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嵐の前の静けさ
しおりを挟む季節外れに雨が降る。
「失礼します」
「はい?」
部屋に訪れたのは近衛騎士団の一人だった。
装いからして団長に見えた。
「お初にお目にかかります妃殿下」
(妃殿下…)
大公妃になるので敬意を持って妃殿下と呼ばれる。
「私は近衛騎士団第二団長のクリステルと申します。本日より妃殿下の護衛を承りました」
(近衛騎士の団長が護衛!)
普通ならばありえない。
近衛騎士の団長が護衛に就くなんて。
「光栄でございます。私を妃殿下の護衛にしていただき」
膝をつかれ眩暈がする。
(やりすぎではないかしら)
これが王妃ならば納得がいく。
それをまだ結婚もしていない王族の婚約者にここまでする理由が解らない。
「あの…バッカス卿」
「どうかクリステルとお呼びください。貴女様は私どもの主となるお方です」
近衛騎士団のトップにいるのがレオンハルトなので将来的にはそうなるのだが。
未だに慣れない。
それどころか慣れろと言うのが無理な話だ。
「ご婚儀の際は我等第二騎士団が総力を持って妃殿下をお守りいたします」
「第二騎士団といいますと」
「二十名ほどございます。当日は式場には第一騎士団が護衛につき宮廷の周辺は第二騎士団、門の周りを第三騎士団が警備する予定でございます」
さらに眩暈がする。
いくら何でもやり過ぎだ。
「少し大げさすぎでは」
「これでも少ないぐらいでございます」
「はっ…はぁ」
外国から姫君を迎える際ならば解る。
アレーシャはアレンゼル王国出身で王族に入っても女王になるわけでもないのに大げさすぎる。
「アレーシャ様、貴女様は王太后様の後ろ盾に四公からも認められておいでです。そうなれば命を狙われる危険性も多いのです」
「はっ…はぁ」
「どうかご理解くださいませ」
ここまで言われれば何も言えず頷くしかなかった。
こうして厳重な護衛を置かれることになる。
一方牢屋にて。
薄暗い場所で灯りは蝋燭一本だけの場所にルクレチアとカテリーナ捕らえられていた。
「どうして私がこんな薄汚い牢屋に…この私が!」
牢屋の中でカテリーナは不平不満を零していた。
「あの小賢しい小娘の所為だわ…忌々しい」
「お母様!私は嫌よ!こんな牢屋も、召使として働いて貧乏生活なんて!」
「…ユスティーナ。私の大切なモノすべてを奪って。旦那様を…」
「お母様?聞いているの?ねぇったら!!」
カテリーナは母親になんとかしてくれとな頼む。
「うるさいわよ!」
バシッ!
「きゃあ!」
「大体お前が馬鹿なことをしたからこうなったのよ!!」
「私は悪くないわ!お父様の心が離れたのは誰の所為よ!」
思いどおりが行かないことに母親の所為にするカテリーナ。
今まで何もかも思い通りだっのにと言う。
「アレーシャの所為よ。あの女がいるからいけないのよ…あの悪女が」
全ては自分が招いたことなのにアレーシャを恨む。
カラン!
「誰!」
何処からか物音がする。
「奪われたなら取り返しなさい。欲しいなら奪いなさいな」
コツコツと足音が聞こえる。
「望みを全て叶えてあげてよ?」
フードを被った一人の女性が現れる。
「欲しいものは奪いなさい。殺してでも」
甘ったるい香りがただよい甘く囁かれた言葉はまるで悪魔の囁きのように聞こえた。
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