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序章.始まりの前奏曲
閑話4惹き合う心
フェリス公爵家。
四大公爵家の筆頭でもある存在だった。
フェリス公爵家令息のベルンハルトは王の甥と当たる。
「ベルン」
「殿下?」
ベルンハルトもウィルフレッド同様に身分故に孤独な存在でもあった。
「このような時間にお一人で…」
「問題ない、直ぐそばに監視はいるだろう?」
護衛とは言わず監視と言うのは護衛を信用していない証拠だった。
第一王子でありながらも母親の身分が低い為、常に危険に晒されていたことが一番の理由だった。
「最近はずっと侯爵家に滞在していらしたのですね」
「ああ、偶然エリオルに出会ったんだ。噂では知っていたが…やはり噂は当てにならんものだ。お前はどうだ?」
「ええ…とんでもない甘ちゃんです」
手厳しいベルンハルトではあるが貶す気は無かった。
良くも悪くもエリオルは甘すぎると思っていたのは事実だった。
「我慢するのに慣れているらしいが…一番はヴィオレッタ様を守る為だろうな」
「だとしても、守る為には時には戦わなくてはなりません。それに」
「ああ、馬鹿共は宝を手放そうとしている」
ラスカル家では目に見える宝石しか眼中になく、眠っている宝に気づきもしない。
気付いた時は手遅れだと言うのに。
「俺はそれなりにアイツを気に入っている」
「殿下…」
「能ある鷹は爪を隠すとは良く言うよ。あれは爪を隠している…」
僅かな時間であるが、ウィルフレッドはその爪を見た。
噂で叩かれる愚かで傲慢でどうしようもない嫡男と言うのは真っ赤な嘘で、誰が噂を流したなんか安易に想像が着く。
「俺はエルが欲しい」
「殿下…」
ウィルフレッドはよほど気に入った相手以外は愛称をつけて呼ばない。
出会って間もない人間に信じられなかったが、ベルンハルトも理解できた。
周りが打算だけ動く人間が多い中、ただ純粋に母を守る為だけ必死な姿は意地らしく感じる。
貴族として王族として常に模範となるように厳しく言われ育ったからこそ保護欲が強く、虐げられているのが性根がまっすぐな者であれば尚の事だった。
「だがアイツは俺の側にいることを断った」
「は?断った?」
「ああ、ロッドに仕える身なので無理だとな?考える暇もなく」
通常なら怒る所だが、ウィルフレッドの身分もしらなかったのだから責められない。
「世間知らずなのに恐ろしい」
「ああ、欲がない故に人誑しの天才かもしれない」
本人はまったく自覚がないが、天性の才を持っている。
いかに権力に財を持っていても人の心だけはどうにもできない。
「エリオルは他者の懐に入るのが絶妙だ。しかも本人は無自覚故に周りは警戒心を持たないし、懐に入れたくなる」
「ええ…なんと言うか無害です」
「だが、外交官にとって相手に警戒されないのは最高だ」
貴族社会にいるとどうしても私利私欲で動いてしまう。
対してエリオルは酷い仕打ちを受けたままでも心が優しく汚れていない。
「汚い人間ほど綺麗なモノに惹かれるからな!」
「私を見て言わないでください」
「何を言う腹黒の貴公子が」
「漆黒の貴公子です!」
ふざけ合いながらも夜空を見て笑顔を浮かべる。
「なぁベルン。俺はエルを側に置きたいんだ」
「存じております」
「馬鹿共はエルを手放した。なら俺が貰ってもいいと思わないか?」
笑っていながら目は氷のように冷たかった。
既にウィルフレッドはラスカル家は衰退していることを察している。
貴族の家とは武だけが優れていても意味がない。
いかに騎士団で活躍しようとも貴族の本文を忘れているような者など不要だった。
「現在、婚約しているシリガリー伯爵家も恐れるに足りませんね」
「問題起こさなければ見過ごしてやる…ただし長い目で見る気は無い」
既に目に余る行為を続けているのでこれ以上は許す気は無い。
「早々に手を打ちたい。協力してくれ」
「仰せのままに」
この日二人は、密かに計画するのだった。
魔の巣窟から天使を救う為に。
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