こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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5.溺愛されることになれていません

5-3

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「もう帰れよ」

 さすがに鬱陶しくなってきたので、俺はクソ兄貴に帰宅を促した。

「えーー、冷たい!」

「うぜぇ」

 文句を言う洸をなんとか玄関の外まで追い払うことに成功する。

「響」

「何だよ」

「お前のサイズって、標準か?」

 真面目な顔で、クソ兄貴が俺に問う。

「は?」

 サイズって何だよ。見れば分かるだろ。

 もしかして、服でも買ってくれるのだろうか。

「……身長は平均だ」

 痩せ型なので、体格的には薄っぺらいのだが。

「そっちじゃない」

 じゃあ、どっちだよ。他に何のサイズがあるというのだ。

「いや、意味分かんな……」

 ん? ちょっと待って。もしかしてこいつ、あっちの話してるのか? 

 いや、さすがにクソ兄貴でもそんなアホなことは……。俺は、まさかと思いながら確認してみた。

「もしかして、下半身のこと言ってる?」

「そうだ」

「マジで早く帰れよ」

 今すぐ消えて欲しい。俺は玄関の扉を閉めようとしたが、洸が抵抗する。結果、扉がガタガタと音を立てる。

「大事なことだぞ」

「どこがだよ……!」

「そこそこの大きさがないとダメだ。嫌われるぞ」

「え?」 

 思わず、固まってしまった。その発想はなかった。き、嫌われる……?

「俺は、女の子としか付き合ったことはないけどな。たぶん、相手が男でも同じだ。必ずしも巨根である必要はない。そこそこあればいい。というか、標準であればとりあえずはセーフだ」

 洸の顔は真剣そのものだった。

 もしかして、真面目にアドバイスしているつもりなんだろうか。そんなアドバイスをされても、大きさなんて自分でどうこうできる問題ではないのだが。しかし、サイズか……。

「響、聞いてるのか?」

 名前を呼ばれて、我に返った。

「つまりな、巨根じゃなくても」

「玄関で『巨根』を連呼するなよ……!」

 他の住人には絶対に聞かれたくない。

 押し合いの末、俺はなんとか扉を閉めることに成功した。

 しばらくは外で何か言っていたが、俺が「帰れ」と一喝したら大人しくなった。外階段を下りる靴音が聞こえたので、ホッと胸を撫でおろす。

 はた迷惑な兄貴め……!

 忌々しく思いながら、俺は二人分のグラスを洗った。ついでにキッチンをピカピカに磨き上げる。イライラしたときは掃除をすると良い。気分爽快になるのだ。

 一通り綺麗にして、俺は満足した。タオルで手を拭きながら、課題でもやろうかと考える。そのとき、ふいにクソ兄貴の声がよみがえった。

『そこそこの大きさがないとダメだ。嫌われるぞ』

 ……ふん。何が嫌われるだよ。

 玖堂は、そんなヤツじゃない。大きさとかそんなものは関係ない。うん。関係ない……と、思う。

 いや、どうなんだろう。クソ兄貴は経験だけはあるし。でもでも。男女の差があるし。いや、う~~ん。これは、かなり悩ましい問題だ……。

 はっ!! そうだ!! 

 とりあえず大きさを測ろう……!!

 標準サイズだったらセーフだと洸は言っていた。必ずしも巨根である必要はないとも言っていたじゃないか!!

 計測した結果、自分のサイズが標準値をクリアしていたら良いのだ。

 そうすれば、もう悩む必要はない。

 俺はスマートフォンで標準値を検索した。

「なるほど、これが標準サイズか……」

 インターネットが弾き出した数字を俺は真剣な眼差しで見つめた。こんなに真面目に数字の羅列を見るのは、勉強以外ではあり得ない。

 次に、俺は勉強机の引き出しを開けた。定規を取り出し、震える声で「よし……!」と気合を入れる。

 ……いや、ちょっと待って。長さって、通常時で良いんだろうか?

 分からん。由々しき事態だ。

 再びインターネットで検索する。検索しまくった結果、通常時で良いという答えが導き出されたので計測を続ける。

 巨根は諦めるにしても、せめて平均よりは大きくあって欲しい。

「……ん? え、嘘だろ」

 目を凝らす。何度も確認したが、間違いない。

「ダメだ、小さい……!」

 微妙に平均値には届かない。俺は膝から崩れ落ちた。

 定規を右手に持ちながら、床に這いつくばって頭を抱える。

 俺は、玖堂に嫌われてしまうのか……!?

 そんなはずはないと思いながら、沈んでいく気持ちを奮い立たせることは出来なかった。

 俺は半泣きになりながら、計測に使用した定規を消毒した。そして引き出しの中に仕舞う。もちろん課題をやる気分にはなれず、ひらすらめそめそしていたらスマートフォンが震えた。

 玖堂からのメッセージだった。

『バイト終わったよ~~』

 呑気な玖堂の顔が浮かぶ。

 一瞬、ほんわかと癒されそうになったが、イヤな数字の羅列がそれを邪魔をする。思い出したくもない。俺の計測値。平均を上回れない俺のサイズ……! 

 どんよりした気分で、俺は『おつかれさま』と返信した。

 そして、ベッドに倒れ込む。

 カーテンの隙間から、夏の日差しが差し込んでくる。今日は晴天だった。

 世界は光に満ちている。俺は、こんなにも暗い気持ちを抱えているのに。

 再び、スマートフォンが震える。

『どこか遊びにいかない?』

 玖堂からのメッセージを見て、少しだけ気分が浮上する。

 仰向けのまま、俺は返信した。

『どこかってどこ?』

『遠く!』

 それって、日帰り旅行的なことか……? 

 まさに、今の俺は遠くに行きたい気分だった。現実逃避というか。

『宮下は、行きたい場所とかない?』

 スマートフォンの画面を見ながら、俺は悩んだ。

 夏といえば花火とかプールだが、正直なことをいうと俺は暑さに弱い。

 体育祭のとき、日陰で休憩していたのはそのためだ。できれば、屋内イベントがあれば良いのだが……。

 玖堂に『屋内が希望だ』と伝えてみた。すると、すぐさま『水族館は?』と返ってきた。

 水族館……!!

 それは、かなり良い。屋内だし、なんかいかにもデートっぽい!

 もちろん了承した。そして、日程の調整に入る。俺は塾の夏期集中講座に申し込んでいる。玖堂も怒涛の鬼連勤なシフトを組まれているらしい。

 お互いの予定をすり合わせた結果、水族館に行けるのは一週間後だと分かった。
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