回数からすると、体内に溜め込んだ膨大な量の魔力で早々に世界を浄化できたということなのだろう。
 先代がそうだったからといって、万が一、自分にまでそれを期待されるとなると――。

(先代様と同じペースでセックスしてたら体が壊れちゃうよ)

 先代聖女の激しい儀式の描写を思い出してしまい、ヒナリがどきどきそわそわしていると、

「……ヒナリ」
「ひゃいっ」

 急にベルトランに呼び掛けられて肩が跳ねてしまった。
 固まったヒナリの目を、温かな光を湛えたエメラルドグリーンの瞳が覗き込んでくる。

「君は君のペースで儀式を受け入れてくれればいいからね。先代様が三年で完全浄化を成し遂げられたからって君までそれを目指す必要はないし、多くの聖女様が五年で完遂したからって君が無理してまで同じ期間を目指す必要もない」
「でもそんなわがまま許されないでしょ? みんな、早く浄化が完了して欲しいって思ってるんだから」
「だからといって、君が苦しんでまでお務めを果たそうとしなくてもいいってこと。君なりのペースで浄化を進めていった結果、もし五年以上掛かったとして、それで文句を言ってくる奴が居たら僕らが全力で君をその悪意から護ってみせる」
「それは……ありがとう」

(でも、三年は無理だとしても、やっぱり五年は目指さないとだよね)

 おぼろげだった指針が定まり、決意を新たにする。
 腹を決めた途端、ふと別の疑問が湧いてきた。

「そういえば……一年ごとってさっき言ってたけど、一定の期間ごとじゃなくて、例えば短期間で二回連続して祈ったら、その次に祈るのは二年後でもいいってことにはならないのかな」
「それは先代聖女様が実際に検証してくれたそうだよ。祈りの儀の直後にすかさず賢者たちと儀式をおこなって、立て続けに祈っても期間は延びなかったんだって」

(身をもって試してくれたなんて、先代聖女様、自己犠牲が過ぎるよ……)

 今そこまでの献身は求められていないとはいえ、現在のみならず後世にまで影響を残すような貢献を自分ができるとは思えなかった。


 ヒナリが視線を下げていく横で、アルトゥールがそわそわとし出した。
 膝に置いた手を何度か組み直してから、意を決した風な口調で呼び掛けてくる。

「……ヒナリ」
「なあに?」

 隣に顔を向ける。するとアルトゥールの目がなぜか泳いでいた。ちらちらと落ち着きなくヒナリを見たり見なかったりしている。

「我々の儀式は、五回目以降は、最低でも年に一回おこなえば済むはずではあるのだが……」
「うん、そうだね」

 頷いてみせれば、見やった顔が徐々に赤くなっていく。

「その、だな」
「ん?」
「もしヒナリさえ良ければ、年に一度と言わず、もう何回か……週に、いや、月に一度くらいは儀式をおこなわせてはもらえないだろうか」
「――!」

 予想外の打診に全身が燃え上がる。平たく言えば『月に一度セックスしたい』ということである。
 ヒナリが返事をするより先に、ベルトランが声を張り上げた。

「ちょっとアルトゥール! 今それ言う!? さっき僕が『ヒナリのペースで』って言ったばかりなのに!」
「まだ二回目の儀式もおこなっていないというのに、貴方は勇み足が過ぎます」
「いくらヒナリが優しいからって、そこに漬け込む真似はどうかと思う」

 クレイグとダリオも『何を言っているんだこいつは』と言わんばかりの非難めいた口振りで責め立てる。
 アルトゥールが力なく項垂れて、頭を抱え込んだ。短い赤髪をつかんで首を振る。

「すまない、本当にすまない……。しかしヒナリを想うとどうしても冷静さを欠いてしまうのだ」

 ヒナリは自分の膝に手を置いてお辞儀するように頭を低くすると、アルトゥールの顔を覗き込んだ。

「アルトゥール、そう自分を責めないで。私、言ったでしょ? あなたのことを全部受け止めるって。あなたの望むだけ満たしてあげられていない私がこう言っても説得力がないかも知れないけど、あなたひとりだけが我慢を強いられる状況になるのは私も悲しいよ」
「ヒナリ……!」

 がばっと体を起こしたアルトゥールがヒナリの両手をつかみ、熱い眼差しで見つめてくる。ラピスラズリ色の瞳はすっかり潤んでいた。

「ありがとうございますヒナリ、なんとお優しいのか貴女は……! 貴女の賢者となることができて、私は本当に幸せだ……!」

 多分とんでもない宣言をしてしまったとは思う。しかし十四年間も禁欲生活を続けてきたアルトゥールに対して、年一回だけの性行為で満足しろというのはあまりにも酷な気がした。
 ヒナリの背後から、ベルトランがそっと頭を撫でてくる。

「本当に無理しないでね、ヒナリ」
「うん。心配してくれてありがとう」
「貴女の献身性には讚美を禁じ得ませんね。いいでしょう、貴女がアルトゥールに無体を働かれた際は、私が貴女のお体の回復に尽力致します」

 とクレイグもまた口元を微笑ませる。
 続いてダリオが真剣な眼差しでヒナリとアルトゥールを見つめた。

「本当にヒナリが限界まで無理してると分かったときは、止めさせてもらうからそのつもりで」
「ああダリオ、承知した。その際は私を殴ってでも止めてくれ」
「僕が殴ったところで君には効かなそうだけど。僕、そんなに力ないし」

 とダリオがアルトゥールに向かって肩をすくめてみせると、その場に居た全員が一斉に笑い出した。


 賢者たちの熱い想いと気遣いに、心が温かくなる。

(みんなに大事にしてもらえて、私の方がよっぽど幸せだよ。それに――)

 あと数日経てばまた、この素敵な人たちに抱かれることになる――それを思えば、安らいだ気持ちは簡単に揺れ始めるのだった。


    ◇◇◆◇◇


 次の祈りの儀まであと十日ほどとなり、二回目の儀式が始まる。

 ヒナリはベルトランの部屋のベッドに腰掛けた瞬間、初めての儀式のことを思い出した。

(あのときはすごい緊張してたな……あれからまだ一ヶ月も経ってないのか)

 今現在もまた、これから賢者に抱かれることを思えば心臓は騒ぎ出すものの、初めてのときのような何が起こるか分からないという不安は一切なかった。
 隣に座るベルトランの横顔をそっと見上げる。きっとこれからまた、この美しい賢者に際限なく酔わされるのだろう――。
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