68 / 102
第四章
68 ダンスのお手本と塗り薬
しおりを挟む
ダンスホールのちょうど真ん中で振り返ったダリオが、無表情でベルトランを見上げる。
「どっちがどっちをやる?」
「普段は僕が女性側なんだから、今日は君が女性側をやってよ」
「了解」
「普段って?」
ふたりの会話が気になったヒナリは、つい口を挟んでしまった。
すかさずベルトランが顔だけを振り向かせて微笑む。
「君が図書館へと出掛けている間、ダリオはダンスの練習をしているんだよ。僕はたまに付き合うくらいだけど」
「そうだったんだ」
ダリオがベルトランの肩越しに顔を覗かせて、ヒナリと目を合わせてきた。
「王家主催の舞踏会があることは昔から決まっていることだったから。僕は夜会をずっと避け続けていたせいで、人前で踊る機会がほとんどなかったから、皆より見劣りしないように多く練習するようにしているんだ」
「なるほど……」
『ダリオは邸宅にこもって何をしているのかな』と若干疑問に思ったこともあったものの、ただのんびり過ごしていたわけではなかったらしい。陰ながら努力していることを知り、ヒナリはダリオに尊敬の念を抱いたのだった。
「さて。音楽なしだけど許してね」
ベルトランとダリオが手を重ねて、構えたところで目を見合せる。
「曲は?」
「それじゃ……花のワルツで」
「いいね」
ダリオの提案に頷いたベルトランが、小声で拍を取り始める。
3カウントを二回唱えた後――すっと小船が水面を漕ぎ出すかのように、ふたり揃って滑らかに踊り出した。
(わ、素敵……!)
淀みなくステップを踏む動きは一糸乱れぬ息の合い方で、まるでふたりの足の間に棒を渡してあるかのような完璧さだった。揃った足音と舞の流麗さに、鳴ってもいない音楽まで聞こえてくる気がした。
不意に繋ぎ合わせた手が掲げられ、女性役のダリオがくるりと体を一回転させる。
再び向かい合わせになった途端、ベルトランがダリオを見下ろして柔らかな笑みを浮かべた。
(素敵……王子様みたい……)
ヒナリが胸をときめかせる一方で、その視線を受けたダリオはというと白けた目付きをして何かを呟き、苦虫を噛み潰すような表情を浮かべた。
その反応を見たベルトランが、宙を仰いで笑い声を上げながらも両腕を伸ばして離れていき、またダリオを引き寄せて受け止める。
特に踊りに集中せずとも自然と体が動くらしい。堂に入った身のこなしに、昔からずっと練習してきたであろうことが伝わってきた。
横並びになったふたりがお辞儀して、ダンスの実演が終了した。
ヒナリはアルトゥールやクレイグと共に手を打ち鳴らすと、感激のままにダリオとベルトランを褒め称えた。
「素敵! ふたりとも本当に上手なんだね! 映画……じゃなくてお芝居のワンシーンを見てるみたいだった! 踊ってみせてくれて本当にありがとう!」
ヒナリの言葉にベルトランが笑顔になる横で、ダリオが肩をすくめた。
「君が喜んでくれたならいいけど。ベルトランが完全に女性に向ける目をしてきたから気色悪かった」
途端にベルトランが「あはは」と腹を抱えて笑い出す。
「ごめんねダリオ、あれってもう習慣になっちゃってるからさ。踊りの動作と表情と、僕の中でセットになってるんだ」
「まあ、分かるけど」
ふたりはばらばらに歩き出すと、ヒナリたちの居るソファーに腰を下ろした。
向かいに座ったベルトランが、先生めいた頼もしげな顔付きでまっすぐに見つめてくる。
「さてヒナリ。これから少しずつ憶えていこうね」
「うん、よろしくお願いします! 頑張ります!」
舞踏会の話を聞いた当初は乗り気ではなかったのに、ベルトランとダリオの華麗なるダンスにすっかり心を奪われてしまったヒナリは、『あんな風に踊れたら素敵だろうな』と強く思い、俄然ダンスの練習に意欲が湧いてきたのだった。
ステップを教えてもらい、足元を見ながら動きを真似る。
やる気が出たせいか、ヒナリはすんなりとダンスの動きを身に着けていった。
(前世で体を動かす習慣はなかったけど、結構楽しいな、これ)
四人と練習に励むうちに、相手の足を思い切り踏みつけて平謝りする回数は減っていき、ダリオやベルトランのバイオリンに乗せて賢者たちと踊る時間はヒナリの毎日の楽しみとなっていった。
そんな中、それまで使っていなかった筋肉を使ったからということなのだろうか、ふくらはぎが筋肉痛になってしまった。
練習後、ソファーに腰を下ろし、足をさすりながら『痛たた……』と呟いた瞬間ダンスホールに緊張が走った。
ヒナリが迂闊な発言を洩らした口を押さえても後の祭り、聖女が痛みを訴えたという事実は思いの外重く受け止められてしまった。賢者たちもメイドたちも皆、悲痛めいた面持ちで、口々に労わりの声を掛けてくる。
『大丈夫だよ』とヒナリが一同に笑みを見せて取り繕っている間にクレイグが自室に戻り、塗り薬を持ってきてくれた。丸く平たい容器を差し出して、説明を始める。
「ヒナリ、こちらは鎮痛消炎薬です。私が調合した魔法薬ではなく市販のものですから、薬効が強く出ることもないでしょう。塗って差し上げますね」
「ありがとう、クレイグ」
クレイグが目の前に膝を突き、恭しくヒナリの靴を脱がせていく。
思い起こせばメイドのふたり以外に裸足にさせられたのは初めてで、ヒナリはそれだけでどきどきしてしまった。
クレイグの太ももの上に足の裏を乗せられて、ジェル状の薬を塗り込まれていく。広い手のひらがふくらはぎをなぞる感触は、くすぐったくもあったが、ミントのような清涼感のある薬は疲れた足にことさら心地よかった。ハーブの香りが鼻に届き、たちまち癒しの時間が訪れる。
「はあ……気持ちいい……」
目を閉じて、溜め息と共に率直な感想をこぼす。ひんやりとした薬が沁み込んでいき、痛む部分に届いているような感覚がした。
すっとする感触から、前世の湿布薬を連想する。貼り付けるタイプのものはあるのかな、などと考えながらふと目を開くと、四人の賢者に凝視されていることに気が付いた。アルトゥールとクレイグは頬を赤らめていて、ベルトランとダリオは口の端を上げた意味深な顔付きになっている。
「みんな、どうしたの?」
「んー? 気持ちよさそうなヒナリ、とても可愛いなと思って」
「えっ!」
ベルトランに言われて初めて、ヒナリは自分が薬を塗られてうっとりとしてしまっていたことを自覚した。
両手で顔を覆ってうなだれる。
「ごめん、変なところを見せちゃって……」
「ううん。もっと見せて欲しいくらいだよ」
「そういうこと言わないでよお……」
手のひらの中に声をこもらせていると、そわそわとした声が聞こえてきた。
「ヒナリ。今度、私にも塗らせてもらえないだろうか」
「!?」
予想外の問い掛けに素早く顔を上げると、アルトゥールの真剣な眼差しが待ち構えていた。しかし頬や耳はさっき見た以上に赤く染まっている。心なしか鼻息も荒い。
「顔を赤くしながら塗られるのは、ちょっとイヤかな……」
「そっ、それは……! そうならないように心掛けると誓うから、私にもその大役を授けてもらえると嬉しい」
「うーん。もしまた痛くなったらね」
アルトゥールの必死さに絆されて、つい了承してしまった。
とはいえはっきりとした筋肉痛を感じたのはこの一度きりで――毎回練習後にアルトゥールが落ち着かない様子で視線を寄越してくるので、ヒナリは『どこも痛くなってないよ!』と言い残してそそくさとダンスホールを出ていくのが恒例となってしまったのだった。
◇◇◆◇◇
舞踏会当日。
「ヒナリ様、よくお似合いです……!」
鏡の中に立つ令嬢を見て、ミュリエルとレイチェルが目を潤ませる。
普段はシンプルなワンピースやローブを着ているだけに、スカート部分にボリュームのあるいかにもお姫様風な装いに、ヒナリも嬉しくなってしまった。
「ありがとう、ふたりとも」
髪をアップにするのもまた新鮮で、つい鏡の前で首を振って自分の髪型を眺めてしまう。
これから大勢の人の前で踊らなければならないのに緊張感もなく、ただパーティーというものに初めて出席できるということにわくわくしてしまったのだった。
出発までにはまだ時間があるため居間へと向かうと、賢者たちは普段のソファーの方ではなく円卓の方に着いていた。四人とも燕尾服を着ていて、上着の後ろの長い部分が椅子から垂れ下がっている。
髪もきっちりとセットされていて、想像以上の格好よさにヒナリは開いた口が塞がらなくなった。
「はわ……」
「どうした? ヒナリ」
部屋に踏み込むなり固まったヒナリを見て、アルトゥールが口元を微笑ませる。
ヒナリがその場に立ち尽くしていると、クレイグが眉をひそめた。
「なんです? そんな愛らし……間抜けな表情をして。この格好はそんなにおかしいですか?」
「ううん」
見事に絵になる四人を見て、感激のあまりヒナリは目が潤んでしまった。
「みんな、とっても素敵……!」
「はは。ありがとう、ヒナリ」
ベルトランが王子様めいた高貴な笑みを浮かべる。
「はうっ、眩しいっ」
その目映い笑顔を直視できず、ぎゅっと目を閉じる。
再びおずおずとまぶたを押し上げて、改めて四人の姿を眺める。ずっと眺めていても眺め足りなそうなくらい、賢者たちは見事に正礼装を着こなしていた。
「みんなかっこよすぎて、隣を歩くの気後れしちゃうなあ」
「ヒナリ、君それ本気で言っているの?」
ダリオは不機嫌そうな早口でそう言うと、溜め息をついた。
「君は姿見で自分の姿を見なかったの? 僕らはこれくらいの格好をしないと見目麗しい君とは釣り合わないから、こうして着飾っているんだよ?」
「それは、ありがとう……」
賢者たちがどんな格好をしていようとも釣り合わないなんてことは絶対ない、と思わず言い返したくなる。とはいえ正直にそれを言ったらますますダリオを不機嫌にさせそうな気がしたので、ヒナリは黙っておくことにしたのだった。
「どっちがどっちをやる?」
「普段は僕が女性側なんだから、今日は君が女性側をやってよ」
「了解」
「普段って?」
ふたりの会話が気になったヒナリは、つい口を挟んでしまった。
すかさずベルトランが顔だけを振り向かせて微笑む。
「君が図書館へと出掛けている間、ダリオはダンスの練習をしているんだよ。僕はたまに付き合うくらいだけど」
「そうだったんだ」
ダリオがベルトランの肩越しに顔を覗かせて、ヒナリと目を合わせてきた。
「王家主催の舞踏会があることは昔から決まっていることだったから。僕は夜会をずっと避け続けていたせいで、人前で踊る機会がほとんどなかったから、皆より見劣りしないように多く練習するようにしているんだ」
「なるほど……」
『ダリオは邸宅にこもって何をしているのかな』と若干疑問に思ったこともあったものの、ただのんびり過ごしていたわけではなかったらしい。陰ながら努力していることを知り、ヒナリはダリオに尊敬の念を抱いたのだった。
「さて。音楽なしだけど許してね」
ベルトランとダリオが手を重ねて、構えたところで目を見合せる。
「曲は?」
「それじゃ……花のワルツで」
「いいね」
ダリオの提案に頷いたベルトランが、小声で拍を取り始める。
3カウントを二回唱えた後――すっと小船が水面を漕ぎ出すかのように、ふたり揃って滑らかに踊り出した。
(わ、素敵……!)
淀みなくステップを踏む動きは一糸乱れぬ息の合い方で、まるでふたりの足の間に棒を渡してあるかのような完璧さだった。揃った足音と舞の流麗さに、鳴ってもいない音楽まで聞こえてくる気がした。
不意に繋ぎ合わせた手が掲げられ、女性役のダリオがくるりと体を一回転させる。
再び向かい合わせになった途端、ベルトランがダリオを見下ろして柔らかな笑みを浮かべた。
(素敵……王子様みたい……)
ヒナリが胸をときめかせる一方で、その視線を受けたダリオはというと白けた目付きをして何かを呟き、苦虫を噛み潰すような表情を浮かべた。
その反応を見たベルトランが、宙を仰いで笑い声を上げながらも両腕を伸ばして離れていき、またダリオを引き寄せて受け止める。
特に踊りに集中せずとも自然と体が動くらしい。堂に入った身のこなしに、昔からずっと練習してきたであろうことが伝わってきた。
横並びになったふたりがお辞儀して、ダンスの実演が終了した。
ヒナリはアルトゥールやクレイグと共に手を打ち鳴らすと、感激のままにダリオとベルトランを褒め称えた。
「素敵! ふたりとも本当に上手なんだね! 映画……じゃなくてお芝居のワンシーンを見てるみたいだった! 踊ってみせてくれて本当にありがとう!」
ヒナリの言葉にベルトランが笑顔になる横で、ダリオが肩をすくめた。
「君が喜んでくれたならいいけど。ベルトランが完全に女性に向ける目をしてきたから気色悪かった」
途端にベルトランが「あはは」と腹を抱えて笑い出す。
「ごめんねダリオ、あれってもう習慣になっちゃってるからさ。踊りの動作と表情と、僕の中でセットになってるんだ」
「まあ、分かるけど」
ふたりはばらばらに歩き出すと、ヒナリたちの居るソファーに腰を下ろした。
向かいに座ったベルトランが、先生めいた頼もしげな顔付きでまっすぐに見つめてくる。
「さてヒナリ。これから少しずつ憶えていこうね」
「うん、よろしくお願いします! 頑張ります!」
舞踏会の話を聞いた当初は乗り気ではなかったのに、ベルトランとダリオの華麗なるダンスにすっかり心を奪われてしまったヒナリは、『あんな風に踊れたら素敵だろうな』と強く思い、俄然ダンスの練習に意欲が湧いてきたのだった。
ステップを教えてもらい、足元を見ながら動きを真似る。
やる気が出たせいか、ヒナリはすんなりとダンスの動きを身に着けていった。
(前世で体を動かす習慣はなかったけど、結構楽しいな、これ)
四人と練習に励むうちに、相手の足を思い切り踏みつけて平謝りする回数は減っていき、ダリオやベルトランのバイオリンに乗せて賢者たちと踊る時間はヒナリの毎日の楽しみとなっていった。
そんな中、それまで使っていなかった筋肉を使ったからということなのだろうか、ふくらはぎが筋肉痛になってしまった。
練習後、ソファーに腰を下ろし、足をさすりながら『痛たた……』と呟いた瞬間ダンスホールに緊張が走った。
ヒナリが迂闊な発言を洩らした口を押さえても後の祭り、聖女が痛みを訴えたという事実は思いの外重く受け止められてしまった。賢者たちもメイドたちも皆、悲痛めいた面持ちで、口々に労わりの声を掛けてくる。
『大丈夫だよ』とヒナリが一同に笑みを見せて取り繕っている間にクレイグが自室に戻り、塗り薬を持ってきてくれた。丸く平たい容器を差し出して、説明を始める。
「ヒナリ、こちらは鎮痛消炎薬です。私が調合した魔法薬ではなく市販のものですから、薬効が強く出ることもないでしょう。塗って差し上げますね」
「ありがとう、クレイグ」
クレイグが目の前に膝を突き、恭しくヒナリの靴を脱がせていく。
思い起こせばメイドのふたり以外に裸足にさせられたのは初めてで、ヒナリはそれだけでどきどきしてしまった。
クレイグの太ももの上に足の裏を乗せられて、ジェル状の薬を塗り込まれていく。広い手のひらがふくらはぎをなぞる感触は、くすぐったくもあったが、ミントのような清涼感のある薬は疲れた足にことさら心地よかった。ハーブの香りが鼻に届き、たちまち癒しの時間が訪れる。
「はあ……気持ちいい……」
目を閉じて、溜め息と共に率直な感想をこぼす。ひんやりとした薬が沁み込んでいき、痛む部分に届いているような感覚がした。
すっとする感触から、前世の湿布薬を連想する。貼り付けるタイプのものはあるのかな、などと考えながらふと目を開くと、四人の賢者に凝視されていることに気が付いた。アルトゥールとクレイグは頬を赤らめていて、ベルトランとダリオは口の端を上げた意味深な顔付きになっている。
「みんな、どうしたの?」
「んー? 気持ちよさそうなヒナリ、とても可愛いなと思って」
「えっ!」
ベルトランに言われて初めて、ヒナリは自分が薬を塗られてうっとりとしてしまっていたことを自覚した。
両手で顔を覆ってうなだれる。
「ごめん、変なところを見せちゃって……」
「ううん。もっと見せて欲しいくらいだよ」
「そういうこと言わないでよお……」
手のひらの中に声をこもらせていると、そわそわとした声が聞こえてきた。
「ヒナリ。今度、私にも塗らせてもらえないだろうか」
「!?」
予想外の問い掛けに素早く顔を上げると、アルトゥールの真剣な眼差しが待ち構えていた。しかし頬や耳はさっき見た以上に赤く染まっている。心なしか鼻息も荒い。
「顔を赤くしながら塗られるのは、ちょっとイヤかな……」
「そっ、それは……! そうならないように心掛けると誓うから、私にもその大役を授けてもらえると嬉しい」
「うーん。もしまた痛くなったらね」
アルトゥールの必死さに絆されて、つい了承してしまった。
とはいえはっきりとした筋肉痛を感じたのはこの一度きりで――毎回練習後にアルトゥールが落ち着かない様子で視線を寄越してくるので、ヒナリは『どこも痛くなってないよ!』と言い残してそそくさとダンスホールを出ていくのが恒例となってしまったのだった。
◇◇◆◇◇
舞踏会当日。
「ヒナリ様、よくお似合いです……!」
鏡の中に立つ令嬢を見て、ミュリエルとレイチェルが目を潤ませる。
普段はシンプルなワンピースやローブを着ているだけに、スカート部分にボリュームのあるいかにもお姫様風な装いに、ヒナリも嬉しくなってしまった。
「ありがとう、ふたりとも」
髪をアップにするのもまた新鮮で、つい鏡の前で首を振って自分の髪型を眺めてしまう。
これから大勢の人の前で踊らなければならないのに緊張感もなく、ただパーティーというものに初めて出席できるということにわくわくしてしまったのだった。
出発までにはまだ時間があるため居間へと向かうと、賢者たちは普段のソファーの方ではなく円卓の方に着いていた。四人とも燕尾服を着ていて、上着の後ろの長い部分が椅子から垂れ下がっている。
髪もきっちりとセットされていて、想像以上の格好よさにヒナリは開いた口が塞がらなくなった。
「はわ……」
「どうした? ヒナリ」
部屋に踏み込むなり固まったヒナリを見て、アルトゥールが口元を微笑ませる。
ヒナリがその場に立ち尽くしていると、クレイグが眉をひそめた。
「なんです? そんな愛らし……間抜けな表情をして。この格好はそんなにおかしいですか?」
「ううん」
見事に絵になる四人を見て、感激のあまりヒナリは目が潤んでしまった。
「みんな、とっても素敵……!」
「はは。ありがとう、ヒナリ」
ベルトランが王子様めいた高貴な笑みを浮かべる。
「はうっ、眩しいっ」
その目映い笑顔を直視できず、ぎゅっと目を閉じる。
再びおずおずとまぶたを押し上げて、改めて四人の姿を眺める。ずっと眺めていても眺め足りなそうなくらい、賢者たちは見事に正礼装を着こなしていた。
「みんなかっこよすぎて、隣を歩くの気後れしちゃうなあ」
「ヒナリ、君それ本気で言っているの?」
ダリオは不機嫌そうな早口でそう言うと、溜め息をついた。
「君は姿見で自分の姿を見なかったの? 僕らはこれくらいの格好をしないと見目麗しい君とは釣り合わないから、こうして着飾っているんだよ?」
「それは、ありがとう……」
賢者たちがどんな格好をしていようとも釣り合わないなんてことは絶対ない、と思わず言い返したくなる。とはいえ正直にそれを言ったらますますダリオを不機嫌にさせそうな気がしたので、ヒナリは黙っておくことにしたのだった。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる