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第一章逆行した世界
8.顔合わせ
一週間後、顔合わせの日が訪れた。
「お初にお目にかかります。アレクシス・カステリアです」
「マリー・サンチェストです」
互いの顔合わせは王宮ではなく、公爵家の邸で行われた。
「よろしければこちらを」
「ありがとうございます!」
手土産に花とお菓子を渡され目を輝かせるも背中に視線が突き刺さる。
「あっ…いえ」
ここでお菓子に手を伸ばすのはいただけないと解っていても拷問だった。
「どうされましたか?」
「いいえ…」
シュンと項垂れるマリーは子犬のようだった。
まるで餌を取り上げられた子犬の様に思えたアレクシスは苦笑しながら侍従に告げる。
「人払いを」
「えっ…殿下?」
同席していたサングリアもギョッとなるが、王太子の命令に逆らえるはずもなく。
「かしこまりました」
侍従はその場を下がる。
サングリアも渋ってはいたが、仕方なく退席した。
「あの…」
「どうかお気になさらず」
アレクシスは気にせずお茶を飲む。
「君の為に用意させた菓子です」
「あっ…はい、いただきます」
差し出されたお菓子を口に運ぶと懐かしい味が広がり、涙が流れる。
「故郷の味だ…」
「今日の日の為に取り寄せたんですよ。いきなり王都に連れてこられてさぞ不安だろうと思いまして」
「殿下は親切な方ですね」
パクパクとお菓子を食べながらもストレートな言葉を投げかける。
「えっ…いや」
「態々お邸にも来てくださって、殿下はお優しいですね」
本来なら王太子が出向くのではなくマリーが行くのだが、王都に不慣れで王宮でも様々な噂が流れ、マリーの立場を考えての事だった。
「私はずっと田舎暮らしが長くて、煌びやかな王宮はどうも苦手で」
「君はずっと領地にいたのだな…寂しくなかったのか」
申し訳なさそうに尋ねるアレクシスは物心つく前から両親から引き離され、捨てられたという噂を聞き不憫に思っていた。
「いいえ、叔母がいました。それに従兄妹いてくれて…」
「そうか、君は幸せだったのだな」
マリーを見て確信した。
社交界で噂になっているような不幸な令嬢ではない。
不遇な扱いを受けていても本人は幸せだったのだ。
同時に、その幸せをいきなり奪われ、慣れない王都に無理やり連れてこられたマリーが哀れでならなかった。
「殿下」
「なんだい?」
「私は、殿下の後ろ盾になることはお約束できても、良き妻になることはお約束できません」
「は?」
いきなり何を言い出すのかと思ったアレクシスは間抜けな表情をしていた。
「良く考えてください。私みたいな血筋しかない貴族令嬢よりも、隣国の王女とか、宰相の御令嬢とかの方がいいと思うんです」
「いや…それは」
「私が王太子妃になんてなれば末代までの恥になりますので…いいお相手が見つかるまでは婚約者として振る舞いますからご安心を!」
さっきまでのしんみりした雰囲気はいきなりぶち壊される。
アレクシスは眩暈をしながらも耳を傾けていた。
「君は、それでいいのか?」
「はい!」
明るく元気に返事をされ、居た堪れない気持ちになったアレクシスはどうしたものかと考えた。
――かなり規格外の令嬢だ。
アレクシスは衝撃を受けるのだった。
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