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序章.始まりの前奏曲
11.着いた先
帰ろうとしたのに馬車の扉が閉じられてしまった。
「あっ…あの」
「数々の無礼を働きながらも夫を助けてくださり感謝いたします。できますればお礼をさせていただけませんか?」
「いえ、お礼など」
お礼をしてもらう必要もないので丁重にお断りする。
「人を助けるのに理由がありません。俺‥私がしたくてしたのです。自己満足にすぎません」
「まぁ、御者が散々無礼を働きながらなんて寛大なのでしょう」
いや、御者からすれば当然の対応かもしれない。
よく見るとこの馬車は貴族が使う馬車で家紋が入っている。
そうなれば俺は貴族に無礼を働いたことになる。
「私も数々の無礼を働きました。どうかお許しを…」
貴族としての礼を欠いてしまった俺は深くお詫びをすると、女性は咎めることもなかった。
「せめて我が屋敷にきていただけませんか?」
「え?」
「お恥ずかしながら、主人が心配でして。できましたら診ていただきたく」
それなら医師や薬師に見てもらう方がいいんじゃないか?
「どうかお願いいたします」
「解りました」
泣きそうな表情で訴えられたら断るに断れないじゃないか。
俺は女性の涙には弱いんだ。
まぁ、誰でも問わずというわけじゃないけど。
「お名前をお教えくださいますか」
「はい、エリオル・ラスカルと申します」
「私はテレシア・ベルクハイツと申します」
綺麗な所作に目が奪われる。
お母様の所作に負けていない程の美しさだった。
いやいや、ここでマザコンを出してどうする俺。
でも本当に綺麗な人だな。
「では参りましょう。ブルス」
「はい、奥様」
素早く御者が馬車を動かし、俺は知らない人に着いて行くことになってしまった。
程なくして向かった先は…
「えっ…ここは」
場所が問題だった。
貴族街の先へ行くと宮殿と言っていい程の大きなお屋敷に到着する。
「奥様、到着いたしました」
「どうぞ」
驚きながらもすぐに手を差し出しエスコートをする。
普段お母様をエスコートしているので自然と体が動いてしまった。
「まぁ、なんて素敵な騎士様かしら」
「光栄にございます」
お母様以外をエスコートするのは初めてかもしれない…いや、一人だけいたな。
もう夢の中でしか思い出すことができない小さなお姫様が一人いた。
庭園に隠れて人が怖いのだと泣いていた小さな女の子に俺は一輪の薔薇を差し出したのだ。
あの子は今、どうしているだろうか。
笑っているといいと思いながら感傷的になる中、御者に案内され屋敷に招かれたのだった。
屋敷に案内されると。
うん、場違いだ。
「お帰りなさいませ奥様」
「ただいま、旦那様をすぐにお部屋へ」
「旦那様!」
じいやと同い年ぐらいの女性がすぐに他の使用人に命じ男性を運んで行く。
「道中で体調を崩されたの。でも、この方が介抱してくださって大事に至らなかったのです。旦那様の恩人ですわ」
「まぁまぁ!この度は誠にありがとうございます。私はベルクハイツ家の侍女をしております。マーナ・グノーシスと申します」
「エリオル・ラスカルと申します」
とても優しいお婆さんだった。
お祖母様とは異なった雰囲気の人だったけどとても品が良くて、ホッと安堵する。
「マーナ、お茶は私の部屋に運んでください」
「はい、かしこまりました」
「さぁ、エリオル様‥参りましょう」
そう言いながら今度は俺がエスコートされてしまったが、これからどうなるんだろうか。
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