世界を護る叛逆者

絢崎大輔

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第一章 始動編

襲撃3

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 いつきは二人に連絡をした後、直ぐに指令室から飛び出して現場に向かった。
 周辺の状況を確認しながら慎重ながらも素早く移動していた。
 そして結晶がある場所に辿り着いたがやはり、結晶は破壊されていた。

「あれっ、また誰かが来た。さっきの人たちよりも強そうな感じだ」

 声がする方を向くと、破壊された結晶の影から一人の少女が出て来た。
 いつきは出て来た少女を見た瞬間、勝てないと確信した。
 いつきは相手のオーラを診て実力を測ることが出来る。オーラが強ければ強いほど高い実力の持ち主だ。
 実際、いつきも高いオーラを纏っている。今まで自分より強いオーラを持った人を見たことがない。
 だが、例外もある。
 いつも一緒にいる燐や楓、そして他の守護者達は自らの意思でオーラを完全に消すことが出来る。
 そんなことが出来る人物は、いつきが会ってきた人物の中で数えることが出来るほどしか居なかったし、居ると思ってもいなかった。
 それ故に、2人が来るまでどれだけの時間を稼ぐことが出来るかを考えた。

「どうしたの?来たのに来ないならこっちから行くよ」

 そう言った瞬間目の前から少女が消えた。
 しかし、消えたと思ったらいつきは吹き飛ばされていた。

「ちょっと、防御しなきゃ。すぐに終わっちゃうじゃん」

 ダメージは無い。
 何かをされたであろうお腹の辺りの感じからすると、霊力が乗っていないただの蹴りだった。
 ただ、いつきには攻撃が見えなかった。
 それが事実だ。
 このままでは一方的に殴られ、蹴られ続けるだけだろう。
 その為、ようやく決心もついた。
 いつきは小声で、

「あの2人が来るまで頑張るか」

 そう呟きいた。そして、

「久しぶりに力を貸してください。霊装『麒麟きりん』」
 
 麒麟は最上位星霊の一体である。いつきは、世界でもごく稀な最上位星霊との契約者でもあった。
 そしていつきは、全身を白で統一された霊装を身に纏った。
 その霊装を見た瞬間、少女も霊装を完了させていた。
 
「手加減できないから覚悟してね」
「大丈夫、負ける気なんて全然しないしね」

 いつきはその言葉に少しカチンときた。
 そして、霊力を一瞬で練り上げ魔法を呟いた。

「じゃあ意地でも勝ってやるわよ。『光雷無縫こうらいむほう』」

 いつきは音も無く消えた。
 そして、けたたましい轟音と共に相手に蹴りを入れていた。
 だが、完全に片腕で止められた。
 その後、何度も繰り返し隙ができない様に攻撃を入れ続けていた。
 だが、やはり全て止められていた。

「こんなものなの?少し期待したけどもういいや。時間も無いしこれで終わらすね」

 その言葉と同時に右手の周囲が歪む程の霊力の収束を感じた。
 そして、懐に飛び込むと全力のパンチを繰り出した。
 いつきも最初とは違い、敵の行動が目で追えていた為シールドを貼り、両腕でガードをしながら後ろに飛んで衝撃を吸収するつもりだった。
 しかし、そのまま後ろに吹き飛ばされて背後にある壁に強く叩き付けられた。
 今回のパンチには霊力が乗っていた為、ダメージは抑えられたが全身が痺れて動けなかった。

「ん?、まあいっか」

 いつきは声を出したくても出せず、少女もいつきの方を振り向くこともなく黒い霧の中に消えていった。
 少ししてから全身の痺れが取れ動ける様になった。
 そして、いつきは全力で地面を殴った。
 地面はいつきを中心に大きく円を描く様に陥没していた。
 普段のいつきは怒りの感情など出すことはない。
 むしろ、いつも通り振る舞うのが彼女だった。
 しかし、今回の出来事は彼女にとって耐え難い屈辱であり今までに味わった事がない敗北だった。

「彼女に歯が立たなかった。クソッ、こんなんじゃあの2人にはまだまだ追いついていない。もっと、もっと力が欲しい」

 悔しさを言葉にだし、涙を流しきりいつきは前を向いた。
 次、彼女に相対した時にリベンジする為に。
 そして、今は目の前の事を処理することにした。
 状況を整理していると燐と楓が合流した。

「早速情報交換しましょう」

 三人は合流してすぐに司令室になっているテントに向かった。



「なるほど。全員が会った奴らは前の奴の仲間ってわけか」
「恐らくね。何処かに移動する時もあの時の人と同じだった」
「それと目的は果たせたと言っていた。って事はこれから何かが起きると考えて間違いは無いだろうけど」
「場所がわからないと手の付けようが無いわね」
「じゃあ何かが起こればすぐに連絡する事」
「「了解」」

 そこで今日は解散することになった。
 いつきも帰ろうとした時、楓に呼び止められた。

「いつきさん、大丈夫ですか?」

 その言葉にいつきは目を丸くして驚いた。
 悩みなど完璧に隠していると思っていた。
 だが、それを長い間一緒に行動する事も多かった楓に初めてバレてしまった。それ程わかりやすくなっていた。

「大丈夫ですよ。今日はバタバタとして疲れているだけなので心配はご無用です」
「そうですか、ではお疲れ様です」

 そう言って燐と楓は帰った。

「今日は私も帰りますか」

 そう呟いていつきも帰路についた。



 某所

「それで、どうなりましたか?」

 フードを被った女性はアインスに質問した。

「しっかり破壊してきましたよ。あと、片割れと戦ってきました。中々面白かっだですよ」

 アインスは笑って答えた。

「笑い事では無いですよ。意外と面倒くさかったんですから。まあ、少し楽しめた事は否定しませんけど」

 ため息混じりにゼロは答えた。
 そして、2人は左側に目を向けた。
 そこには荒れ狂う者が居た。

「くそっ、あの女。次は潰してやる」

 壁や地面を殴り、柱を蹴りストレスを発散していた。
 2人は深いため息を吐いた。

「ところであのバカは何があったんですか?」
「ほら、あれですよ」

 指を刺す方に目を向けると、腕に怪我をしていた。
ここ最近、誰かと戦って怪我をしている所を見た事がなかった。

「なるほど、荒れますね」
「ところで全て破壊できたんですか?」
「ええ、当初からの目的は達成しました。あとは見守るだけです」

 ふふっと朗らかに微笑みながら、これから起こる事を楽しみにしていた。

「どんな結果になるでしょうか」
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