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第三章悪役令嬢の道
8.氷の女帝
しおりを挟む美しい薔薇園を眺めながら薔薇の勝るとも大人らない美しい淑女を眺めながらマリーはご満悦気味だった。
本当に住む世界が違うと思うほど美しいと思った。
その一方で、疑問に思う。
どうして前世ではサングリアが婚約者候補の筆頭だったのだろうか。
ジョアアンナが正式な婚約者の方が納得できた。
美貌、気品、教養に関しても非の打ち所がない。
サングリアは優秀な令嬢であると評価されているが完璧とは言い難い。
しかしジョアンナはどうだろうか。
他者からは完璧な令嬢と呼ばれるだけあって仕草の一つ、一つが洗練されている。
「どうなさいまして?マリー様」
ジョアンナはマリーの視線に気づき、どうしたのかと思った。
「ジョアンナ様は女帝様なんですよね」
「まぁ、一部の方にはそう呼ばれていますわ」
あまり嬉しくない異名だと思っているが、マリーの言葉に他意はないので不快に感じることはない。
「やっぱり、女帝様になるには相当な努力をされたんですよね!」
「えっ…」
ジョアンナは、マリーの言葉に驚かざるを得なかった。
「マリー様…」
「はい?」
これまで社交界では、優秀な令嬢と評価されながらも、屈辱的な事を何度言われか解らない。
王族として、公爵令嬢として他の令嬢よりも秀でていて当たり前。
出来て当然で、少しでも間違えれば陰口を言われて来た。
物心つく前から、血のにじむような努力を重ねて来た。
元からの見込みが早く、才能はあっても、完璧な令嬢として相当な努力をして来た。
けれど、両親は出来て当たり前だと言うような視線を向けて来た。
全ては結果だけしか見ないが、本当は褒めて欲しかったし。
完璧と言われる裏で努力しているのだと叫びたかった。
けれど口を開けば。
『流石ジョアンナ様』
『天才ですわね』
『私達とは違うものね』
周りにいる貴族は口を開けば誉め言葉を放つが、その裏を返せば。
『本当に公爵令嬢はいいわね』
『何もかも持っていて』
『なんの苦労もなく…』
嫉妬が混じり、妬みの言葉が含まれていた。
だから、ジョアンナは軽々しく他者を羨み、言葉だけのお世辞を言う人間が大嫌いだった。
特に自分に甘く他人を妬むだけの人間は特に嫌いだった。
なのにマリーは違った。
ジョアンナが努力をしていることに気づいていた。
どんなに才能があろうとも、才能は器でしかないことをマリーは知っていた。
「私も、武者修行ぐらいすればジョアンナ様みたいに気品を身に着けられますか…いや、十年経っても難しい気が」
「まぁ、マリー様ったら」
「十年後じゃ私は完全なる行き遅れ…腐った果実です」
頭を抱えブツブツ言いだすマリーに苦笑するグレイス。
対するマリーは、本気で悩みはじめた。
「どうしよう…私が完璧な悪役令嬢になれなかったら…時間がない。十年後じゃ完全にアウトじゃない。何で一日は二十四時間しかないの?亀の如く遅い私じゃ二十年経っても無理な気がする」
独り言はさらに続き、周りの目を気にせず自分の世界に入ってしまっていた。
通常なら貴族令嬢としてあるまじき行為だったが、二人は思った。
「マリー様、なんて意地らしい」
「殿下の為に完璧な令嬢になろうと努力さなっていたのね…ああ、なんて可愛らしい方」
二人は涙を流しながら勘違いする。
悪役令嬢発言を聞き流し、ジョアンナを見習うべく完璧な令嬢になる為のアドバイスを求める姿に感銘を受ける。
こうして勘違いは続き、無自覚にも王族を誑し込んでしまっているの事に気づかないマリーだった。
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