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第六章.逆行した世界で
19.屈辱の記憶
しおりを挟む見下していたはずの人間に馬鹿にされ、苛立つサングリアは所作など忘れて歩いて行く。
髪を乱し、スカートを翻していた。
その所作の悪さに、通りすがる生徒は目を反らしていた。
そして、進んだ先には――。
(あれはチャールズ?)
手には青い薔薇を持っていた。
王都でも青い薔薇はとても貴重で、高価だった。
高位貴族でも手に入れるのは難しい薔薇を持っていた事も気になるが、一番気になったのは、何故あの薔薇をチャールズが持っていたのかだ。
(あの薔薇をどうして…だって、あの薔薇は!)
青い薔薇をサングリアは逆行する前の時に見た事があった。
ただし、その薔薇を持っていたのはチャールズではなく別の人物だったが。
「これを受け取って欲しい」
「チャールズ様…本当にいいのですか?」
「私は君に受け取って欲しいんだ」
こっそり聞き耳を立てると聞きなれた声が聞こえ、目の前が真っ暗になる。
(どうして…ありえない!)
チャールズが青い薔薇を差し出した相手は、サングリアの憎い敵でもある人物だった。
「今度のダンスパーティーのパートナーになって欲しい」
「嬉しいです。チャールズ様」
青い薔薇を差し出した相手はアネットだった。
(そんな…アネットの相手は殿下だったはずなのに!)
足元が覚束なくなりながらも前世の記憶と言葉が重なる。
『アネット、私のパートナーになって欲しい』
『嬉しいです、アレクシス様』
同じように庭園で二人きりだった。
人目を忍び、青い薔薇を差し出し告白するシーンは同じだった。
違うのは、相手がアレクシスではなくチャールズだったのだ。
この国にでは、好きな女性に自分の瞳の色の贈り物をする習慣がある。
特に自分の瞳の色の薔薇を贈る行為は特別な意味合いを持ち、愛の告白を意味していた。
(嘘よ…何で、このタイミングで?早すぎるわ)
ガタガタと震えるサングリア。
告白のシーンは二年後のはずだったのに、まだ早すぎる。
どうして過去と違うのか。
(何で…どうして!)
これ程の裏切りは許せないと思ったサングリアはチャールズを睨んだ。
(私を裏切ったの?)
しかし、サングリアは勘違いをしていた。
既に婚約は解消になっており、二人の関係は従兄でしかない。
しかも、領地で騒ぎを起こしてしまった所為でサングリアの立場は危うかった。
チャールズがなんとか庇っているが、万一にでも新たな婚約者ができればどうなるか明らかだった。
サングリアは修道院に入れられるか、もしくは、伯爵以下の子息に嫁がされるかのどちらかだった。
公爵令嬢としてそんな惨めな生き方は許せない。
サングリアは、王族かそれに近しい高貴な身分以外に嫁ぐなんて許せなかったのだ。
だが、目の前で微笑み合う二人はどう見ても相思相愛同士に見え。
かつて、アレクシスと微笑み合ったような笑みを浮かべるアネットがそこにいた。
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