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2 少しずつ感じられる成長
7 デビュタントの夜会
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そして迎えたマルティナのデビュタントの夜会の日。
間に合わせの既製品とはいえ、ドレスの問題は解決し、エリックから髪型や化粧についてレクチャーを受けた。リリアンにも手伝ってもらって、なんとか形になり、準備は整った。
エスコートの心配をしていたら、従弟のマシューが申し出てくれていた。
叔父達と鉢合わせしたくない父と母は、リリアンを連れて、先に別の馬車で王宮へ向かっていた。姉も早々に婚約者が迎えに来たので不在だ。
邸に一人取り残されたマルティナは、だんだんとマシューが迎えに来てくれるのか不安になってくる。
「お待たせ、マルティナ。今日は一段と綺麗だね。いつものドレスより似合ってる」
母が適当に選んだドレスなの、なんて言えなくて、曖昧な笑みを浮かべる。マシューはオーダーしたのであろう、体形にあった張りのある生地の正装姿だ。
「マシューも凛々しいわね。エスコートを引き受けてくれてありがとう」
「マルティナのデビュタントの夜会でエスコートできるなんて光栄だよ」
いつもの柔らかい調子のマシューに緊張していたマルティナは少し和んだ。
「父上、また厳めしい顔して。マルティナが緊張しちゃうじゃないですか……」
馬車は叔父と叔母と一緒で、向かい合って座るも、誰も言葉を発さず、叔父と叔母の顔も険しい。マシューのいつもの軽口に、叔父はため息をついた。
「………子どもに罪はないのだがな………」
ぽつりとこぼされた叔父の言葉は、マシューには聞こえなかったようだが、マルティナの無駄によい耳は拾ってしまった。マルティナの胃がキリキリする。
今回のエスコートは、マシューの善意であって、叔父や叔母は不本意なのだわ……
マルティナがスコールズ伯爵家にいることで、色々な人に不快な思いをさせてしまう。
いっそのこと貴族なんて辞めてしまいたい……
そんなマルティナの思いを無視するかのように、馬車は王宮につき、貼りつけた笑顔のまま、マシューにエスコートを受け、両陛下に挨拶し、ファーストダンスをマシューと踊る。
母親に『マナーがなっていないから、茶会には恥ずかしくて連れていけない』と言われたけど、きちんとマルティナにも淑女教育が染み込んでいるようで、全てはつつがなく進んでいった。
マルティナは煌びやかな王宮の夜会で、いるはずもない人を捜してしまう。
でも、黒髪で、獅子のように堂々とした佇まいの彼はどこにもいない。最近、ふとした瞬間に、彼を探してしまう。
「心ここにあらずだね。マルティナは誰を探しているのかな? いつも一緒にいる留学生の彼かな?」
「ごめんなさい……せっかく、マシューがエスコートしてくれているのに……」
踊り終わって、会場の隅で、マシューとドリンクで喉を潤していると、マシューの茶色の目がマルティナを覗き込んでいた。
「ねぇ、マルティナ、僕はマルティナが好きだよ」
「えっ、マシュー…? 何を突然?」
いつも茶目っ気たっぷりのマシューの思いのほか真剣な瞳に、マルティナは背筋が伸びる。
「本気………なのよね?」
「うん。小さい頃からマルティナが好きだった。まだ、両親を説得できていないから正式に婚約を申し込めていないけど、他の令嬢からの僕への婚約の打診は断ってもらってる。
ねぇ、留学生の彼は卒業したら、国に帰ってしまうだろ? 今は彼の事を好きでもいいから、僕とのこと考えてくれない?」
「………マシュー、あの……」
「今は返事は聞かないよ。僕も両親を納得させて、堂々と求婚しにいくから、マルティナも僕のこと真剣に考えてみてほしいんだ。マルティナが卒業した後の選択肢の一つとして考えてみて」
「………」
思わぬマシューの告白に、マルティナは頭が真っ白になる。兄妹のように、友達のように思っていたけど、結婚相手として思われているなんて、思ったこともなかった。
貴族令嬢として、父に命じられたら、どこかへ嫁ぐ覚悟はしていた。しかし、父も母もマルティナの将来など少しも考えていなくて、婚約者すらいない。卒業後は、なんとか家から離れられたらという淡い希望はあるものの、結婚について、考えたことすらなかった。
いや、結婚について考えたことはある。いつもそうなるといいなと想像する相手は黒髪で黒い瞳のたくましい彼。いつも強引で、でもマルティナのことを一番に考えてくれて、優しい人。それは叶わない淡い願いであり妄想。そんなことマシューに言われなくてもわかっている。
そして、改めて、ブラッドリーが卒業したら国に帰ってしまう事実を突きつけられて、暗い気持ちになる。
いつの間にかマシューから求婚された困惑はどこかへと流れ、頭の中はブラッドリーでいっぱいになってしまう。
「さ、せっかく王宮に来たんだから、おいしいものを食べていこう」
気まずい空気を払拭するように、軽食のゾーンへエスコートしてくれるマシューに従う。
こうして、上の空のうちに、マルティナのデビュタントの夜会は幕を閉じた。
間に合わせの既製品とはいえ、ドレスの問題は解決し、エリックから髪型や化粧についてレクチャーを受けた。リリアンにも手伝ってもらって、なんとか形になり、準備は整った。
エスコートの心配をしていたら、従弟のマシューが申し出てくれていた。
叔父達と鉢合わせしたくない父と母は、リリアンを連れて、先に別の馬車で王宮へ向かっていた。姉も早々に婚約者が迎えに来たので不在だ。
邸に一人取り残されたマルティナは、だんだんとマシューが迎えに来てくれるのか不安になってくる。
「お待たせ、マルティナ。今日は一段と綺麗だね。いつものドレスより似合ってる」
母が適当に選んだドレスなの、なんて言えなくて、曖昧な笑みを浮かべる。マシューはオーダーしたのであろう、体形にあった張りのある生地の正装姿だ。
「マシューも凛々しいわね。エスコートを引き受けてくれてありがとう」
「マルティナのデビュタントの夜会でエスコートできるなんて光栄だよ」
いつもの柔らかい調子のマシューに緊張していたマルティナは少し和んだ。
「父上、また厳めしい顔して。マルティナが緊張しちゃうじゃないですか……」
馬車は叔父と叔母と一緒で、向かい合って座るも、誰も言葉を発さず、叔父と叔母の顔も険しい。マシューのいつもの軽口に、叔父はため息をついた。
「………子どもに罪はないのだがな………」
ぽつりとこぼされた叔父の言葉は、マシューには聞こえなかったようだが、マルティナの無駄によい耳は拾ってしまった。マルティナの胃がキリキリする。
今回のエスコートは、マシューの善意であって、叔父や叔母は不本意なのだわ……
マルティナがスコールズ伯爵家にいることで、色々な人に不快な思いをさせてしまう。
いっそのこと貴族なんて辞めてしまいたい……
そんなマルティナの思いを無視するかのように、馬車は王宮につき、貼りつけた笑顔のまま、マシューにエスコートを受け、両陛下に挨拶し、ファーストダンスをマシューと踊る。
母親に『マナーがなっていないから、茶会には恥ずかしくて連れていけない』と言われたけど、きちんとマルティナにも淑女教育が染み込んでいるようで、全てはつつがなく進んでいった。
マルティナは煌びやかな王宮の夜会で、いるはずもない人を捜してしまう。
でも、黒髪で、獅子のように堂々とした佇まいの彼はどこにもいない。最近、ふとした瞬間に、彼を探してしまう。
「心ここにあらずだね。マルティナは誰を探しているのかな? いつも一緒にいる留学生の彼かな?」
「ごめんなさい……せっかく、マシューがエスコートしてくれているのに……」
踊り終わって、会場の隅で、マシューとドリンクで喉を潤していると、マシューの茶色の目がマルティナを覗き込んでいた。
「ねぇ、マルティナ、僕はマルティナが好きだよ」
「えっ、マシュー…? 何を突然?」
いつも茶目っ気たっぷりのマシューの思いのほか真剣な瞳に、マルティナは背筋が伸びる。
「本気………なのよね?」
「うん。小さい頃からマルティナが好きだった。まだ、両親を説得できていないから正式に婚約を申し込めていないけど、他の令嬢からの僕への婚約の打診は断ってもらってる。
ねぇ、留学生の彼は卒業したら、国に帰ってしまうだろ? 今は彼の事を好きでもいいから、僕とのこと考えてくれない?」
「………マシュー、あの……」
「今は返事は聞かないよ。僕も両親を納得させて、堂々と求婚しにいくから、マルティナも僕のこと真剣に考えてみてほしいんだ。マルティナが卒業した後の選択肢の一つとして考えてみて」
「………」
思わぬマシューの告白に、マルティナは頭が真っ白になる。兄妹のように、友達のように思っていたけど、結婚相手として思われているなんて、思ったこともなかった。
貴族令嬢として、父に命じられたら、どこかへ嫁ぐ覚悟はしていた。しかし、父も母もマルティナの将来など少しも考えていなくて、婚約者すらいない。卒業後は、なんとか家から離れられたらという淡い希望はあるものの、結婚について、考えたことすらなかった。
いや、結婚について考えたことはある。いつもそうなるといいなと想像する相手は黒髪で黒い瞳のたくましい彼。いつも強引で、でもマルティナのことを一番に考えてくれて、優しい人。それは叶わない淡い願いであり妄想。そんなことマシューに言われなくてもわかっている。
そして、改めて、ブラッドリーが卒業したら国に帰ってしまう事実を突きつけられて、暗い気持ちになる。
いつの間にかマシューから求婚された困惑はどこかへと流れ、頭の中はブラッドリーでいっぱいになってしまう。
「さ、せっかく王宮に来たんだから、おいしいものを食べていこう」
気まずい空気を払拭するように、軽食のゾーンへエスコートしてくれるマシューに従う。
こうして、上の空のうちに、マルティナのデビュタントの夜会は幕を閉じた。
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