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第二部.薔薇の花嫁

7.公爵夫人の肩書

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アリシエの父親は王兄殿下という立場でありながら弟に王座を譲った。


当時、先王が病で早々に亡くなり王太后が王の代理を務めるも次の王と約束されていた。
勿論妻もそれを望むも、本人は辞退して弟が立太子した後に王となった。


その所為で元から冷めきっていた夫婦仲はさらに悪くなった。
そこに政略結婚で嫁いできたツェリーチェの存在は公爵家に波紋を呼んだ。

愛人を迎えるだけなら問題なかったが、嫁いで一年でツェリーチェのは子を身ごもり男子を出産してしまったのがそもそもの始まりだった。


中々子ができない正妻はツェリーチェを敵視した。
あからさまな嫌がらせがあっても立場を弁え別邸で大人しくしていた。

これまでは表向きは夫婦として接していたがアリシエが生まれ事で、何かが切れたように正妻は使用人にも当たり散らし、ツェリーチェは公爵家を出て行くことになった。


正妻との確執が酷く、一部の使用人に置い出される形だったが、公爵はツェリーチェとアリシエの身を守るべく別邸を用意させたのだった。


しかしその数年後に公爵夫人騒ぎを起こし一時、謹慎を命じられた邸で亡くなった。
飲んだ酒に毒が入っていたようで、発見された時は既に手遅れだった。


そのあまりな出来事を知ったのちも次期公爵夫人になるべく侍女達や貴族夫人は公爵に近づくもツェリーチェは距離を取った。


なんて哀れな公爵夫人。
同情はしないが憐れみを感じた。

何故ならそうなった原因は彼女にもあるから。
夫である公爵を支えることなく好き放題していた公爵夫人にも問題がある。

外に恋人を作り遊び歩き、子供ができにくいことで自分の役目から逃げたのだから。

対するツェリーチェは領地代行の役目を果たしながらも自分の地位を築きあげていた。
愛する息子は自分と同じ目に合わないようにしたいと思いながらも世継ぎ問題はどうしようもない。

だからせめて妻同士の諍いは手助けしようと思っていた。

しかし、幼少期にそんなやり取りを目の当たりにし。
社交界では他民族の血があることで散々差別され、財産目当てで言い寄って来た女性を嫌煙するようになった。


その所為で近しい者は疑いを持つようになった。
ご子息は男色家なのか?


けれどその時から既にアリシエの心の中にフローレンスが存在していた。
だからこそ他の女性を受け付けなかったし、潔癖症な所もあったので女遊びも拒否していた。




「恋は人を狂わせる…一人に愛情を注げば受け入れる側は大変なんだよ」

「経験者としてか?」

「まぁね、旦那様は可哀想なお人だ。政略結婚でありながらも前公爵夫人と心を交わせなかったからね…」

当初は妻を大切にしようと歩み寄ったが、上手く行かず。
王になれない出来損ないとして扱われ、夫婦仲は冷めきっていた最中、シプロキサンの王国との同盟を結ばなくてはならなかった。


「国の為に身を捧げる貴族ってのは哀れなものだよ」

「俺は父上を否定する気は無い。フローレンスと出会わなかったとしても俺は愛人を取る気は無かった」

もし妻を迎えたとしても愛情が芽生えなくとも役目を果たしてくれるなら妻の立場を守るつもりだった。

それが公爵家に生まれた運命だったし。


できれば他の異母兄妹達が継いでくれても良かったが、後継ぎはアリシエにと決められてしまったのだ。


「本当は継ぎたくなかった?」

「ああ…」

「でも、クラエス領地を守らないとだめだから断れなかったんでしょ」

「ああ」


真面目過ぎるのは父親譲りだと思った。
だからこそ心配していた。

「なら守りなさい。あらゆる外敵から…でも、今のままじゃダメ」

「母上」

「フローレンスが今のままじゃ互いに不幸になる。彼女に戦う覚悟がなければね?」

公爵夫人という肩書は甘くない。
王妃の次に継ぐ高い地位を預かる者としての責任と覚悟が伴うのだから。

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