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第三章悪役令嬢の道
17.心の扉
しおりを挟むお茶を飲みながら二人は他愛無い話をしながらも、すっかり仲良くなった。
「ロザリア様の髪はすごく綺麗ですね!」
風がそよぎ髪が靡くと光に反射して美しく輝く。
「赤褐色の髪がですか?」
「光に照らされると綺麗な赤毛です」
髪に触れながら見惚れる。
マリーの髪はかなりのくせ毛だったので、ロザリアのようなまっすぐな髪に憧れる。
「あ、ごめんなさい」
つい、馴れ馴れしく触ってしまった事を後悔する。
「別に深い意味は…セクハラをしようとし訳じゃないんです!決して邪な気持ちはなく」
「汚らわしくないのですか?」
「はい?」
あたふたするマリーにロザリアは震えながら告げた。
「汚らわしい?何故です」
「赤毛は忌み嫌われます。金髪が最も好まれる貴族社会では赤毛はみすぼらしいと言われます。私の髪は赤褐色ですので」
手を握りながらガタガタと震えるロザリアは再び下を見る。
「ロザリア様、鏡を見てください」
「私は…」
鏡を見るのは嫌いだった。
ずっと姉達に醜いと罵られて来たから。
怖かった。
「赤は美しい色です。薔薇は真っ赤です」
「えっ…」
「そして赤は情熱と勝利の象徴なんですよ?深紅の薔薇は他国では王者の品格を表します。赤が似合う女性は誰よりも気高く誇り高い…貴女は綺麗です」
頬を持ち上げられ強いまなざしを向けられる。
まっすぐにロザリアを見つめる視線は迷いなど感じられなかった。
「こんなにも美しい花を育てられる貴女が醜いはずはないわ。だって貴女の名前は薔薇なんだから!」
「マリー様…」
この時、ロザリアは思いだした。
亡くなった母親が何時も言っていた言葉を。
『ロザリア、貴女は薔薇のように美しくなるようにと願いを込めて、この名前をつけたのですよ』
『薔薇?』
『そうです。どんな逆境にも負けず誇りを持ち、気高さを忘れないように付けた名が薔薇です。そして祈りの意味も込められているのです』
ロザリアとは薔薇を意味し、そしてもう一つ意味があった。
祈りを意味していた。
「ロザリア様の名前は美しい響きを持ってるのに、もったいないわ!」
ずっと蔑まれてきた。
母親の身分が低すぎることで蔑まれ、母親の事も馬鹿にされてきた。
言い返したくてもできなくて、日陰で静かに生きるしかなかった。
そんな自分が嫌で仕方なかった。
けれど、本当は強くなりたかった。
ちゃんと言いたかった。
母は立派で自慢の人だったと。
誰かに恥じるようなことはしていないと言いたかったが、自信がないロザリアは誇れるものが何一つとしてなかった。
でも、マリーに褒められたことで何かが変わり出した気がした。
「行きましょうロザリア様!」
「マリー様!」
一人の世界に閉じこもっていたロザリアの扉をマリーは簡単にぶち壊してしまったのだった。
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