【完結】その手を放してください~イケメンの幼馴染だからって、恋に落ちるとはかぎらない~

紺青

文字の大きさ
2 / 35

1 乱暴な幼馴染

しおりを挟む
 ルナの住む辺境の村は、自然豊かで恵まれた環境にあり、人々は平和で豊かな生活を享受していた。

 豊かな生活が送れる理由の一つに、辺境の村と隣国との境にある魔の森があげられる。魔の森は薄暗く、瘴気が濃くて人は住めない上に魔物が発生する。しかし、魔の森があるおかげで、隣国が攻め入る脅威はなく、魔獣討伐に定期的に冒険者達がやってくるので、人の交流があり、賑やかだ。冒険者向けの宿屋や装備などを扱う店も繁盛している。

 魔の森に隣接しているといっても、魔の森と村の間に、緑豊かな森があり、その森が緩衝地帯となっている。そのおかげで、村に住んでいても、あまり魔の森の存在を感じさせない。

 村は緑豊かで、水源にも恵まれ、気候も温暖。農産も畜産も盛んであり、この村独特の刺繍が、王国の一部に人気があり、食べ物、産業、環境に恵まれて、辺境とは思えないほど、人々は豊かに平和に暮らしている。

 ただ、ルナは自然豊かで恵まれているこの地で、ゆったりと呼吸できたためしがない。いつだって、息を殺して、身を縮めて、気持ちを押しこめて生きてきた。この村では珍しい色彩の髪や瞳、肌の色をしているからという理由だけで。黒や茶などの濃い色の髪や瞳、褐色の肌が主流のこの村で、銀髪紫瞳、白い肌のルナは異色の存在だった。

 そんな辺境の村のダレンとルナは同じ年に生まれたということを除けば、なにも共通点はなく全てが正反対だった。

 ダレンは金持ちで、体格も良く、顔立ちも良かった。いつも自信にあふれ、人懐こくみんなの人気者だ。一方のルナは貧しく、身体は棒っきれのように細く、村人と異なる色の髪と瞳をもち、内気で陰気で、友達の一人もいなかった。

 なぜ、こんなに違うのに、ただ隣の家に住んでいる幼馴染だからといってダレンがルナにかまうのか、未だにルナにはわからない。

 小さな頃を思い出すと、ルナの心臓は恐怖と痛みできゅっと縮まる。

 豊かな村とはいえ、貧富の差はある。ダレンの家は、畜産業を生業としていて、商人とも交流があり豊かだった。ルナの家は、家の周りの畑を細々と耕してなんとかしのいでいる貧しい家だった。

 食べているものが体格にも影響を与えるのか、生来のものか、ダレンは小さな頃から、同世代の子どもより体格が大きかった。大柄な上、兄が二人いるため、やんちゃな少年だった。日がな一日、外で走り回っている子どもだった。

 一方のルナは、小柄で細身で、村人から疎まれていることもあり、家で静かに過ごすのが好きだった。
 なのに、ダレンは無理やり、ルナの手を引き外へ連れ出す。

 ダレンと一緒に遊ぶのは小さな頃のルナにとって恐怖だった。
 知らない場所にぽつんと置き去りにされるのは、いつものことだし。
 川で溺れたり、木から降りれなくなったり、崖から落ちたり。

 ダレンと二人でも最悪だけど、ダレンの兄達や友達がいる時には、小石を投げられたり、髪をひっぱられたりした。
 ダレンは、ルナが窮地に陥っているのをニヤニヤと眺めていた。痛みや恐怖のなかにあっても、その表情は印象深く目に焼き付いている。

 夕方頃になって、やっとルナを探しにきたり、助けにきたり、怪我の手当をしたりして、『俺のおかげでルナは助かったな』と満足げにしていた。

 時に大きな怪我をすることもあったけど、怪我をするとしばらくは家で安静にできるので、ほっとしたぐらいだ。

 ルナは黒や茶など濃い色の髪や瞳に褐色の肌が主流の辺境の村に生まれたのに、銀髪、紫目に、白い肌をしていて、村人と違った色素をしていた。そのため、村人からは、『捨てられ子』だとか『取り違え子』だとか、遠巻きにされ嫌悪されていた。

 村人達にならって、実の両親はルナをいないものとして扱っている。ごはんはもらえるし、寝床もある。ただ、弟や妹にするみたいに、抱きしめたり、話しかけたりしないだけだ。

 だから、両親は目障りなルナを家から連れ出し、村の子ども達との橋渡しをしてくれるダレンに感謝こそすれ、叱ったりしない。

 どれだけルナが怖くても。
 どれだけルナが痛くても。

 両親は何も気にしない。怪我をしたって、『ルナの注意が足りない』『ダレンが手当をしてくれてありがたい』『ダレンがいなかったら、もっとひどいことになっていた』と叱責された。
 例え、ルナが死んだとしても、なにも思わないだろう。むしろ、ほっとするのだと思う。

 子ども心にも、ダレンがなぜか“ルナはダレンが好きだ”と思っていることがわかった。そしてそのことが不思議でならない。

 いくら格好良くても、みんなにとってはヒーローだとしても、なんで自分に意地悪して、嫌な事ばかり言ってくる人を好きになると思っているのだろうか?
 ルナはダレンが大嫌いだし、苦手だ。そのことが伝わらないことも不思議で仕方ない。

 そして、幼馴染であるというだけで、かまってくるダレンから逃げたくて仕方なかった。けれど、周りから圧倒的な信頼を得ていて、親切を装って近づいてくるダレンから距離を置くことはできなかった。

 どうにもできないことはわかっているけど、毎晩、布団に入ると涙がこぼれてくる。

 『ダレンのいない、どこかへ行きたい』
 『私を必要としてくれる人のいる場所へ行きたい』

 無理だとわかっている。そんな場所ありはしないとわかっている。それでも、寝る前になると、心の底から思いが湧き出てきて、止まらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夢を現実にしないための正しいマニュアル

しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。 現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事? 処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。 婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】好きになったら命懸けです。どうか私をお嫁さんにして下さいませ〜!

金峯蓮華
恋愛
 公爵令嬢のシャーロットはデビュタントの日に一目惚れをしてしまった。  あの方は誰なんだろう? 私、あの方と結婚したい!   理想ドンピシャのあの方と結婚したい。    無鉄砲な天然美少女シャーロットの恋のお話。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

男女の友人関係は成立する?……無理です。

しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。 ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。 ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。 それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。 その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。

前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます

由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。 だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。 そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。 二度目の人生。 沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。 ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。 「今世は静かに生きられればそれでいい」 そう思っていたのに―― 奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。 さらにある日。 皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。 「沈薬は俺の妃だった」 だが沈薬は微笑んで言う。 「殿下、私は静王妃です」 今の関係は―― 皇叔母様。 前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。 それを静かに守る静王。 宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。

処理中です...