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第5話
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テレシュナは、拒絶を口にした勢いのままに、淫魔の背中をぐいぐいと押した。
「ちょ、魔女さん、なんでそんなムキに……」
「呼び出しておいて勝手ですけど、今すぐお引き取りください! こんな私なんかの召喚に応じてくださってありがとうございました!」
淫魔を魔法陣の中央に立たせて、腕を引いて無理やりしゃがませる。
床に沈みこませるように肩を押して全体重を掛けた途端、魔法陣が再び輝き出した。
光の中に、淫魔の体が沈んでいく。
「ちょ、マジ!? こんな帰し方アリかよ!」
「本当にごめんなさい淫魔さん! 何もさせてあげないまま魔界に帰しちゃって!」
ずぶずぶと、光の中に淫魔が埋まっていく。
淫魔が水に溺れたかのようにもがきだし、テレシュナの足をつかもうとする。テレシュナが一歩下がってそれを避けると、淫魔は必死な形相をして叫び始めた。
「待ってくれよ! まだ帰りたくねえ! 俺、冗談抜きであんたに惚れたんだ! ひとめ惚れってやつ! あんた、ホントに……」
「……さよなら!」
テレシュナが声を被せた瞬間、淫魔がふっと消え失せた。
静まり返った部屋。
激しい心臓の音が、ひっきりなしに鼓膜を叩く。
「はあ、はあ……。ぶっつけ本番だったけど、うまく行ってよかったです……」
召喚した使い魔を即座に帰還させるなどという、そんな横暴なふるまいをする魔女などほとんどいない。とはいえ前例が全くないわけではなかった。
様々な魔法書を読んだことがあるテレシュナは、強制的に使い魔を魔法陣に押し込む方法を知っていたのだった。
どっと疲れを感じて、その場にへたり込む。
台の上にいたドラヒポが、パタパタと羽を羽ばたかせながら近づいてきて、ぴったりと寄り添ってきた。
「ご主人さま、本当に良かったの? せっかく最上級の使い魔を呼び出せたのに。悪魔を呼び出す実力があるって示せたら、行商人だって、あのいじわる魔女だって、もうご主人さまに舐めた口を利かなくなると思うよ」
「いいんですよ。実力で呼び出せたわけじゃないんですし。元はと言えば、行商人さんが間違えて別のハーブを渡してきたおかげなんですから。偶然呼び出せた使い魔を従えたところで、こんなよわよわな魔女、きっと悪魔さんの方から『仕える価値なし!』なんて言って、怒って帰っちゃうかも知れません」
「使い魔は、召喚主に対してそんな失礼なことしないよう」
「ふふ。そうでしたね。でも、さっきのような破天荒な悪魔さんなら、もしかしたら……」
と言いかけたところで、突如としてぶわっと魔力の流れに襲われた。
自分以外の魔法の感覚に、危機感を覚える。
「え、な、なに……?」
きょろきょろと辺りを見回した途端、魔法陣が光り始めた。
「どうして……? ひいっ」
光源を見下ろすやいなや、魔法陣の中央から腕が一本生えてきた。
宙を探る腕が、あっさりとテレシュナの足首をとらえる。
「きゃっ!? わああああ!」
「ご主人さまー!」
ドラヒポの叫び声が聞こえた瞬間、テレシュナは魔法陣の中に引きずり込まれていた。
「ちょ、魔女さん、なんでそんなムキに……」
「呼び出しておいて勝手ですけど、今すぐお引き取りください! こんな私なんかの召喚に応じてくださってありがとうございました!」
淫魔を魔法陣の中央に立たせて、腕を引いて無理やりしゃがませる。
床に沈みこませるように肩を押して全体重を掛けた途端、魔法陣が再び輝き出した。
光の中に、淫魔の体が沈んでいく。
「ちょ、マジ!? こんな帰し方アリかよ!」
「本当にごめんなさい淫魔さん! 何もさせてあげないまま魔界に帰しちゃって!」
ずぶずぶと、光の中に淫魔が埋まっていく。
淫魔が水に溺れたかのようにもがきだし、テレシュナの足をつかもうとする。テレシュナが一歩下がってそれを避けると、淫魔は必死な形相をして叫び始めた。
「待ってくれよ! まだ帰りたくねえ! 俺、冗談抜きであんたに惚れたんだ! ひとめ惚れってやつ! あんた、ホントに……」
「……さよなら!」
テレシュナが声を被せた瞬間、淫魔がふっと消え失せた。
静まり返った部屋。
激しい心臓の音が、ひっきりなしに鼓膜を叩く。
「はあ、はあ……。ぶっつけ本番だったけど、うまく行ってよかったです……」
召喚した使い魔を即座に帰還させるなどという、そんな横暴なふるまいをする魔女などほとんどいない。とはいえ前例が全くないわけではなかった。
様々な魔法書を読んだことがあるテレシュナは、強制的に使い魔を魔法陣に押し込む方法を知っていたのだった。
どっと疲れを感じて、その場にへたり込む。
台の上にいたドラヒポが、パタパタと羽を羽ばたかせながら近づいてきて、ぴったりと寄り添ってきた。
「ご主人さま、本当に良かったの? せっかく最上級の使い魔を呼び出せたのに。悪魔を呼び出す実力があるって示せたら、行商人だって、あのいじわる魔女だって、もうご主人さまに舐めた口を利かなくなると思うよ」
「いいんですよ。実力で呼び出せたわけじゃないんですし。元はと言えば、行商人さんが間違えて別のハーブを渡してきたおかげなんですから。偶然呼び出せた使い魔を従えたところで、こんなよわよわな魔女、きっと悪魔さんの方から『仕える価値なし!』なんて言って、怒って帰っちゃうかも知れません」
「使い魔は、召喚主に対してそんな失礼なことしないよう」
「ふふ。そうでしたね。でも、さっきのような破天荒な悪魔さんなら、もしかしたら……」
と言いかけたところで、突如としてぶわっと魔力の流れに襲われた。
自分以外の魔法の感覚に、危機感を覚える。
「え、な、なに……?」
きょろきょろと辺りを見回した途端、魔法陣が光り始めた。
「どうして……? ひいっ」
光源を見下ろすやいなや、魔法陣の中央から腕が一本生えてきた。
宙を探る腕が、あっさりとテレシュナの足首をとらえる。
「きゃっ!? わああああ!」
「ご主人さまー!」
ドラヒポの叫び声が聞こえた瞬間、テレシュナは魔法陣の中に引きずり込まれていた。
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